独りぼっちで泣き、悪夢を見る 心を病むアフリカの子どもたち

2018年10月30日

コンゴ民主共和国の病院で心理カウンセラーと話す青年 © Sara Creta/MSF コンゴ民主共和国の病院で心理カウンセラーと話す青年 © Sara Creta/MSF

国境なき医師団(MSF)が世界中で援助している人びとのうち、半分以上を占めているのが子どもだ。全人口の50%近くが18歳未満というアフリカでは、子どもの健康を支えることは大陸の「未来」を支えることでもある。そのアフリカ大陸で深刻になっているのが、子ども・青少年の心の健康問題だ。アフリカは世界で最も多くの子どもたちを抱えながら、最も多くの子どもたちが、人の作り出した災害・危機から避難を強いられている。 

母親は聖水で治そうと…

MSFの心理ケアを受ける17歳のエフライムさんと、母親のアフーさん © Gabriele François Casini/MSFMSFの心理ケアを受ける17歳のエフライムさんと、母親のアフーさん © Gabriele François Casini/MSF

エフライムさんが初めてエリトリアとエチオピアを隔てる国境を越えようとしたのは、まだ14歳のときだった。目的は他の大勢の人と同じで、リビアにたどり着くこと。しかし捕まって投獄され、暴行も受けた。その後エリトリアへ強制送還され、軍刑務所へ1ヵ月と3週間にわたり収監された。体の不調が始まったのはこの時からだ。強い圧迫感と繰り返される悪夢。食事もとらず他人を避けるようになり、軍はついに母親を呼んだ。

「母は、聖水を使った伝統療法に7日連続で僕を連れて行きました。症状は治らず、僕はどうやってまた国外脱出するか、そればかり考えていました。刑務所から戻った2週間後には、またエチオピアに行こうとしていました」

その後も何度か国外脱出を試みて、3年後、エフライムさんはエチオピアに入った。持ち物はごくわずか。代わりに、それまでの数年間に受けた拷問、暴力、虐待で不安症と心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱えていた。
 

エチオピア北部、ヒツァツ難民キャンプのMSF心理ケアチーム © Gabriele François Casini/MSFエチオピア北部、ヒツァツ難民キャンプのMSF心理ケアチーム © Gabriele François Casini/MSF

エフライムさんが助けを求めた先が、エチオピア北部のヒツァツ難民キャンプにあるMSF心理ケア・センターだ。MSFはそこで、カウンセリング、入院・外来精神医療のほか、治療的ディスカッションや心理教育などを行っている。治療を終えたエフライムさんは、最終的にMSFで職を得て、心の不調と闘う他のエリトリア人難民を助けている。

ヒツァツ難民キャンプで暮らす人の約40%が18歳未満で、その半数が1人で移動してきたか、家族とはぐれている。こうした境遇の若い患者が、自分の身に起きていることを話し合い、それを乗り越える方法を知る場所が必要なのだ。
 

内戦、暴力、そして避難生活

コンゴ民主共和国の国内避難民キャンプで暮らす少女 © John Wessels コンゴ民主共和国の国内避難民キャンプで暮らす少女 © John Wessels

子どもと青少年の心の病に関して、有病率を示す数値はなかなか手に入らない。2017年の国連報告書によると、全世界の3分の2の国に精神障害のデータがなく、データのある国でも、子どもと青少年のデータがないことが多い。一方で、ヒツァツ難民キャンプのエフライムさんのようにアフリカでは大勢の青少年、特に避難生活を送る青少年が心のケアを必要としている。 

ウガンダ北部ユンベのビディビディ難民キャンプで暮らす兄弟ウガンダ北部ユンベのビディビディ難民キャンプで暮らす兄弟

ウガンダ北部のユンベにも、心に傷を負った子どもたちが大勢いる。ウガンダは、隣国の南スーダンでもう5年近く続く内戦を逃れてきた人の主な避難先であり、いまやアフリカで最大の難民受入国ともいわれている。

2018年6月、MSFの精神科准医師ジョシュア・ムウウエベンベジは、頭痛とめまいを訴える14歳の患者に対応した。少年は民兵に拉致され、紛争で家族も失っていた。その心の傷は、目に見えるようだった。

「少年はいつも一人で過ごし、食べ物も拒み、ほとんど寝ていませんでした。私たちが診ている子どもたちは、こうした傾向が見られます。独りぼっちで泣き、他の子と遊ぼうとせず、悪夢を見たりするのです」

幸い、この少年は治療を受け、キャンプで家族と再会も果たし、快方に向かっているという。
 

見過ごされる子どもの心

チュニジアの難民施設でMSFの心理ケアを受ける難民の若者たち © Kristof Vadinoチュニジアの難民施設でMSFの心理ケアを受ける難民の若者たち © Kristof Vadino

心が傷つきやすいのは子どもたちであるにもかかわらず、救いの手から漏れてしまうことが多い。若者は成人に比べるとはっきりと自己表現ができず、自分自身の心の状態もよくわかっていない。

子ども時代の心的外傷を治療しないと、成人してからの精神障害リスクが大幅に高まる。WHOの報告書によると、健やかな精神は身体の健康の基盤であり、社会生活を送る力にも関係している。たとえば「うつ病」を患っているとは、高血圧や卒中、糖尿病、結核など、他の病気にかかる可能性も高くなる。
 

リビアからのゴムボートが沈み、2日半も漂流したナイジェリア出身の少女 © Kristof Vadinoリビアからのゴムボートが沈み、2日半も漂流したナイジェリア出身の少女 © Kristof Vadino

 MSFの心理ケア顧問、クリスティーナ・カレーニョ・グラリアは「子どもが適切な支援を受けられないと、心の健康問題が発達の妨げになり、長期にわたって深刻な影響を及ぼす恐れがあります」と語る。一方で、保護者のケアや治療をきちんと受けられれば、子どもは成人より早く回復する。

だが、心の傷に苦しむ子どもたちを支えるなかで、戸惑い、力不足を感じる保護者は多い。心理的・社会的支援は患者である子どもたちだけでなく、彼らを支える保護者にとっても欠かせない。生後から思春期まで、子どもには家族、友人、保護者からの愛情と継続的な支えが必要だ。だからこそ、保護者にも心配事や子どもの症状を相談する安全な場所が必要となる。

対策が不足するアフリカ

コンゴ民主共和国でMSFの治療を受ける少女 © John Wesselsコンゴ民主共和国でMSFの治療を受ける少女 © John Wessels

人道危機に直面した人、あるいはもっと一般的な、日常生活のストレスに直面した人にとっても、心の健康はすべての人に関わるものだ。WHOの試算では、心の病に苦しむ人は世界全体で約450万人いるという。そのうちの85%が低・中所得国で暮らしている。

そしてアフリカ地域では、心の健康問題の予防・発見・治療の手立てが特に少なく、心理ケアを受けられる人は全体の20%に満たない。心理ケアの専門知識を持った人材が決定的に不足しており、精神科医は人口100万人あたりに1人。心理療法士もごくわずかしかいない。
 

ウガンダ北部の難民キャンプで話す女性たち © Geraint Hill/MSFウガンダ北部の難民キャンプで話す女性たち © Geraint Hill/MSF

アフリカで心のケアが十分に行われないのは、問題が周知されていないからである。ウガンダのユンベで活動中の心理療法士パトリック・オコリは指摘する。「心の問題が良く知られていないため、対策が不十分だったり、逆効果なことさえあったりします。多くの人が心の健康について聞いたこともありません。自分の感情を見つめなおすことなんて、初めての体験なのです」 

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