ミャンマーで新たな戦闘の波──厳しい規制の中、医療にも深刻な影響

2024年01月31日
診療所に荷物を運ぶMSFのスタッフ=2022年3月 Ⓒ Ben Small/MSF
診療所に荷物を運ぶMSFのスタッフ=2022年3月 Ⓒ Ben Small/MSF

ここ2カ月間、新たな戦闘の波がミャンマーに押し寄せている。シャン州 、カチン州、ラカイン州で医療・人道援助を行う国境なき医師団(MSF)は、医療施設の破壊や放棄、そして何十万人もの人びとが安全を求めて避難する様子を目撃している。

2023年11月13日、ラカイン州で紛争が再燃し、1年にわたる非公式停戦が破られた。それ以来、MSFは厳しい移動制限により、週に約1500人の患者の診療に当たっていた25の移動診療のいずれも運営できなくなっている。

地域保健担当者の声

制限下において、患者と医師との遠隔カウンセリングといった診療も試みてきた。しかし、患者に実際に会えるスタッフはMSFの地域保健担当者などごくわずかにとどまっている。

ミンビャのアンター診療所は、ラカインとロヒンギャという二つの民族からなる4000人余りの国内避難民を支援している。しかし11月13日以降、MSFはこの診療所を運営できていない。また、11月17日には、MSFが緊急搬送先としているミンビャ総合病院が銃撃を受けた。

現地の状況を、アンタ—診療所で働くスタッフの一人は次のように話す。

私の名前はアウン・アウン(通称)です。ミンビャにあるアンター診療所で、地域保健担当者として働いています。

紛争前後でここの状況は大きく変わりました。以前は規則正しく平穏に仕事をすることができたのに、今回の戦闘の後にはそれは不可能になりました。それどころか、何か起きるのではないかと常に気がかりで、道を歩くのも危険を感じて、畑を通る回り道をしています。もう安全ではありません。

私は地域保健担当者なので、医療スキルは限られています。いまの私にできることは、医師に電話をかけ、その指示に従って患者の面倒を見ることだけ。それも時々、携帯電話の接続がうまくいかなくて、連絡を取ることも難しいことがあります。

糖尿病や高血圧といった非感染性疾患の患者もいますが、いまは薬がありません。今後、地域保健担当チームとしてどう手配するかはまだ分かっていません。現在は妊婦用とてんかん患者用の薬があります。非感染性疾患患者のために何ができるか、いまのところはっきりしたことは言えません。

ガソリン価格の高騰も目下の大問題です。人びとが診療所に行こうとすると、往復で6万チャット(約4234円)ほどかかります。この街は私たちの村から5マイル(8キロメートル)ほどしか離れていません。それなのに、医療費そのものよりも交通費の方が高いなんて……。この価格高騰は、戦闘が起きた時に始まりました。以前は2000チャットから2500チャット(約141円~176円)程度ですんだのです。

村の患者さんたちのことが心配だし、気がかりです。

今後、急患や毎月処方箋が必要になる患者さんは多くの困難に直面するでしょう。道路の封鎖と戦闘が続く限り、ミンビャの診療所や薬局は閉鎖されたままなのです。

ラカイン州ではMSFのカウンセラーが患者に心のケアの提供も=2023年3月 Ⓒ Zar Pann Phyu/MSF
ラカイン州ではMSFのカウンセラーが患者に心のケアの提供も=2023年3月 Ⓒ Zar Pann Phyu/MSF

人びとの健康に壊滅的な影響

ここ数カ月のミャンマー全土における暴力のレベルは前代未聞だ。救命体制が機能しないか、アクセスが限られ危険なため、戦闘地域やその周辺に住む人びとに深刻な影響を与えている。

ラカイン州に住む人びとは以前から人道援助に多くを頼っている上に、移動の自由も制限された状態で暮らしている。紛争前に州内で許可されていた援助活動は、移動診療の担当地域住む農村地帯の人びとや、他に安価な診療を受けられない人びとにとって、命を繋ぐために必要なものだった。

ラカイン州北部にある国内避難民キャンプ=2023年10月 Ⓒ Zoe Bennell/MSF
ラカイン州北部にある国内避難民キャンプ=2023年10月 Ⓒ Zoe Bennell/MSF


人道援助団体によるラカイン州での活動は、常に細心の注意を払って管理されてきたが、現在のような制限が続けば、人びとの健康に壊滅的な影響を与えることになる。

MSFの地域保健担当者は、常用薬がなく、医師と話せない患者や、二次医療へのアクセスが妨げられ、遠方で診療を受ける経済的な余裕がない患者にも対応している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国際移住機関(IOM)が共同で主導する「グローバル・キャンプ・コーディネーション&キャンプ・マネジメント・クラスター(Global Camp Coordination and Camp Management cluster)」の最新データによると、2023年11月13日以降、ラカイン州では12万人余りが新たに避難し、その勢いは止まることなく続いている。

医療活動の継続とアクセスの保証を

ラカイン州中部の病院は、激しい銃撃を受けたり、スタッフが地域から避難せざるを得なくなったりしたために機能していない。MSFが通常、救急患者を受け入れているラカイン州中部にある病院2カ所も機能しなくなり、もう1カ所のミンビャ総合病院は11月17日に被害を受けた。

一方、ラカイン州北部では、地域保健担当者の支援によって、緊急搬送が可能になったところもある。しかし、医療施設は稼働しているものの、一部の施設は最小限のスタッフと限られた医療物資で機能しているか、安全を求めて移動する避難民を支援するために、より遠隔地にリソースを振り分けている状況だ。

現地への道は封鎖され、援助活動を行う許可もないため、MSFは25の移動診療を実施することができないままだ。こうした制限は他の人道援助団体にも影響を及ぼしており、多くの団体が通常の支援活動を行えないと報告している。

医療施設と人道援助従事者の活動継続、そしてラカイン住民が安全に医療を受けられるよう保証することが紛争当事者に求められている。

MSFのカウンセラーと地域保健担当者は、村や診療所、国内避難民キャンプで人びとを継続的に支援してきた=2023年3月 Ⓒ Zar Pann Phyu/MSF
MSFのカウンセラーと地域保健担当者は、村や診療所、国内避難民キャンプで人びとを継続的に支援してきた=2023年3月 Ⓒ Zar Pann Phyu/MSF

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