【イベント報告】人道援助コングレス東京2020「コロナ禍における人道援助とその課題」

2020年12月16日掲載

11月に開催された東京発の「人道援助コングレス」。世界各地から13人がオンラインで登壇した11月に開催された東京発の「人道援助コングレス」。世界各地から13人がオンラインで登壇した

人道援助はいま、新たな困難に直面している。長引く紛争、難民の大幅な増加、気候変動、そして新型コロナウイルスの世界的大流行……。さらにナショナリズムの台頭や対テロ政策などが、援助活動の遂行に重くのしかかる。

このような現状を踏まえ、人道援助のあり方を改めて議論するため、国境なき医師団(MSF)は11月26日~27日、「人道援助コングレス東京」をオンラインで開催。例年、ドイツやオーストリアではMSFが他団体と共催している「Humanitarian Congress」だが、日本では初の試みとなる。

「コロナ禍における人道援助とその課題」をメインテーマに、医療への攻撃、新型コロナワクチンなど医薬品の分配問題、そしてイエメン危機という3つのトピックを討論。各セッションでは、世界保健機関(WHO)や赤十字国際委員会、日米の大学などから有識者が招かれ、それぞれ発表を行った。

専門的な内容にも関わらず、オンラインでの視聴者数は、各セッション120から150人にまでのぼった。参加者からはリアルタイムで鋭い質問がいくつも投げかけられ、出演者たちの議論をより深めることとなった。 

プレセッション:MSFによる人道医療援助の実践と直面する危機

「独立・中立・公平」というMSFの3原則は、活動の安全を維持する上でも不可欠なもの。最初に登壇したMSF日本事務局長の村田慎二郎は、まずその理由を説明し、非武装のMSFにとって最も確実な安全対策は「受け入れの戦略(Acceptance Strategy)」だと述べる。そして、関係者の理解を得ることで安全を確保するというこの戦略には、5つの主要な方針と6つのプロセスがあることを紹介。なかでも現地のあらゆる人びと(Actors)と関係を築き、状況をよく把握することが第一歩だと語った。

一方、これまで有効だったMSFのこの戦略がいま、一部の活動地域で危機に直面している。911以降、各国でテロ対策法が施行されたためだ。

プレセッション後半では、MSF人道・外交担当代表のレシュマ・アダティアが、テロ対策法が人道援助にもたらす影響を解説。これまで国際人道法によって保護されてきた人道援助活動が、新たなテロ対策法によっていかに犯罪と解釈され得るか──国際人道法と対テロ法、2つの法の間にある解釈の違いを具体例とともに指摘し、今後の対応策を提言した。 

MSFインターナショナル 人道・外交担当代表のレシュマ・アダティアとMSF日本事務局長の村田慎二郎 © MSFMSFインターナショナル 人道・外交担当代表のレシュマ・アダティアとMSF日本事務局長の村田慎二郎 © MSF

プレセッションの動画はこちら
(本セッションは日英同時通訳付きで実施されました。音声は話者の言語となります)

セッション1:医療施設に対する攻撃

紛争地では、医療施設や医療従事者を標的とした攻撃が年々増えている。また今年のコロナ禍においては、感染症への不信や恐怖心から医療従事者への差別、さらには医療施設への攻撃といった暴力行為が起きる事態が世界各地で散見された。

赤十字国際委員会(ICRC)のマーチェイ・ポルコウスキ氏は、「危機に立つ医療(Health Care in Danger)」キャンペーンを紹介し、武器携帯者や市民への意識・行動変容の働きかけ、国内法の適用の改善、医療施設・体制における暴力対応策などの取り組みに言及。そしてそれぞれについて赤十字運動のパートナーと共に実施し、効果を上げた事例について語った。

続いて村田が、アフガニスタンやイエメン、シリアでMSFが過去に受けた攻撃をスライドで提示。その後に、医療従事者と医療施設の保護に関する2016年の国連安保理決議や、MSF日本の「病院を撃つな!」キャンペーンなどにつながっていった経緯を紹介した。しかし昨年も医療施設への攻撃は1203件を数えたように、事態は一向に改善されておらず、その背景にはテロ対策法の影響があると語った。 

この日最後に登壇したジョンズ・ホプキンス大学のレオナルド・ルーベンスタイン教授は、紛争地ではなぜ医療への攻撃は行われるのか、との観点から分析を披露。その「暴力の論理」には主に5つのロジックがあり、医療ケアを奪うことの戦術的な利点(敵の軍事力や戦闘意欲の低下、医療施設や資源の獲得)、あるいは政府機関への信頼欠如の誇示などが挙げられるとする。そのうえでこれらのロジックを克服するために各国で、そして国際社会が対処すべき課題を明らかにした。

上段左からモデレーターを務めた古谷修一氏(早稲田大学大学院法務研究科教授)、マーチェイ・ポルコウスキ氏(赤十字国際委員会Health Care in Danger プロジェクト統括)。下段左から村田慎二郎、レオナルド・ルーベンスタイン氏(Safeguarding Health in Conflict Coalition代表、Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health教授) © MSF上段左からモデレーターを務めた古谷修一氏(早稲田大学大学院法務研究科教授)、マーチェイ・ポルコウスキ氏(赤十字国際委員会Health Care in Danger プロジェクト統括)。下段左から村田慎二郎、レオナルド・ルーベンスタイン氏(Safeguarding Health in Conflict Coalition代表、Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health教授) © MSF

セッション1の動画はこちら
(本セッションは日英同時通訳付きで実施されました。音声は話者の言語となります)

セッション2:新型コロナウイルスワクチン・治療・検査への公平なアクセス

セッション2のモデレーターを務めた
MSF日本会長 久留宮隆 © MSFセッション2のモデレーターを務めた
MSF日本会長 久留宮隆 © MSF

「ワクチン外交」「ワクチン・ナショナリズム」これらは新型コロナウイルス感染症のワクチンをめぐり、国際社会における自国のプレゼンスの向上や、各国政府が繰り広げる争奪戦を揶揄(やゆ)した言葉だ。

ワクチン開発は着実に前進しているが、その一方で製薬会社による知的財産の独占、中低所得国への公平な分配など、多くの問題が指摘されている。セッション2では、これらの課題と解決に向けた取り組み、そして国際社会のあるべき姿について、3人の有識者による発表が行われた。

世界保健機関(WHO)のシルヴィ・ブリアン氏からは、新型コロナの診断検査法、治療法、ワクチンの開発・生産と公正な分配、保健システムの強化を目的とする国際的枠組み「ACTアクセラレーター(Access to Covid-19 Tools-Accelerator)」、そして中低所得国を含めワクチンへの公平なアクセスを確立することを目指す「COVAXファシリティ」の取り組みなどについて語られた。
MSFアクセス・キャンペーンのシドニー・ウォンは、価格や身近に医療施設がないなどの理由で薬を入手することができない人びとがいるという現状と「新型コロナに対応する医薬品は『世界の公共財』である」という観点から取り組み強化の必要性を訴え、またDNDiの中谷香氏からは、薬の研究開発分野における知識やデータの共有を通じた国際協力の重要性が示された。 

上段左からシドニー・ウォン(医師、MSFアクセス・キャンペーン共同ディレクター)、久留宮隆(MSF日本会長)。下段左から中谷香氏(DNDi Japan事務局代表)、シルヴィ・ブリアン氏(医師、WHO感染リスク管理—エピデミック・パンデミック疾患対策部ディレクター) © MSF上段左からシドニー・ウォン(医師、MSFアクセス・キャンペーン共同ディレクター)、久留宮隆(MSF日本会長)。下段左から中谷香氏(DNDi Japan事務局代表)、シルヴィ・ブリアン氏(医師、WHO感染リスク管理—エピデミック・パンデミック疾患対策部ディレクター) © MSF

セッション2の動画はこちら 
(本セッションは日英同時通訳付きで実施されました。音声は話者の言語となります)

セッション3:イエメンの人道状況

セッション3の冒頭、「イエメンと聞くと紛争や飢餓など暗いイメージがあるかもしれませんが、もとはとても素晴らしい国なんです」と発表を行ったのは、日本貿易振興機構(ジェトロ)の佐藤寛氏だ。豊かな自然、世界遺産の建造物、歌や踊りを愛する国民性など、紛争によって破壊される前の人びとの暮らしぶりが、スライドとともに紹介された。

5年以上にわたる紛争によって、イエメンは深刻な人道危機に瀕している。日本ではあまり報道されない同国の現状、そして求められる援助や課題について、モデレーターである藤谷健氏(朝日新聞編集担当補佐)を中心に、前述の佐藤氏、イエメンの首都サナアに駐在する国連世界食糧計画(WFP)の大垣友貴美氏、そしてこれまで同国での活動に3回従事した経験を持つMSFの落合厚彦がパネリストとして登壇し、討議が行われた。 

上段左から落合厚彦(元MSFイエメンプロジェクト責任者)、大垣友貴美氏(国連世界食糧計画(WFP)イエメン事務所)。下段左から佐藤寛氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所 上席主任調査研究員)、藤谷健氏(朝日新聞 編集担当補佐) © MSF上段左から落合厚彦(元MSFイエメンプロジェクト責任者)、大垣友貴美氏(国連世界食糧計画(WFP)イエメン事務所)。下段左から佐藤寛氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所 上席主任調査研究員)、藤谷健氏(朝日新聞 編集担当補佐) © MSF

各登壇者は、医療システムの崩壊、食糧危機、新型コロナウイルスが与える影響、援助にかかる資金確保の難しさなど、イエメンの人道状況が直面する問題を実体験とともに報告。後半の質疑応答では、視聴者から寄せられた質問に答える形で、この人道危機を改善するためにとるべきアクションが語られた。3人の有識者が考える国際協力のあり方、そして日本にいる私たちができることとは──。 

イエメンで空爆により破壊された自宅の前に立つ男性 🄫 Agnes Varraine-Leca/MSFイエメンで空爆により破壊された自宅の前に立つ男性 🄫 Agnes Varraine-Leca/MSF

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