雪山を歩き続け──極寒のイタリア、ボランティアがつなぐ難民の命
2021年02月05日ここはイタリア北部の国境地帯。雪に覆われた山を歩いているのは、アフリカや中東からやってきた難民たちだ。祖国での暴力や貧困から逃れ、安全で人間らしい暮らしを求めてフランスへの入国を試みる移民・難民がここ数カ月の間に急激に増えている。
寒さや飢えなどさまざまな苦難に直面しながらも、数千キロの道を歩んできた人びと。しかし国境の町ではイタリア当局からの支援は一切なく、医療や人道的な援助は、国境なき医師団(MSF)のサポートを受けた有志の個人や団体、地元住民が担っている。近隣諸国との国境付近にあるいくつかの町から、移民・難民の置かれた現状を伝える。
国境の町からの報告
ヴェンティミーリア(イタリア北西部)
フランスと国境を接するヴェンティミーリア。2020年7月にイタリア政府がロイア河畔の一時滞在キャンプ閉鎖して以降、移民・難民は路上や廃墟ビル、砂浜での寝泊りを余儀なくされている状況だ。現在公式の受入施設は存在せず、有志の個人や団体が毎日温かい食料を配給し、子どもを連れた家族に滞在場所を提供している。
2020年10月に起こった大規模な洪水の後には、10人の遺体が発見されたが、うち8人は身元が判明しておらず、川沿いで寝ていた人たちが水に流されてしまったのだろうと推測される。
2020年10月に起こった大規模な洪水の後には、10人の遺体が発見されたが、うち8人は身元が判明しておらず、川沿いで寝ていた人たちが水に流されてしまったのだろうと推測される。
ボルツァーノ(イタリア北部)
オーストリアと国境を接するボルツァーノでは、約120人の移民が路上生活を送る。ここには今も国境を越えようと人がやって来るが、ボルツァーノとオーストリアのチロル州をつなぐブレンナー峠は現在封鎖中だ。
およそ50人が身を寄せる高速道路下の環境は劣悪で、ごみの山に囲まれたぼろぼろのテントの間をネズミが走り、清潔な水やトイレすらない。
MSFは地元で活動するNPO団体「ボーツェン・ソリダーレ」と協力し、ここで生活する人々に寝袋、毛布、靴、衣類などを配布している。
およそ50人が身を寄せる高速道路下の環境は劣悪で、ごみの山に囲まれたぼろぼろのテントの間をネズミが走り、清潔な水やトイレすらない。
MSFは地元で活動するNPO団体「ボーツェン・ソリダーレ」と協力し、ここで生活する人々に寝袋、毛布、靴、衣類などを配布している。
トリエステ(イタリア北東部)
トルコを経由して移動してきた移民・難民は、ギリシャ、セルビア、クロアチア、スロベニアなどの国々を通る「バルカンルート(※)」を歩き、イタリア北東部の町トリエステへとたどり着く。
※バルカンルート:アフリカ、中東からギリシャに入った移民・難民が、バルカン半島を経由し、フランス、ドイツ、北欧諸国などへ向かうルート。
こうした人たちの中には、旅の途中で強盗に遭って所持品を奪われたり、裸足で歩いたために足にけがを負ったりしている人も少なくない。トリエステでは夜になると、駅前の広場でボランティアの人たちが温かい食事や飲み物を振る舞い、必要に応じてけがの治療も行っている。
※バルカンルート:アフリカ、中東からギリシャに入った移民・難民が、バルカン半島を経由し、フランス、ドイツ、北欧諸国などへ向かうルート。
こうした人たちの中には、旅の途中で強盗に遭って所持品を奪われたり、裸足で歩いたために足にけがを負ったりしている人も少なくない。トリエステでは夜になると、駅前の広場でボランティアの人たちが温かい食事や飲み物を振る舞い、必要に応じてけがの治療も行っている。
移民・難民を保護する責任は政府にある
ヴェンティミーリアで移民・難民を対象に食事や宿泊先の手配、法律相談などを行うNGO「国際カリタス」の責任者であるクリスティアン・パピーニ氏によると、新型コロナウイルス感染拡大によって、団体の援助活動は大きな影響を受けたという。「シャワーの提供が中止に追い込まれ、食料配給も屋外で行っています。避難民のための一時キャンプは閉鎖し、状況は悪化する一方です。ここに滞在する人びとは疲弊し、希望を失いつつあります。この先もっと人が増えれば、状況はさらに深刻になるでしょう」
公的機関の関与がほとんどない中、ボランティアや地元住民は移民・難民の人びとが尊厳のある暮らしを確保できるようにと尽力している。
しかし、移民政策を見直し、疎外と苦しみよりも援助と保護を確かなものにする責任は、本来政府にあるはずだ。MSFはイタリア政府に対し、すべての国境地帯で保護を求める人々を受け入れ、人道・医療援助を提供するよう強く訴える。