「ここなら安心して赤ちゃんを産める」 紛争に翻弄されたイラクの女性たちを支える病院

2019年09月25日掲載

赤ちゃんを自宅で産むか、病院で産むか——。イラク北部の都市モスルでは、多くの女性が危険な自宅出産を余儀なくされている。紛争が、貧困が、女性たちの安全な出産を阻んできた。国境なき医師団(MSF)は、モスル西市街で2つの産科病院を運営し、安全な分娩を無償でサポート。週に約170人の赤ちゃんが誕生している。

8人目の子どもを生む場所は

MSFが運営するモスルの産科病院で生まれた赤ちゃん © MSF/Maya Abu AtaMSFが運営するモスルの産科病院で生まれた赤ちゃん © MSF/Maya Abu Ata

この日、MSFの病院の朝一番の患者は、32歳になるアッシアさん。8人目の子どもの出産が迫っている。彼女は、この5年間は自宅で赤ちゃんを産んできたと言う。

「ISに力があり紛争が続いていた時期は、とても危険でした。外に出ることはできず、自宅で産むしかありませんでした。道路は封鎖されていて、一歩外に出たら命の保証がないのです。3人の子を自宅で産みましたが、自宅での出産は、赤ちゃんの安全の面でも、私の体の面でも心配でした」とアッシアさんは話す。まもなく誕生する8人目の子どもは、MSFの病院で出産することができる。

今もモスルでは、多くの女性たちが危険な自宅出産を余儀なくされている。その背景には、地元の病院で請求される料金を支払えないことや、MSFのような無償の診療を知らないということがある。さらに、伝統的分娩介助者に付き添われて自宅で出産する方がよいと、家族が信じていることもあるのだ。

8人目の子を出産するアッシアさん © MSF/Maya Abu Ata8人目の子を出産するアッシアさん © MSF/Maya Abu Ata

母親と赤ちゃんを無償で支える

「私だったら、自宅での分娩はしません──。分娩後出血は本当に怖いものですからね」とMSFの助産師であるインティッサールは話す。彼女は地元モスルの出身だ。「最近では赤ちゃんは病院で産みましょうと女性たちに勧めています。安全な分娩に必要なものは全てそろっているからです。妊娠中の女性の体調は、あっという間に悪くなることがあります。何らかのトラブルに見舞われて帝王切開が必要になることも少なくありません。病院の方がずっと安全なんですよ」

モスル奪還戦終結の公式宣言から2年余りが経ち、ふだんの暮らしが市街に戻ってきつつある。だが、医療体制の復旧は遅々として進まない。医師や医療従事者の多くは、戦闘の間に市外や国外に避難したままだ。

MSFは、2017年にモスル西市街で産科専門の病院を開院した。医療事情が特に悪い地域で、安全で質の高い、無償の産科・新生児ケアを担っている。さらに今年7月にはもう一つの産科病院を開院し、より多くの女性と赤ちゃんを援助できるようになった。

これら2つの病院の職員は、ほぼ全員女性だ。熟練したイラク人スタッフと外国人で構成されたチームが、毎週おおよそ170人の赤ちゃんの誕生を支えている。2019年1月1日から8月31日までに、MSFがモスルで出産を手助けした女性の数は、5176人に上る。今日も、病院では元気な産声が響いている。

病院では病児や未熟児や病児への特別なケアも行っている  © MSF/Maya Abu Ata 病院では病児や未熟児や病児への特別なケアも行っている  © MSF/Maya Abu Ata

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