コンロの火が部屋じゅうに・・・顔や手足、全身をやけどした子どもたちに専門の治療を

2019年07月17日

カイヤラの病院でやけどの治療を受けた2歳半の男の子 退院できるまでに回復した © Candida Lobes/MSFカイヤラの病院でやけどの治療を受けた2歳半の男の子 退院できるまでに回復した © Candida Lobes/MSF

イラク北部のカイヤラの町は、過激派組織「イスラム国」の拠点だったモスルから南に70km、チグリス川の西岸に位置している。2016年8月にイラク政府軍に奪還されるまで、2年半にわたって「イスラム国」の支配下にあった。カイヤラ付近には6つの避難民キャンプが点在し、10万人ほどの国内避難民が暮らしている。国境なき医師団(MSF)はこの町で病院を運営し、毎月330件余りの診療を行っている。2019年1月以降、6200件余りの救急診療と1260件の手術が行われ、1600件余りのカウンセリングを実施。都市部と避難民キャンプから来る患者の健康を支えている。 

激しい炎にまかれた2歳の男の子

重度のやけどで入院しているアブドゥルサラムちゃん © Candida Lobes/MSF重度のやけどで入院しているアブドゥルサラムちゃん © Candida Lobes/MSF

アブドゥルサラム・オマールちゃん(2歳)は、祖母のアイアさん(40歳)に連れられて、35km離れたシャルカットの町からカイヤラのMSF病院へやって来た。2人は1週間、やけど科に入院している。来院したとき、アブドゥルサラムちゃんのやけどは顔と腕、お腹と両足など、体の表面の28%に及んでいた。アイアさんも顔と右手など、体の表面の5%にやけどを負った。アイアさんは数日で退院できるが、アブドゥルサラムちゃんは1ヵ月以上入院が必要で、健康な皮膚をやけど部分に移植する手術を受ける予定だ。通常なら、この皮膚移植手術で治療期間を縮められ、傷痕も最小限にできる。 

祖母のアイアさんも重いやけどを負った © Candida Lobes/MSF祖母のアイアさんも重いやけどを負った © Candida Lobes/MSF

やけどで変色したアイアさんの唇がゆっくりと動く。はっきり発音することも難しいが、痛みより、人と話したい気持ちが勝っている。「アブドゥルサラムが手術室にいる間、心配して待っているより誰かと話している方がましですから。アブドゥルサラムは孫ですが、自分の子のように育てました。母親は、まだ赤ちゃんのときにこの子を捨ててしまって……。家中どこでも私について来るから、守ってやろうと思っていて」とアイアさんは話す。

「あの日、病院に着いたのは夜9時。1時間もかかりました。いろいろな人や親戚にこの病院をすすめられて、急いで来たんです。 火元はコンロでした。消したつもりがちゃんと消えていなくて、ガスがもれていたんです。あっという間に台所に火が付いて、炎と真っ黒な煙が部屋に立ち込めました。孫は外にいたけれど、激しい炎に追いつかれてしまって。私は顔と両手をやけどし、アブドゥルサラムは両手両脚、下腹と顔をやけどしました。濃いガスを吸い込んだので、2人とも仮死状態でしばらく意識を失っていました。気がついたときには私はまだ家の中で、アブドゥルサラムの隣に寝かされ、急いで病院へ連れて行かれるところでした。顔に黒いすすがついたまま病院に到着しました。痛み止めをもらって、すぐにやけどの治療が始まりました。翌朝アブドゥルサラムは手術を受け、今日までの8日間で3回、手術をしています」 

噴き出した熱湯の上に転んで

熱湯の上に転んでしまったブスラちゃん © Candida Lobes/MSF熱湯の上に転んでしまったブスラちゃん © Candida Lobes/MSF

1歳4ヵ月のブスラ・モハメドちゃんは入院して20日。体の表面の12%をやけどし、2回の皮膚移植手術を受けた。まだ幼く、やけども重度だったため、手術後も入院を続け医師が回復具合を見守っている。

「私たちはカイヤラ出身です。この病院が一番近かったし、MSFがここで活動していると知っていました。『イスラム国』との戦闘以前は、他にも総合病院と国立病院がありましたが、両方とも砲撃で壊されてしまいました」と、ブスラちゃんの母は語る。

「その夜、8時に家族そろって夕食をとっていました。ブスラの5歳の姉が、夕食を終えて洗面所に手を洗いに行き、お湯の蛇口をひねったところ、ものすごい熱湯がどっとあふれ出たんです。怖くて蛇口を閉められず、姉は熱湯を出しっぱなしにしていました」

そのとき、ブスラちゃんが入ってきた。いつものとおり、姉について来たのだ。ブスラちゃんは転んで熱湯の中に倒れ、熱くなったタイルの床に肌がふれてしまった。

「ブスラが金切り声を挙げ、みんな飛び上がりました。痛さのあまり泣いていて、私はドキドキしながらあの子のもとへかけよったんです。父親がすぐに抱きかかえて病院に行ったのですが、それだけ素早く対応しても、腕のやけどはひどい状態でした。病院ではスタッフがやけどを処置して包帯を巻き、傷をきちんと覆いました。それからは、1日おきに傷を洗って清潔にしていましたが、皮膚移植が必要だと聞かされました」 

カイヤラのMSF病院では子どものやけど患者を多く治療している © Candida Lobes/MSFカイヤラのMSF病院では子どものやけど患者を多く治療している © Candida Lobes/MSF

「ブスラはいたずらっ子で好奇心旺盛なので、朝から晩まで何日もベッドで寝たきりなのはつらいことです。病院スタッフが着ている緑色の医療用滅菌ガウンを見るのもうんざりしています。容体を見る人も見舞い客も緑のガウンを着るため、緑色を見るたびに機嫌が悪くなります。私が着ているといつも泣き出し、脱ぐとすぐに泣き止むんです。一瞬でも目を離して一人きりにしたらどうなるか、今ではよく分かっています。もう二度と、あの子を目の届かない場所に行かせたりはしません」 

カイヤラ総合病院は2016年に紛争の影響を受けて一部損壊。同年12月にMSFが新しい病院を開院し、この地方行政区で当時、唯一稼働中の医療機関として30万人の健康を支えた。2016年以降、MSF病院は診療科を増やし、救急処置室、集中治療室、手術室2室、新生児科病棟、外来栄養治療センターと入院病棟2棟、検査室、心のケアプログラムによるカウンセリングと精神科診療を行っている。2018年4月にはベッド数10床のやけど科を設置。この科はニネワ県で唯一、やけど治療に特化した医療機関であり、設置以来、160人余りが入院治療を受けた。 

関連記事

活動ニュースを選ぶ