「みんな戦争のせい…」薬剤耐性感染症にかかった患者たち

2019年03月02日掲載

 イラク北部の都市モスルの術後ケア・センター。国境なき医師団(MSF)が2018年4月、モスル東市街に開いた施設だ。イラクでは、薬剤耐性菌に感染した患者のケアに取り組む。薬剤耐性菌の例は中東各地で見られていて、特にイラクで多く確認されている。イラクでは、長年続く紛争の影響で、爆撃などでけがし、治療を必要とする患者も多い。その中には、薬剤耐性菌に感染している患者もいる。患者の声を紹介する。

自爆テロで負傷…子どもも失った 入院生活に落ち込む日々「苦しみを多く見てきた」

© Elisa Fourt/MSF© Elisa Fourt/MSF

家族みんなで家を後にしたのは2017年。ラマダンの最中でした。ようやく国内避難民キャンプに連れて行ってもらえました。家族と私がキャンプに入って、健康診断を受けていた時です。女性の服を着た男が来て、大勢の人が集まっている中で自爆しました。一緒にいた2人の子どもは即死でした。私は重傷を負いました。そのまま大きな病院へ運ばれ、4日間入院しました。その後、現地の団体が借り上げてくれた家で3ヵ月間、暮らしました。その頃までには、歩けるようにもなったので、親戚のいる別のキャンプに引っ越しました。

この病院に来たら、整形外科医に、脚に入っている内固定器を取り出さないといけない、代わりに創外固定器を入れますと言われました。

最初は断りました。創外固定器なんて、ごめんだと。以前も7ヵ月間、創外固定器を着けたことがあって、とても痛かったのです。だけど外科医は、よくなりたいなら、創外固定を着けた方が良いと言うので。筋肉と骨の生検(生体から組織片を採取して調べること)をして、医師の言ったとおりにすることにしました。それまでは、検査や生検をしてくれた病院なんて、一つもありませんでした。大抵の場合、私が自分の体の具合について説明したら、お医者さんたちが抗菌薬をくれて痛みをおさえるという具合でした。でも、この病院に来て初めて、薬剤耐性というものを知りました。


ここで気持ちよく過ごしています。一番つらいのは孤独を感じることですね。ときどき、誰かがお見舞いに来てくれます。先週は、生き残った2人の子どもが来てくれました。でも1回の面会は30分。時間が来ると、2人とも帰りました。

家で薬を飲めたら、どんなによいかと思います。でも、必要な飲み薬がないせいで病院にいなければいけません。抗菌薬の点滴を日に2~3回受けています。退屈になったり、イライラしたりもします。この病院に入院している患者は、みんなそんな感じです。でも、他に何ができるでしょう。

心の健康セッションに、毎週出ています。心理療法士に会って、話をします。「気がかりなことはなんでも話して」と励ましてくれます。

この病気のせいで、落ち込んで話をしている人を時々見かけます。やっぱり、落ち込みます。心理療法士は、心のセルフケアと、自分の身の回りの世話をしやすいよう手助けしてくれるんです。ネガティブな考えを追い払うのに、少しは役立ちます。

ここでは、医療スタッフのみなさんが、患者らを元気付けようと一生懸命です。でも本当に幸せかというと…そうは言えないかもしれません。患者の多くは、けがをし、病気で具合が悪いか障害を負っています。多くの苦しみと戦争を目にして来た人たちなのです。

サハル・カラフ・アマド

「1年半経っても、足の傷は治らないままです」

© Elisa Fourt/MSF© Elisa Fourt/MSF

家族と一緒にいた時に、空爆がありました。家は崩れ、私たちの上にがれきが落ちてきました。私は足と背中と顔にけがを負ったので、がれきから助け出された後、病院に搬送されました。

いろんな人から、子どもは無事だと聞かされました。でも、心では、それは真実ではないと分かっていました。子どもは、一人の息子を除いて、全員が殺されました。その子も、胸にけがをして…。血を流し、肺も傷めていました。2人で長いこと入院しました。退院したときも、まだ痛みがありました。片方の足を失いました。1年半経っても、足の傷は治らないままでした。周りの人に自分の状況を話したところ、国境なき医師団の術後ケア・センターで治療を受ければいいと教えてくれたんです。それでここに来ることにしました。

この病院みたいに、市内で今も開院しているところは少ないです。医師に払うお金も、民間診療所までの交通費も、ありません。

ここに着いたとき、医師たちから、手術と、けがが治るまでの薬が必要ですと言われました。しかも、私がかかった感染症には、よく使われている抗菌薬への耐性があるとも……。

けがをしたために、この薬剤耐性菌に感染したのだと思います。みんな戦争のせいです。この隔離室に来て、数日になります。細菌のせいで、隔離されました。

毎日、横になって過ごし、お薬をのんで点滴を受けないといけません。隔離は仕方がないことだと分かっています。医師たちから、症状もよくなってきて、あと1週間しないうちに退院できると教えてもらえました。気分が明るくなりました。普段の生活に戻れる日を、家族の元に帰れることを心待ちにしています。

ナーラ・サレハ 

薬剤耐性菌とは

細菌やウイルスなどの病原体によって引き起こされる病気「感染症」の中で、細菌が原因で引き起こされる病気に効果を発揮するのが「抗菌薬」だが、この抗菌薬が効かなくなった細菌のこと。「抗菌薬耐性」を持った細菌とも言われる。今後も抗菌薬の効かない感染症が増加することが懸念されている。

原因として、抗菌薬の使いすぎや、誤用が指摘されている。多くの低中所得国では、抗菌薬が市販され、医師の処方なしに簡単に手に入れることができる。そのため、抗菌薬の使いすぎと誤用が起こっていると言われている。

イラクでは、紛争などにより外傷のけがを負った患者が多く、回復を難しくしている。 

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