シリア:内戦被害の一端が明らかに——MSF、支援先の70施設の医療記録を集計

2016年03月04日

シリア内戦はついに6年目に突入し、いまなお終息の道筋が見えていません。国境なき医師団(MSF)は直営の医療施設や支援している病院などを通じ、紛争の被害を受けた人、医療を受けられなくなっている人へ、医療・人道援助の無償提供を続けています。

今回の調査では、MSFが支援している約150ヵ所の医療施設のうち、約70ヵ所を対象としました。その医療記録を集計してみると、シリア内戦の被害の一端が浮かび上がってきました。本記事では、報告書『シリア内戦2015:国境なき医師団(MSF)支援先施設における死傷者の記録』の概要を、図表を交えてご紹介します。

緊急援助活動にご協力ください

寄付をする

※緊急支援対象から「シリア緊急援助」を選択してください。
電話 0120-999-199 でも受け付けています。(9:00~19:00/無休/通話料無料)
国境なき医師団への寄付は税制優遇措置(寄付金控除)の対象となります。

記事を全文読む

報告書の目的

MSFが支援している医療施設(※1)70軒では、患者数、容態、経過などを記録しています。それらの中から、シリア内戦に起因すると判断される事例(※2)を集計し、改めて記録として残すことを目的としています。集計の対象期間は、2015年1月1日から12月31日の1年間としました。

  • MSFから少なくとも1年以上、物資、資金、資材などの援助を受けている医療施設
  • シリア内戦に関連する暴力が原因となっていると診断された負傷者や死亡者で、民間人・戦闘員の区別はしていないト

首都ダマスカス周辺地域の被害

ダマスカス東部の仮設病院の手術室(2013年6月撮影) ダマスカス東部の仮設病院の手術室
(2013年6月撮影)

MSFは、ダマスカス県内に66地域・7地区の"包囲地域(※1)"があることを確認しています。その人口は合計で推定145万人にのぼります。

ダマスカス周辺地域でMSFが支援している施設で、内戦の影響による負傷の治療を受けながらも亡くなった人は、2015年の記録では4634人でした。そのうち1420人(31%)が子ども(※2)と女性でした。また、負傷者は9万3162人にのぼり、そのうち3万6068人(39%)が子どもと女性でした。

  • 報告書では、「包囲地域」を「武装勢力によって恒常的に包囲され、人道援助や民間人、病人、負傷者の定期的な通行が不可能な地域」と定義している
  • 報告書では「子ども」を「15歳未満」と定義している

シリア北部と西部の被害

シリア北部・西部でMSFが支援している施設で、内戦の影響による負傷の治療を受けながらも亡くなった人は、2015年の記録では2375人でした。そのうち462人(19%)が、5歳未満の乳幼児と女性でした。また、負傷者は6万1485人で、1万473人(17%)が5歳未満の乳幼児でした。

"マスカジュアリティー"が急増——多数の負傷者が一斉に病院へ

シリア北部のマスカジュアリティーの現場 シリア北部のマスカジュアリティーの現場

2015年、マスカジュアリティー(※)の最初のピークは8月で、8月8日~30日で計28回が記録されています。そのほぼすべてが東グータへの攻撃と関連していました。10月以降にはシリア北部・西部で急増し、10月だけでも17回が記録されていました。

ダマスカス周辺地域では12月にも急増しました。この地域では1ヵ月にわたって激しい戦闘が続いたことから、ほぼすべてが戦線付近の拠点医療施設での記録でした。

  • 災害や事件などで負傷者が一斉に運ばれてくる状況

医療施設への攻撃と"ダブル・タップ"

攻撃を受けて全壊したMSFの支援病院ダブル・タップの可能性も示唆されている 攻撃を受けて全壊したMSFの支援病院
"ダブル・タップ"の可能性も示唆されている   

シリア内戦では、医療施設を標的としていると疑われるケースが増加しています。MSFが支援している医療施設は、2015年だけで合計94回の空爆や砲撃を受け、12軒が全壊しました。亡くなった医療スタッフは23人に上ります。

また、最初の攻撃の後、人びとが救援に駆け付けたところを再び狙う"ダブル・タップ"という軍事作戦が導入されている疑いも強まっています。これは、犠牲者数を最大化することを意図している最悪の手法です。報告書では、ダブル・タップが実行された疑いがあるケースを一覧にしています。

国際人道法の順守を求めます

MSFは、シリア内戦に参加しているすべての紛争当事者に、改めて下記の事柄を求めます。

民間人や非軍事設備を標的とした攻撃を直ちに停止すること
医療活動を保護・尊重し、医療施設、医療スタッフ、救急隊へのあらゆる攻撃を停止すること
人道援助の観点から包囲地域の通行を全面許可し、医療救助、医療物資の提供、医療スタッフの活動を阻害しないこと
シリア内戦に関わっている国連安保理常任理事国(英・米・仏・露)は、国連総会で全会一致で採択された決議の履行を保証すること

関連記事

活動ニュースを選ぶ