シャーガス病: 病気の周知と研究・開発の発展を

2012年04月20日
ウンニ・カルナカラMSFインターナショナル会長 ウンニ・カルナカラ
MSFインターナショナル会長

熱帯の寄生虫感染症「シャーガス病」は、中南米を中心に推計800万~1000万人の患者がいる。100年以上前に症例が世界に報告され、40年以上前には治療薬が開発されたが、その後は新薬開発や治療法の研究が進んでいない。国境なき医師団(MSF)インターナショナルのウンニ・カルナカラ会長が、シャーガス病を取り巻く状況と課題について提言する。

記事を全文読む

子ども用の薬、ブラジルで登録実現

シャーガス病について説明するMSFスタッフ シャーガス病について説明するMSFスタッフ

シャーガス病との闘いは、過去数年で飛躍的な前進を遂げています。"顧みられない病気"であったこの病気の患者にとっても、国境なき医師団(MSF)にとっても、これは朗報です。MSFは、シャーガス病の治療薬の流通を促すべく活動を続けるとともに、研究・開発の促進を訴えています。

最新の進展が報じられたのは、3月のことです。アルゼンチン保健省と"顧みられない病気"の調査・予防などを手がけるNGO「フンダシオン・ムンド・サノ」との連携が実を結び、同国がシャーガス病治療の主要薬であるベンズニダゾールの第2の生産国となりました。

この数年、治療の需要は著しく増加しており、子どもたちに加え、大人の患者も増えています。新たな臨床結果により、ベンズニダゾールが慢性期のシャーガス病患者にも効果のあることがわかっています。一方、汎米保健機構(PAHO)は、スクリーニング検査と治療に注目した2種類のシャーガス病対応策を発表しています。

2011年、子ども用に調剤したベンズニダゾールがブラジルで薬品登録されるという喜ばしい報道がありました。この進展は「顧みられない病気のための新薬イニシアティブ(DNDi)」の後押しによるものです。未成年者のシャーガス病治癒率は比較的高いのですが、これまでは子ども用治療薬のないことが課題となっていました。

ほかにも進展が見られます。MSFと世界保健機関(WHO)は、簡易検査による診断の簡略化を目指して共同研究を行っています。実用化されれば、妊婦や遠隔地に住む人びとのスクリーニング検査の規模を拡大することができるでしょう。

治療法と効果測定の発展に投資を

患者の血清を集めて治療法を研究しているパラグアイの病院 患者の血清を集めて
治療法を研究しているパラグアイの病院

これまでお話ししてきたことはすべて、著しい飛躍です。しかし、この顧みられない病気を国際社会の議題にのぼらせるまで、私たちの眼前にはまだまだ長く険しい道のりが横たわっています。患者の治療を最優先するのであれば、より適切な政策を実行し、財源と調査・研究を増やすことが求められます。

アルゼンチンがベンズニダゾールの輸出用生産を開始するまで、中南米のシャーガス病対策は、ブラジルのペルナンブコ州薬学研究所(LAFEPE)が唯一の生産拠点でした。

拠点が1つしかない状態は、2011年10月のような供給不足の原因となります。治療薬の不足と在庫が枯渇する懸念から、MSFはボリビアで予定していたシャーガス病対策の新規プログラム開始を見送りました。また、パラグアイでの新規患者の診療も規模を縮小せざるをえませんでした。現在も複数の国で治療薬の供給体制が確立されていません。

一方、新薬開発のための研究も大いに必要とされているという事実にも目を向けなければなりません。ベンズニダゾールやもう1つのシャーガス病治療薬であるニフルチモックスは、40年以上前に開発されたものです。医師の指導のもとで使用しますが、副作用を引き起こすことがあります。

治療後に寄生虫が患者の身体にいないことを確認する「治療効果検査」も非常に重要です。そうした検査なしに、治療を受けるよう患者を説得するのは簡単ではありません。治療が成功したのかどうかを知らずに生きるのはつらいものなのです。治療効果検査で、新薬の効果を測ることも可能になります。

しかし、治療効果を確認するための簡易検査法の開発を目的とした事業構想はほとんど聞かれません。開発には長期間の投資と労力が必要ですが、これが欠けているのです。

シャーガス病対策の努力不足は、感染に気づいていない数百万人の命を脅かすものです。症状の進行には数年かかることもあります。慢性化すれば深刻な心疾患や消化器疾患を引き起こし、命にかかわる恐れがあります。死亡者は年間1万2500人にのぼります。

気づかないまま母子感染、悲劇を繰り返さないために

MSFによるシャーガス病の感染検査 MSFによるシャーガス病の感染検査

ボリビアのコチャバンバ市にあるMSF診療所で治療を受けているパメラさんは、感染に気づかずに生活していて、2人の子どもにも母子感染していました。パメラさんは「私たち3人全員が陽性との結果が出たときは、崩れ落ち、泣きました。唯一の家族である子どもたちが病気で、それが私のせいだなんて……」とショックを受けていました。

こうした経験は、医療体制が脆弱な地域で繰り返されています。パメラさんと子どもたちはMSF診療所で無償の治療を受けていますが、感染者の中には診療を受けられない人も数多くいます。

シャーガス病の発見から100年目の2009年、MSFは「今こそ沈黙を破る時」と題したキャンペーンを立ち上げ、病気の周知を図りました。また、各国政府には、感染者が診療を受けられることを優先事案とするように呼びかけました。

いま改めて、その呼びかけを行う必要に迫られています。シャーガス病を取り巻く「沈黙」が破られるまで、私たちは警鐘を鳴らし続ける必要があるのです。

関連記事

活動ニュースを選ぶ