30年忘れられていた感染症が再流行──ジフテリア、ギニアで急がれるワクチン接種
2024年02月02日患者の過半数は子ども
2023年8月、MSFは、シギリにて大規模な対応を開始した。治療センターでは2024年1月4日までに、MSFスタッフ(64人)とギニアの保健省スタッフ(184人)の手によって、2122人のジフテリア患者が治療を受けた。患者の年齢層を見ると、5歳未満が18%、5歳〜15歳が43%、15歳〜29歳が29%、30歳以上が10%、となっている。
ジフテリアとはどのような病気なのか
ここでいう偽膜とは、厚い灰色の被膜で、体内で自然に作り出されるものではないため、こう名付けられている。抗毒素をすみやかに投与しなければ、急速に成長する偽膜に気道を塞がれて、感染者は呼吸困難に陥りかねない。
30年ぶりの流行、治療法を知る医療者が足りない
今回の大流行が起こるまで、ジフテリアは世界全体で半ば忘れ去られていた病気だった。ギニアでも、過去30年以上にわたって、ジフテリアの患者は現れなかったのである。それゆえ、ギニアの医療従事者たちも、今回の大流行に至るまで、ジフテリア対応の経験がない者が大半だった。ジフテリア治療のための抗毒素も、ギニアでは行き渡っていなかった。
MSFで副医療コーディネーターを務めるシャルル・トルノ医師は、次のように語る。
「この病気の識別と治療法を把握している医療スタッフが足りないのです。ジフテリアの治療法は複雑ですし、多くのリソースが必要です。特に、抗毒素を入手しないといけない。しかし、その抗毒素が足りないとなると、症状が最も重い患者のみに投与するしかないわけです」
治療センターのベッド数は50床しかない。ゆえに、軽症の患者については、抗菌薬を渡して帰宅させる。その際、他人に感染させるリスクを減らすための説明も施している。それから3日後と7日後に、改めてセンターで再受診してもらうという流れになっている。
もう少し症状の重い患者になると、治療センターに最大5日間ほど入院してもらう。抗毒素を投与するにあたっては、その前に、血中酸素濃度、ブドウ糖、体温など、一連の検査を実施する。例えば、解熱を要するほどの熱がある場合は、抗毒素の投与はできない。
こうした対策の結果、ジフテリアによる死亡者数は減少に向かった。「MSFの対応がうまくいって、死亡率は劇的に低下しました。私たちが来た当時は、死亡率が約38%に上っていた。それが今では5%未満です」とトルノ医師は説明する。
所持金はわずか約172円──無償で医療を
このシギリの治療センターにやってきた患者たちやその関係者たちは、ラジオ、学校、口コミでこのセンターのことを知ったそうだ。この病気は、現地の人びとにとってあまり知られていないため、実際に診断されるまでいかなる病気なのか分からない。
センターを訪れたファンタ・フォファナさん(40歳)は、次のように話す。
「ここに来るまで、ジフテリアにかかっているとは分かりませんでした。3日前にバイクでここまで来たんですけど、その時はすでに声が出なくなっていました。治療を受けてから、だんだんと体調がよくなっています。しっかり食べて、しっかり寝て、薬を1日2回飲む。それを繰り返すなかで健康な状態に戻ってきました。早く退院できることを願っています」
11歳の息子がジフテリアの治療を受けているという母親のジギ・ベレテさんは、次のように話す。
「子どもが熱を出して、喉の痛み、頭痛もあるようだったんです。すぐ診療所に連れて行ったら、ジフテリアと診断されました。救急車を呼んでくださいと診療所にお願いしたんですけど、そのとき持っていたお金は、わずか1万ギニアフラン(約172円)。それで病気の子どもに何をしてやれるというのでしょう。でも、この治療センターに来たら、お金を支払わなくても、治療や食事を受けられた。MSFの提供してくれるものは、みんな無料なんですね。現在、息子は薬を飲みながら回復に向かっているところです」