米国をめざして移民が試みる命がけのルート 危険なジャングル「ダリエン地峡」で目にしたのは…

2021年07月20日
パナマのジャングル最奥にある村バホ・チキートから、ボートで移民センターへ向かう人びと ©  MSF/Sara de la Rubia 
パナマのジャングル最奥にある村バホ・チキートから、ボートで移民センターへ向かう人びと © MSF/Sara de la Rubia 

南米コロンビアと中米パナマの間に横たわる未開のジャングル「ダリエン地峡 」。死の危険もある97キロの密林を命がけで渡ろうとする移民が、いま急増している。

マラリアなどの感染症、毒蛇、潜伏するギャングや武装組織……。ダリエン地峡は、南米から豊かな北米への移動を阻む壁となってきた。しかし今年に入り、1月から5月までにこの密林を越えた人の数は、1万5000人以上。その多くは近隣のハイチやキューバからの移民だが、経済危機が深刻なベネズエラからも増えている。また、滞在ビザが要らない南米の国にまず入国し、このルートを選ぶアフリカ、インド、バングラデシュの出身者も少なくない。

ダリエン地峡を越えた人が「遺体を見た」と話すことはよくあり、ジャングルの中で命を落とした移民の数は定かではない。

キューバ人のマリアさん(仮名)も、このルートを最後まで歩いたひとり。パナマ側のジャングル最奥地にある村、バホ・チキートにたどり着いた時、国境なき医師団(MSF)の診察を受けた彼女が、自らの道のりをつづった手紙を寄せてくれた。

こんにちは、今日は2021年6月4日です。私は51歳のキューバ人女性で、コロンビアからパナマまで、愚かにもダリエンのジャングルを通ってしまった者の1人です。ここに記すことは全て真実で、私が体験し、この目で見たことです。
 
私はジャングルの中を6日間歩きました。初日は“試練の丘”と呼ばれる高い丘に登りました。そのまっすぐでぬかるんだ斜面を通り抜ければ、旅は終わったも同然と言われています(デマなのですが)。その先には、最も険しい“死の丘”が続きます。この丘を1日で踏破できる人もいますが、“死の丘”というだけに恐ろしく急な斜面で、両側には何もありません。転べば命を落とす危険があるので、下の方を向かないようにします。 

その後も野を越え、丘を越え……もちろん川もあるので、いつでも濡れたままです。毎晩、湿ったままで眠るのです。歩くときは重さが足かせになるので、持ちものを道すがら全て投げ捨てることになります。体力があって足早な人たちは先に行ってしまい、置き去りにされます。キャンプ地(バホ・チキート)までの中間地点の辺りでは、むくれて腐りかけた遺体を目にします。私は3人の死体を所々で見ました。それが現実です。全て本当のことです。 

キャンプに到達する数日前には、7~8人のギャングが襲ってきます。彼らは武器を持っていて、食料や携帯電話、金銭を奪い、美しい女性をレイプするのです。しかも、最悪の状況はこれで終わりというわけではありません。
 
足が悪くて10日とか15日、27日もジャングルをさまよい歩き、何もなくなってしまった人たちにも出会います。さまざまな年頃の子どもを連れた親たちもいます。
 
あるとき私は、生後6カ月の元気な女の子を助けました。その赤ちゃんが父親の腕からすべり落ちたとき、斜面の下で彼らの後ろにいた私は、右足をつかむことができたのです。岩に頭を打ち付ける寸前で助けられて、ホッとしました。
 
ジャングルで私は結局、一人で歩き、寝ることになりました。足は痛みましたが(すりむいて皮ふがはがれ落ちていた)、それでも歩き続けました。しかも話はまだ終わりではありません。ある晩、ハイチ人たちが川のほとりにテントを張っていました。彼らはその明け方、危うく命を失うところでした。暖かく心地よい日だったのに、何の前触れもなく突然、川が増水したからです。 

私がバホ・チキートにたどり着いたのは6月3日。足が腫れて歩けなくなっていたので、すぐにMSFチームのもとへ行き、2回ほど治療を受けました。すばらしい仕事をされていますね。
 
それがきっかけでこの手紙を書いたのですが、同時にこのルートを選ぼうとする人に思い止まってほしいからでもあります。ダリエン地峡は危険で、人がのぞむべき道ではありません。神のみが頼りとなるルートですが、神の道ではないのです。なぜかも分からず家族が引き離され、生き残るための戦いとなります。ジャングルで過ごす日数が長くなるほど、死の危険は高まります。殺されたり、野生動物や蛇に噛まれたりするからです。多くの人が通過し、いまや街道になっているなどと言う人たちもいますが、全く逆で、滑り落ちて死ぬ危険がある、すり減った道なのです。骨折した人は置き去りにされ、最後までたどり着けない人は見捨てられるのです。
 
このルートを越えた人たちには、真実を語ってもらいたい。アメリカへ行くには、もっと良い方法がたくさんあります。あきらめる必要はありませんが、しっかり判断しなければなりません。
 
私の話を覚えていたいとは思わないでしょう。どんな時でも自分の命を大切にして、危険にさらさないでください。そうすれば、神のご加護もあるでしょう。 


ダリエン地峡は移民にとって極めて危険なルートだ。コロンビアとパナマの管轄局は、法的身分にかかわらず、自国内にいる移民を保護する責任を負っている。各国政府は、移民の命や尊厳が脅かされない、安全なルートを確保しなければならない。

MSFはバホ・チキートで、危険な横断のあと負傷し、疲れ果て、恐怖におびえた状態で到着した人びとに医療を提供している © MSF/Sara de la Rubia
MSFはバホ・チキートで、危険な横断のあと負傷し、疲れ果て、恐怖におびえた状態で到着した人びとに医療を提供している © MSF/Sara de la Rubia

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