インフラも医療もない集落で コロンビアとベネズエラ、2つの政府から見放された人びとの健康を守る

2021年04月19日
5歳未満の子どもを対象に栄養状態の検査を行うMSFのスタッフ 🄫 MSF
5歳未満の子どもを対象に栄養状態の検査を行うMSFのスタッフ 🄫 MSF

情勢不安、経済破綻により人道危機が続くベネズエラでは、食料も薬も入手できない状況に陥った数百万人もの人びとが隣国へと逃れている。国境を接するコロンビアにも100万人以上が流入したが、政府の対応は難民のニーズに追いついておらず、多くの人はインフラも医療もない中での生活を強いられている。

コロンビア北東部、ノルテ・デ・サンタンデール県に2年ほど前にできたエル・ディビーノ・ニーニョと呼ばれる集落は、ベネズエラ難民と、コロンビア内の治安情勢悪化などによりベネズエラに避難していたコロンビア人の帰還民、合わせて450世帯が暮らす集落だ。国境なき医師団(MSF)は、2018年からこの地域で医療援助、給排水衛生設備の改善、健康講座などを行い、住民の健康を支えている。

電気や水にも事欠く生活

エル・ディビーノ・ニーニョ集落に暮らす住民の多くは、コカインの原料であるコカの収穫で生計を立てている。しかしコカイン輸出の主要なルートであるこの地域では、ギャングや武装集団による抗争が続いており、人びとは暴力におびえる日々を送っている。

インフラ整備が進んでいない集落では、電気や水道はあっても週に数日、断続的にしか使えない。また住民が費用を出して自治体にごみの収集を依頼したにもかかわらず、回収はされないままで、現地の生活環境は劣悪だ。

エル・ディビーノ・ニーニョに並ぶ簡素な住居。インフラはほとんど整備されていない © MSF
エル・ディビーノ・ニーニョに並ぶ簡素な住居。インフラはほとんど整備されていない © MSF

水質を改善するバケツ型ろ過フィルターで患者数が減少

「ここでは、たくさんの赤ちゃんが体調を崩しています」ベネズエラのスリア州から避難してきたリナさん(仮名)がこう語るように、エル・ディビーノ・ニーニョでは特に子どもの健康被害が深刻な状況にあり、多くの子どもたちが腸や呼吸器、皮膚などに重度の感染を患っている。医療機関は増大する患者のニーズに対応しきれておらず、リナさん自身、幼い娘に熱や下痢の症状があるときには、薬局で薬を買ったり、薬草を自分で煎じて飲ませたりすることもあるという。

援助活動を始めた当初、MSFは隔週で移動診療を実施し、基礎医療や心のケアを提供していた。しかし活動を進めるうちに、この地域でよくみられる5つの病気のうち3つが、不衛生な水に起因するものであると判明。そこでチームは水をきれいにし、かつ貯水もできるバケツ型のろ過フィルターを各家庭に配布するなど、水と衛生の問題を改善することに力を入れた。

この取り組みによって下痢の患者数はほぼゼロになり、また水を適切に管理できるようになったおかげで、蚊によって媒介されるマラリアの患者数も大幅に減少させることに成功した。 

バケツを組み合わせて作った水のろ過装置を各家庭に配布した。 🄫 MSF
バケツを組み合わせて作った水のろ過装置を各家庭に配布した。 🄫 MSF

今後の課題は栄養状態の改善

そしていま、MSFは活動の優先順位を子どもたちの栄養状態のケアに移し、2021年2月にはスクリーニング(治療の必要な患者を選定・選別すること)を開始した。5歳未満の子ども214人のうち、重度の栄養失調は1人、中等度の患者は6人にとどまっており、危機的な状況ではない。

しかしMSFの医療コーディネーターを務めるヨハナ・ビナスコは言う。「いまのところは栄養治療食で対応していますが、油断はできません」 

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