コンゴ民主共和国:多数の避難民が再び移動──国境なき医師団はゴマで緊急対応を継続

2025年03月05日
MSFは移動診療を通じ、ゴマの避難民キャンプから帰還した人びとへの支援を行っている Ⓒ Daniel Buuma
MSFは移動診療を通じ、ゴマの避難民キャンプから帰還した人びとへの支援を行っている Ⓒ Daniel Buuma

コンゴ民主共和国(以下「コンゴ」)北キブ州ゴマでは、戦闘と武装勢力「3月23日運動(M23)/コンゴ川同盟(AFC)」 による退避要求を受け、大勢の人びとが再び移動を余儀なくされている。ゴマ周辺の避難民キャンプからは数十万人が避難し、人びとは不安定な状況のなか、さまざまな危険に直面している。

国境なき医師団(MSF)は移動する人びとを支援するため、緊急対応として移動診療を行っている。

移動する人びとに医療を

北キブ州の州都ゴマの風景は、わずか数週間で劇的に変化した。1月末にM23/AFCが同市を制圧するまで、人口約200万人のゴマでは、さらに約65万人の避難民を受け入れており、そのほとんどは郊外の仮設住居に住んでいた。

1月下旬に戦闘が激化すると、一部の避難民キャンプから人が去り始めた。そしてゴマの実効支配を始めた新たな当局が住民に出身地への帰還を命じた後、ほぼすべてのキャンプから人がいなくなった。

ゴマ近郊に留まることを選んだ避難民もいたが、多くは行く手に何が待ち受けているかも分からないまま、北や西の近隣地域へと向かった。数日のうちに、男性、女性、そして子どもたちの列で道路は埋め尽くされた。人びとは、徒歩、バイク、あるいは乗り合いのミニバスで運べるわずかな荷物を携え、なかには何日も食べ物や水なしで歩いたことがあると語る人もいた。

ゴマでの戦闘激化に伴い、人びとは持ち運べるわずかな荷物を持ち、徒歩、バイク、ミニバスなどで避難した Ⓒ Daniel Buuma
ゴマでの戦闘激化に伴い、人びとは持ち運べるわずかな荷物を持ち、徒歩、バイク、ミニバスなどで避難した Ⓒ Daniel Buuma
ブレンゴ難民キャンプから避難してきた女性。そばには子どもが地べたで休んでいる。「3日間食べ物も水もなく、子どもと一緒に歩き続けました」と話す Ⓒ Daniel Buuma
ブレンゴ難民キャンプから避難してきた女性。そばには子どもが地べたで休んでいる。「3日間食べ物も水もなく、子どもと一緒に歩き続けました」と話す Ⓒ Daniel Buuma

「人びとの大規模な移動を踏まえ、私たちは帰還ルートにチームを送り、患者が一度に押し寄せた場合に機能が難しくなりそうな医療施設を調べました」

ゴマ周辺におけるMSFの移動診療活動の責任者、アントニ・ケルゴシアンはそう話し、続ける。

状況はどこも同じです。危機の前からすでにほとんど機能していなかった医療施設は、放棄されていたか、最悪の場合は破壊されたり、略奪されたりしていました。こういった施設が患者の対応を迫られることになるのです。

アントニ・ケルゴシアン MSFの移動診療活動の責任者

「また、キャンプではコレラやエムポックス(旧称サル痘)、はしかといった病気も報告されており、それらがまん延するリスクもあります」

初期調査に基づき、MSFはニーラゴンゴ郡とマシシ郡で医療機器や医薬品の提供、スタッフの派遣を行う診療所を増やした。支援の届かない地域にも移動診療体制を敷き、帰還民やその周辺を通過する人びとに無償で医療を提供している。

動画:2分

人びとの生活環境の改善が急務

今回の緊急対応でMSFが支援した施設の一つが、ゴマの西25キロに位置する小さな町、サケの拠点診療所だ。

ここ数年、その戦略的に重要な立地により、サケでは激しい戦闘が繰り返されてきた。また、サケは西のマシシ、北のキチャンガ、さらに南のミノバや南キブ州へと向かう人びとにとっても重要な交差点となっている。

MSFは支援が届きにくい地域で移動診療を行い、人びとに無償で医療を提供している Ⓒ Daniel Buuma
MSFは支援が届きにくい地域で移動診療を行い、人びとに無償で医療を提供している Ⓒ Daniel Buuma

「住民はサケに戻ってきています。ゴマのキャンプを離れ、マシシや南キブに戻る人びとにとってサケは唯一の合流地点だからです」とケルゴシアンは話す。

「そのため、MSFは最近の戦闘で大きな被害を受けた診療所の緊急修理を行うことにしました。コレラ治療ユニット(CTU)も再建し、現在は毎日約20人の患者を治療しています」

いま診療所では毎日約200件の診察が行われています。多くは呼吸器感染症と下痢性疾患ですが、エムポックスの症例や、性暴力被害に遭ったため治療を必要とする患者もみています。

アントニ・ケルゴシアン MSFの移動診療活動の責任者

医薬品を積み込むMSFのスタッフ。トラックはサケの拠点診療所へ向かう Ⓒ Jospin Mwisha
医薬品を積み込むMSFのスタッフ。トラックはサケの拠点診療所へ向かう Ⓒ Jospin Mwisha

MSFは、サケから移動医療を始め、山岳路沿いの医療施設の支援も行ってきた。キャンプを去り、もともと住んでいた場所に戻ってきた人びとは、極めて弱い立場に置かれている。お金もなく作物も失い、場合によっては作物を育てるための道具さえも持っていない。彼らにとって、無償で医療を受けられることは不可欠だ。

「カバティに戻ってきて1週間がたちました。ここは平和ですが、飢えは深刻な問題です」。ブレンゴ避難民キャンプで2年間を過ごした後、帰還したビギリマナさんはそう話す。

私たちには医療ケアが必要です。ほとんどの人が病気で、特に子どもたちの間で下痢がまん延しています。

ビギリマナさん ブレンゴ避難民キャンプから帰還した女性

現地の状況とMSFの活動について、とケルゴシアンは次のように話した。 

「食料不安につながるリスクは深刻です。そのため、MSFはいくつかの治療栄養ユニットを再設置しました。また、私たちはゴマ周辺に集中している感染症の脅威にも直面しています。人びとが帰還する地域の生活環境を改善し、必要不可欠なサービスへのアクセスを改善することが急務です。人道援助の強化も必要でしょう。悲しいことに、これらの地域で活動している団体は、現在ほとんどいません」

コンゴ北キブ州ゴマ周辺におけるMSFの活動

2月26日現在、MSFの緊急移動診療チームは、ブウンバ、キロリルウェ、サケ、キンギ、ルオンガ、マコンボといったアクセスの難しい遠隔地の医療施設を支援。またMSFは北キブ全域の診療所や病院で医療活動を続けている。キシェロ病院とビルンガ病院では、負傷者の治療にも当たった。またゴマでは、基礎医療、栄養失調やコレラの治療、性暴力被害者のケアを提供するいくつかの施設のサポートも行っている。

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