100万人が避難する人道危機 コンゴ民主共和国 援助は不足、対応拡大が急務

2023年04月20日
州都ゴマの西に位置するブレンゴ国内避難民キャンプの様子 Ⓒ Michel Lunanga/MSF
州都ゴマの西に位置するブレンゴ国内避難民キャンプの様子 Ⓒ Michel Lunanga/MSF

「状況は深刻です。州都ゴマの郊外で暮らす人びとの悲惨な生活環境を見れば、それは一目瞭然でしょう」。コンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」)で国境なき医師団(MSF)の代表を務めるラファエル・ピレはそう話す。
 
コンゴ東部の北キブ州では、反政府武装勢力「3月23日運動(M23)」の再起に伴う戦闘から逃れるため、過去12カ月間で約100万人が自宅を追われ避難する人道危機が起きている。この非常事態は、以前から危機的な状況にあった同州の人道状況の悪化に拍車をかけている。

劣悪な生活環境

この数カ月間だけでも、何十万人もの人びとが自宅や村を離れ、受け入れ世帯や非公式の居住地で生活を送っている。ゴマ周辺では、ビニールシートや蚊帳で作られた粗末な小屋が見渡す限り広がり、教会や学校に避難している人もいる。

空から見たブレンゴ国内避難民キャンプ Ⓒ Michel Lunanga/MSF
空から見たブレンゴ国内避難民キャンプ Ⓒ Michel Lunanga/MSF

65歳のセレスティーヌさんは「私たちは2022年6月にここにやってきて、150ほどの家族と一緒にカニャルチニャの使われなくなった教会に住み始めました。この8カ月間は、寝泊まりする場から、食事、着るものまで事欠く日々を送ってきました」と振り返る。

ゴマ郊外には、この1年間で約3000カ所の仮設住居が建設され、約1万5000人を受け入れている。だが、その数は避難者数とニーズの規模からするとあまりに少ない。

「これは現在、町の入り口周辺で野宿している数十万人の避難民に比べれば、大海の一滴です。多くの人びとが何カ月も雨や病気の流行、そして、MSFの医療施設で毎日治療している性暴力の被害者数が心配になるほど多いことからも分かるように、暴力のなすがままにされています」

ゴマでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるアブドゥ・ムセンゲツィは、そう危機感を募らせる。

やるべきことはまだ多く…

MSFは2022年5月から、ゴマ周辺の避難民が暮らす非公式の居住地で、無償で医療を提供している。また、飲料水をトラックで運び、トイレやシャワーの建設も行っている。

しかし、まだやるべきことは多くある。ゴマから西に10キロメートル離れたブレンゴにある非公式キャンプでは、およそ500人に対してトイレはたった一つしかない。これは緊急事態の基準でも最低限必要な数の10分の1にも満たない数だ。隣接するルシャガラの居住地では、避難民は1日わずか1リットル強の清潔な水で生き延びている。これも推奨されている1日15リットルにはほど遠い。

不十分で過密な避難所、そして清潔な水とトイレの不足は、そのまま病気の温床となる。ここ数カ月、ゴマ北部のニーラゴンゴ郡ではしかとコレラが集団発生した。また、ブレンゴとルシャガラでは、はしかとコレラの疑い例がここ数週間で増加し、人びとの健康状態は危機に陥っている。MSFは3月、ブレンゴだけで、コレラの症状を持つ約2500人の患者とはしかの子ども130人以上に治療を行った。

私たちは24時間体制でコレラと戦いつつ、増え続けるはしかの症例にも対応していますが、完全に圧倒されています。
人道面や健康面の被害を目の当たりにしている今、避難民への援助を強化することは急務です

コンゴにおけるMSFの代表 ラファエル・ピレ

国連によると、現在、北キブ州全域で推定250万人が避難生活を送っているという。戦闘が続けば、さらに多くの人が自宅を追われ、援助を必要とする生活に追い込まれる可能性がある。

ブレンゴ国内避難民キャンプの7つの給水所で清潔な水を提供<br> Ⓒ Michel Lunanga/MSF
ブレンゴ国内避難民キャンプの7つの給水所で清潔な水を提供
Ⓒ Michel Lunanga/MSF
コレラ治療センターで患者を診察する医師<br> Ⓒ Michel Lunanga/MSF
コレラ治療センターで患者を診察する医師
Ⓒ Michel Lunanga/MSF

医療を受ける機会も制限

ゴマの北側にある、マシシ、ルチュル、ルベロ郡でもMSFは危機の影響を目の当たりにしている。戦闘の前線が移動したため、この地域へ入る主要なルートのほとんどが通行不可能となった。北キブの交易には、「州の穀倉地帯」と呼ばれるこの農業地帯への交通網が欠かせない。地域から切り離された住民は、農作物を売ることも、一部の必需品以外は買うこともできず、それらの価格は2倍となった。

多くの医療施設では、供給上の問題から医薬品が不足している。例えばルチュル郡では、数カ月間医薬品が届いていない診療所もある。これらの地域では、医療を受けることはすでに困難だったが、医療施設が機能していないことや、現在の経済危機の中で多くの人にとって医療費は手の届かない価格であることから、現在はさらに難しいものになっている。

生計手段がないので、北キブ州に住む人びとの大多数は医療を受けられなくなっています。『食べる』か『治療』のどちらかを選ぶほかないからです

MSFのプロジェクト・コーディネーター モニク・ドゥー

「一刻も無駄にできない状況」

物価上昇と医療事情の悪化に加えて、州内の食料不足も深刻化している。国連によると、現在、北キブの人口の3分の1以上に当たる、300万人が食料不足の危険にさらされている。MSFが支援しているルチュル郡の診療所では、2022年、8500人以上の栄養失調の子どもたちを治療した。これは2021年に比べて70%近い増え方だ。

また、ルチュル郡では、ルベロやマシシと同様、必要な援助に当たる団体や機関が大幅に不足している。

「ここにいる人たちは、まるで見捨てられてしまったかのようです。ここ数カ月間、ルチュル郡で活動する人道援助団体はMSFだけでしたが、住民のニーズは私たちの対応能力をはるかに超えています」とドゥーは言う。

また、ピレは「一刻も無駄にできない状況です。援助関係者と当局は数倍の努力を傾けて、相手がどこにいようとも、人道援助を必要としている人びとに確実に援助を届ける必要があります。その一方で、すべての紛争当事者は人道援助団体が援助を必要としている人びとにアクセスできるよう、約束しなければなりません」と言葉を強めた。

武力衝突から逃れ、カニャルチニャで避難生活を送るサブリナさん。12カ月の娘にはしかの予防接種を受けさせるため、避難民キャンプを訪れた<br> Ⓒ Michel Lunanga/MSF
武力衝突から逃れ、カニャルチニャで避難生活を送るサブリナさん。12カ月の娘にはしかの予防接種を受けさせるため、避難民キャンプを訪れた
Ⓒ Michel Lunanga/MSF

MSFのコンゴでの緊急対応活動

MSFは2022年4月、ルチュル郡の避難民に医療を提供するため、緊急対応を開始。2022年5月、避難民が初めてゴマに押し寄せた後、MSFの緊急対応チームは、最初はムニギとカニャルチニャ、最近ではブレンゴとルシャガラの避難民の非公式居住地において、診療、給水設備の設置、衛生状態の改善を行った。2023年2月にはムウェソ市で一時避難民約3万人へ医療・人道援助を提供。現在は、ルベロ郡のカイナと南キブ州のミノバで避難民への対応を強化している。

また、MSFの医療チームは、ゴマ、ルチュル、キビリジ、バンボ、ビンザ、ムウェソ、マシシ、ワリカレで通常の活動を維持し、北キブ州全体の数千人の人びとに必須医療を提供している。

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