コンゴ民主共和国:危険にさらされる医療援助──2つの地域からやむなく撤退

2022年03月30日
医療施設や医療従事者への攻撃が頻発している。荒らされたイトゥリ州の病院=2019年 © Alexis Huguet/MSF
医療施設や医療従事者への攻撃が頻発している。荒らされたイトゥリ州の病院=2019年 © Alexis Huguet/MSF

部族間の緊張により武力紛争が激化している、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)北西部のイトゥリ州。昨年10月28日、同州ジュグ地区の路上で、国境なき医師団(MSF)の車両が正体不明の武装集団の銃撃を受け、2人のスタッフが重傷を負った。

事件から4カ月が経ったが、紛争に関わる全当事者から安全の確約を得られないため、MSFはジュグ地区のニジとバンブー における援助活動からの撤退を決定した。

MSFは事件後、紛争の全当事者に、今回の加害行為を許さず、国際人道法を尊重するよう求めた。医療施設、保健医療従事者、救急車、そして患者や負傷者は、保護されなければならない。合わせて、当局に捜査を要請したものの、いまだ立件されていない。

MSFオペレーション・マネジャーとしてコンゴを担当するオリビエ・メズエはこう話す。
 
「私たちには、プロジェクトの打ち切りという選択肢しか残されていませんでした。危険性が非常に高く、MSFが安心してまた現地に入ることはできません。緊急のニーズを抱える人びとへの深刻な影響が考えられ、非常に残念な決定です。それでも、人命を救うにあたって人命を危険にさらすわけにはいかないのです」

MSFはドロドロとアングムなど、イトゥリ州内の他の地域で医療・人道援助を継続するとともに、ニジとバンブーの地元保健局への支援も継続し、数カ月分の医薬品を提供する予定だ。
 
「今回限りの寄贈ではMSF撤退の穴埋めにはなりません。MSFが撤退することで、医療を求める人たちに影響が出てしまうことを本当に苦しく思います」とメズエは語る。

イトゥリ州ニジの国内避難民キャンプ。紛争から逃れた人びとが暮らす © MSF/Avra Fialas
イトゥリ州ニジの国内避難民キャンプ。紛争から逃れた人びとが暮らす © MSF/Avra Fialas

全ての紛争当事者は、窮地に置かれた民間人へ滞りなく人道援助が提供されるよう促し、人道援助に携わる者を尊重・保護することが求められる。そのため、MSFは当局への捜査要請を続け、全ての紛争当事者と影響力を持つ人びとに、住民が援助を受けられる環境の確保を求めている。

今回の事件の前にも、イトゥリ州におけるMSFの医療援助は被害を受けてきた。昨年6月には、支援先であるボガの町の主幹病院が地域の戦闘により著しく損壊。少なくとも12人が亡くなり、集中治療室など複数の建物が焼き落とされ、院内薬局と備蓄医薬品が略奪された。

MSF活動責任者のジェローム・アランは次のように懸念を示す。「私たちは多くの医療施設が攻撃や略奪を受け、さらにはこの地域が無法状態と化していることを深く憂慮しています。犯罪を野放しにすれば、暴力はさらに過熱するでしょう」

医療が危険にさらされているのはこの地域だけではない。MSFはコンゴ国内の他の地域でも、イトゥリ州と同様に医療・人道援助従事者が標的となる事態に直面している。
 

MSFは、イトゥリ州のニジとバンブーで2018年6月に活動を開始。長年の紛争のあおりを受けた約47万1000人に、子どもの栄養失調治療などを中心とした医療援助を提供。また、一帯の避難者のために、清潔な飲み水を供給し、トイレやシャワーも設置した。

そのほか、同州ではドロドロとアングムの保健省管轄の病院2カ所、診療所12カ所、簡易診療所3カ所、地域医療現場32カ所に協力し、小児疾患、栄養失調、マラリアの治療や、性暴力被害者への手当と心のケアを提供。今年3月には、ブニア市の複数の病院をサポートし、戦闘による負傷者の治療にも携わっている。

MSFはコンゴで1977年から活動し、現在は国内26州のうち20州でプロジェクトを展開。紛争と暴力の被害者や住まいを追われた人のほか、コレラ、はしか、HIV/エイズなどの感染症の患者に医療援助を届けている。また、緊急対応チームを国内各地に配置し、感染症の流行や自然災害、紛争に対応できる体制を整えている。

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ