「子宮に棒を突き刺して」——国際女性デーに知る、安全な中絶が重要なわけ

2019年03月08日

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妊娠中の女性が亡くなってしまう原因はさまざまあるが、世界の妊産婦死亡の大きな原因の1つが「安全でない中絶」だという事実は、日本では想像できないかもしれない。国境なき医師団(MSF)が活動している国や地域では、紛争、貧困、性暴力などで望まない妊娠をした女性たちが、危険な方法で中絶を試みている。その方法は壮絶だ。女性たちが命の危険を冒すことのないよう、MSFは「安全な中絶」をすすめている。国際女性デーに際し、女性の命を守るこの取り組みについて知ってもらいたい。 

壮絶な方法で中絶を試みる女性たち

2010~2014年、世界の妊娠例の4分の1が何かしらの理由で人工中絶に至った。重要なのは、それが「安全に」行われているのか、という点だ。世界保健機関(WHO)によると、安全でない中絶とは望まない妊娠を終わらせる処置で、必要な技術がない人の手によるものか、最低限の医療水準がない環境で行われるか、またはその両方の状況を指す。今も世界中の妊産婦死亡の12例に1例以上が安全でない中絶によるもので、関連死を含め約97%は、MSFが援助活動をしているアフリカ、中南米、南・西アジアで起きている。

2017年、MSFは中絶合併症の女性2万3000人余りを治療した。安全でない中絶が原因と疑われる産科合併症が全体の30%までを占める病院もある。西アフリカで活動したMSFで女性の健康アドバイザー、クレア・フォザリンガム医師は「手術室で女性たちの処置にあたっていると、多くの場合、子宮頚部に棒を突き刺したようなあとが見られます」と語る。

鋭い棒状の物を膣から頸部、子宮まで挿入したり、漂白剤などの毒性物質を注射したり、薬草を膣に入れる、腹部を殴打したり転倒で外傷を与えるような危険な方法がとられている。その多くは全く効果がないばかりか、出血過多や敗血症、臓器損傷などの傷害となり、子宮摘出が必要な重症例にもなりかねない。 

助けを求めてきた少女

中絶を決めた女性は、安全かどうか、合法かどうかに関係なく実行する傾向がある。それほどに、妊娠を続けることが困難で耐えられないからだ。安全な中絶処置が望めない場所、法律で中絶が禁じられているような場所では、命の危険を冒しても中絶に踏み切る。以前は法律で中絶が厳しく規制されていたコンゴ民主共和国で、ある少女を診察したMSFの救急医、ジャン=ポールは、今もその体験に心を痛めている。 

少女は安全な中絶の処置を受けられず、再び来院したときには重症で昏睡状態になり、亡くなった。コンゴではその後、2018年4月の法改正により、どの医療機関でも、強制性交や性的虐待に遭った女性や心身の健康が危険な状態の女性への妊娠中絶処置の提供が義務化されている。しかし多くの国で中絶はいまだ犯罪とされており、特に厳しく取り締まられている場所では、中絶は危険なものになりやすい。

たとえ合法化されても、関連機関や保健医療従事者からの反発、意思決定権者の知識不足などにより実行されず、いまだ多くの女性がどうすれば処置を受けられるかを知らない。保健医療のひっ迫した場所では、中絶を担うスタッフへの研修、制度の後押しや指導、倫理面での支援も必要だ。

必要なのは命を守ること

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中絶を選択した女性たちは、避妊薬を使っても効かなかった人や、中断してしまった人、妊娠を強制させられた人や、性暴力によって妊娠した人もいる。また、経済的・心理的に追い詰められた人、人道危機に巻き込まれた人もいる。

MSFは、活動先の地域住民や保健官庁、他の保健医療NGOと協力し、医療の受けられない女性や人道危機に巻き込まれた女性のために、避妊薬、中絶後ケア、妊娠の安全な中断の普及を図っている。女性たちに必要なのは是非の判断や断罪ではなく、専門家に相談でき、質の高い処置を受けられる医療だ。安全な中絶が適切な時に、信頼性と匿名性と技能と思いやりをもって行われなければならない。避けられるはずの死や苦痛を減らしていくよう、MSFは医療・人道援助団体としてこの取り組みを続けていく。 

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