ロヒンギャ危機から6年──国際援助が削減される中、高まり続ける医療ニーズ

2023年08月28日
バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプ。仮設の住居が密集して並ぶ © Victor Caringal/MSF
バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプ。仮設の住居が密集して並ぶ © Victor Caringal/MSF

弾圧を受けたロヒンギャの人びとが、ミャンマーからバングラデシュへ大規模な避難をしてから6年。世界最大となった難民キャンプの医療ニーズは依然として切迫している。

そのような中、世界の複数の地で大規模な人道危機が発生したことを受け、ロヒンギャの人びとへの国際援助は減少。国籍も法的地位もなく、生活のほとんどを人道援助に頼らざるを得ない100万人の人びとが、さらなる苦境に立たされている。

「一時的」な環境が日常に

ミャンマー北西部のラカイン州でミャンマー国軍によって行われた激しい弾圧により、2017年8月からの数週間で70万人を超えるロヒンギャの人びとがバングラデシュのコックスバザール県へ逃れた。悲惨な暴力から逃れた人びとに避難場所を提供するという一時的な対応のまま、抜本的な解決策が見いだされず危機は長期化している。

キャンプは現在、緊急事態がピークに達した当初に比べれば道路やトイレも整備され、飲み水も得られるようになった。しかし人びとはいまだに過密状態の仮住まいで暮らしており、恒久的な建物の建設は許可されていない。

この地域は自然災害が多いが、竹やビニールシートで作られた仮住まいは、強風や豪雨、地滑りによって簡単に壊れてしまう。さらに、キャンプを安全な地域へ移すこともできない。今年5月に大型のサイクロン「モカ」が発生した際がその一例だ。国境なき医師団(MSF)の病院のほとんども、崩壊の危機にさらされて2日間閉鎖せざるを得なかったほどだ。

また、これまでキャンプで発生した火災で多くの仮設住宅が被害に遭った。防ぐことができるにも関わらず、火災はいまも大きなリスクの一つだ。

2021年にキャンプで発生した火事で数千の仮設住宅が被害に遭った © Pau Miranda
2021年にキャンプで発生した火事で数千の仮設住宅が被害に遭った © Pau Miranda

国際的な資金援助が減少

ロヒンギャ難民のミャンマーへの帰還は、夢物語のままだ。人びとは市民権の承認や元の土地にある家へ戻ることなど、権利の保証を必要としている。

時は動きを止めたかのようだ。新型コロナウイルスの流行以来、キャンプはフェンスと有刺鉄線で囲まれており、人びとは働くこともキャンプから出ることも許されていない。およそ100万人のロヒンギャ人びとが、食料や水を手に入れ、医療を受けられるかどうかは、国際的な人道援助にかかっている。

しかし、国際的な資金拠出機関による支援は不足している。過去2年間、国連からの資金の要請に対する加盟国の拠出は減少。2021年には要請に対し約70%だったが、2022年には60%、そして2023年にはいまのところ約30%しか充当されていない状況だ。今年3月には、世界食糧計画(WFP)による食糧配給が、1人当たり月12米ドル相当から10米ドルに、さらに6月にはわずか8米ドルへと削減された。

国際的な資金援助の減少により、その資金に依存する組織が運営する医療施設は、人材や物資などの困難に直面している。水と衛生に関する設備の管理についても課題となり、キャンプでは衛生の維持や飲料水の入手に問題が生じている。

衛生環境の悪化は病気のリスクを高める © Victor Caringal/MSF
衛生環境の悪化は病気のリスクを高める © Victor Caringal/MSF

高まる医療ニーズ デング熱の患者は前年の10倍に

不衛生な生活環境は人びとの体に影響を与え、さまざまな健康問題を引き起こしている。昨年は蚊が媒介するデング熱の患者が前年の10倍となり、2023年の初めには、水が原因となるコレラの患者が2017年以来、週単位で最も多く増加した。

また、5月に明らかにされた調査結果によると、キャンプに住む人びとの40%が、皮膚感染症である疥癬(かいせん)に苦しんでいる。これは、世界保健機関(WHO)が推奨する、疥癬の集団薬剤投与を開始する目安である10%を大きく上回っている。

MSFはこの6年来、感染症や呼吸器感染症、皮膚感染症など、生活の困難さがもたらすさまざまな病気の治療に当たってきた。さらにこの数年、人びとが定期的に医療を受けられないことにより、糖尿病や高血圧、C型肝炎など慢性疾患の治療へのニーズも高まっている。

MSFが2017年に設立した「丘の上の病院」の外来部門を訪れる患者の数は、2022年に50%増加した。この状況は、疥癬の流行に加え、資金不足のため昨年この地域でいくつかの診療所が閉鎖されたことと密接に関係している。

「丘の上の病院」とゴヤルマラにある母子病院では、2023年1月から6月にかけて、小児科の入院患者数が前年同期に比べて非常に増加した。7月、医療ニーズのピーク期が始まったばかりであるにも関わらず、小児科の入院患者数はすでに定員に達している。

疥癬の感染方法や治療の仕方を写真や絵を使って説明する © MSF/Malvoisin
疥癬の感染方法や治療の仕方を写真や絵を使って説明する © MSF/Malvoisin

資金拠出の拡大を

MSFは、国際的な資金拠出機関の援助削減に、直接影響を受けているわけではない。しかし、増え続ける医療ニーズを受け入れる能力は限界に達しつつある。診療件数が増えることで、人材や病床管理、医薬品の供給に負荷がかかるからだ。

この状況に対処するため、MSFは2つの新たな方法を取っているが、いずれも限界はある。

非感染性疾患や疥癬など特定の疾患において、診療所に来る患者の数は、すべてを受け入れられないほどの水準に達している。そこでMSFはこの1年、病気の重症度などによって、より厳格なトリアージ(優先順序づけ)をせざるを得なくなった。緊急性の低い患者は他の診療所に紹介することとなるが、その診療所は、医薬品の不足などにより十分な治療を行えないことが多い。

小児科においては、医療ニーズが特に高まるピーク期を見越して、ゴヤルマラの小児科病棟に新しい仮設ベッドを設置して受け入れ能力を高めた。また昨年以来、通常は小児を受け入れていない「丘の上の病院」に、多くの小児科患者による入院を受け入れざるを得ない状況となった。このため、他の患者の入院を圧迫している。これらは長期的には満足のいく解決策とはなり得ない。ピーク期が始まりつつある中、ベッドを増やすだけではニーズに対応しきれないのではないかと懸念している。

ロヒンギャの人びとがキャンプに閉じ込められ、人道援助を命綱とするサイクルから逃れられない限り、彼らの体と心に取り返しのつかない影響が及ぶのを防ぐためには、国際的な資金拠出機関による大幅な援助拡大が不可欠だ。

6年にわたってキャンプでの生活が続いている  © Victor Caringal/MSF
6年にわたってキャンプでの生活が続いている  © Victor Caringal/MSF

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