ブルキナファソ 暴力の代償を払わされる一般の人びと 世界から忘れられた人道危機
2022年07月19日西アフリカの内陸国ブルキナファソでは、武装勢力による暴力や組織的な殺害、誘拐などの高まりにより多くの人びとが国内避難民となり、人道援助を必要としている。2020年1月に60万人以上だった国内避難民の数は、現在190万人にまで増加。多くの医療施設が閉鎖し、人びとは医療を受けることが困難な状況に陥っている。
国境なき医師団(MSF)のプロジェクト・コーディネーター、ハマ・アマドゥは、2021年2月から12月まで北部ジボで活動。当時の様子を振り返り、国際社会はサヘル地域で起きている人道危機に背を向けてはならないと訴える。
危機の中心で苦しむ一般の人びと
いま、ブルキナファソはサヘル地域の危機の中心にあり、非常に不安定で複雑な状況の中で、何百万人もの人びとが苦しんでいます。ジボの町には、ここ数年、隣国マリの危機から生じた治安と人道状況の変化がはっきりと表れています。
私は半年前にジボのプロジェクトを離れましたが、最新の襲撃事件のニュースを読んだり、いまもそこで住民支援を行っている同僚と話したりすると、とても悲しく心配になります。
2021年2月に私が到着したときは、治安は少しよくなっていました。それ以前の数カ月間は人道援助に携わるスタッフの拉致といった事件が起きていた時期で、それに比べれば、状況は落ち着いていました。以前は、民間人や宗教指導者の殺害、軍のキャンプへの攻撃も起きていました。
状況は悪化、人道危機は深刻に
2020年10月から2021年10月まで1年ほど「穏やかな時期」が続いたものの、その後、紛争は急速に激化し始めました。住民が暴力に巻き込まれる事件が再発し、武装勢力とブルキナファソの国防・治安部隊との間でも戦闘が起き、現在に至ります。
2021年3月上旬、首都のワガドゥグに避難させる妊婦を乗せた救急車が手製の爆弾の上を走ったという事件を聞いたときのショックは忘れられません。その日、必要な医療を提供するために患者さんや付き添いの看護師、医療スタッフを運んでいた車両で4人が亡くなったのです。
それ以来、事態は悪くなるばかりです。ジボの町は2022年2月中旬から包囲され、人や物、人道支援物資もほぼ入れない状態です。道路は危険な上に、ジボとワガドゥグを結ぶ人道目的のフライトは不定期で、治安悪化のため数週間停止することもあります。また、周辺地域への移動もここ数カ月で難しくなりました。
治安の悪化を受けて大勢の人が避難した結果、約6万人だったジボの人口は、現在では約35万人になっています。MSFの医療チームは4年前からジボで活動を行ってきたこともあり、状況の進展の速さ、人びとの医療・人道ニーズの急激な高まりを目の当たりにしてきました。
また、現地の人びとにとって医療はますます受けづらくなっています。ジボが位置するサヘル地域では、現在65%の診療所が閉鎖しているか、最低限の診療しか行っていません。治安の悪さと深刻な人員不足が理由です。治安が悪いため、私たちのような医療・人道援助団体は、郊外に住む人たちのところに行けないことも多いのです。
いま起きている危機を忘れてはならない
私たちの行っている医療活動は、ジボの人びとが経験している現実を反映しています。暴力に加えて、人びとは健康の問題にも直面しています。私たちのチームが扱う体調不良の多くは、清潔な水の不足、栄養失調、薬が手に入りづらいこと、家計に余裕がないために受診を遅らせたことなどが引き金となって起きています。
そのような事態を受けて、MSFは給水活動も始めました。しかし、水の供給をしている他の団体と合わせても、全住民の給水ニーズを満たせないこともよくあります。
ジボで起こっていることは、この国全体で起きていることです。ここでは、民間人と地元住民、避難民が危機の代償を払わされているのです。世界がウクライナ戦争やその他の人道緊急事態に目を向ける中、この地域で進行している危機を忘れてはいけません。私たちに求められていることは、このような人びとの話を伝えることをやめず、苦しんでいる人びとに医療・人道援助を届け続けることです。国際社会はこの危機から目を背けてはいけません。