子どもの結核でWHOが新ガイドライン──診断の格差はいまだ課題

2022年03月24日
結核患者の多い中央アジアのキルギスで、小児結核と診断された生後9カ月の赤ちゃん=2013年 © Vincent Tremeau
結核患者の多い中央アジアのキルギスで、小児結核と診断された生後9カ月の赤ちゃん=2013年 © Vincent Tremeau

世界保健機関(WHO)は3月21日、子どもと青年における結核の管理についてガイドラインを更新した。今回の改訂には、子どもの結核に対する診断と、分散型のケアモデル(※)による治療の早期開始に関する推奨事項が含まれている。

子どもの結核は60%以上が診断されず、結核で死亡した子どもの96%は治療を受けていないと推定される。国境なき医師団(MSF)は、WHOガイドラインの改訂を歓迎するとともに、結核の高まん延国を含むすべての国に対し、避けられる子どもの死を防ぐために推奨事項を採用するよう求める。
※地域の診療所など患者に身近な医療機関で治療を受ける

子どもの結核診断の難しさ

子どもの結核の検査には困難が伴う。採取する痰(たん)を出させることが難しい上に、子どもの検体には菌が少なく、検出しづらいからだ。WHOは今回、これらの検体に加えて、便による検査を推奨している。その場合、米国セフィエド社のみが製造する自動遺伝子解析装置『GeneXpert Ultra』を用いる必要があるが、検体カートリッジが高価なため、実施できない国は多い。また、結核感染者が多いへき地の環境では、こうした機械の使用は適さない。セフィエドによる中低所得国での価格設定は、1回の検査につき9.98米ドル(約1208.39円)。しかしこれは、同社のカートリッジ製造コストの2倍を上回る額だとMSFは分析している。

結核と診断検査に詳しいMSFの専門家2人は以下のようにコメントした。

「子ども用の新たな検査法の開発を」
ラズロ・フィデル医師(MSF結核オペレーション・リサーチマネジャー/南スーダン・マラカル)

長年の紛争を経験し、医療体制がぜい弱な南スーダンで、MSFなどの医療団体は、子どもの結核の診断や治療で多くの壁に直面しています。資源が乏しく紛争に苦しむ多くの国々で、子どもの結核の適時診断と治療を容易にするようなガイドラインの改訂を心強く思います。結核は命に関わるけれど治療が可能な病気。子どもの患者の死亡を大幅に減らすことにつながるのではないでしょうか。

MSFは、経験豊富なスタッフとあらゆる検査法を揃えていますが、ほとんどの場合、子どもの結核を診断で確定することはできません。そのため、手遅れになる前に命を救うための結核治療なのか、あるいは他の病気を抱えている可能性があり結核治療は不要なのか、治療の必要性をよく見極めなければなりません。

検査での最大の課題は検体の採取です。一般的に痰(たん)は精度が低く、胃液検査などの代替法は子どもに向いていません。咽頭をぬぐう、あるいは指先を刺して少量採血するなど、検体が採取しやすく、へき地の環境でも使用できるような子ども用の結核検査の開発を期待します。

「へき地に適した検査が必要」
ステイン・デボルグレブ(MSFアクセス・キャンペーン診断検査顧問)

結核対策を行う多くの国では、WHOが推奨する『GeneXpert Ultra』の入手が困難です。セフィエド製のこの装置はあまりに高価で、インフラの整っていないへき地では機器が扱いづらい。こうした地域にこそ、診断しなければならない子どもたちがいるのですが。結核の子どもに治療を提供する者として、MSFはセフィエドに対しGeneXpert検査の価格を早急に下げるよう求めるとともに、他社にも遠隔地での使用に適した検査機器を開発するよう働きかけていきます。

数十年も前から結核の検査法を改善することが求められてきました。にもかかわらず、診断が遅れたり、有効な検査を受けられなかったりして、治療の機会もなく亡くなっていく子どもが後を絶たないのは痛ましいことです。

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