【動画】インスリン発見から100年 たった1ドルで特許を手放した医学者、その思いを実現させるには

2021年04月14日掲載

いまから100年前、糖尿病の薬物療法に使われるインスリンが発見され、糖尿病治療は飛躍的な進歩を遂げた。

研究チームを率いたのは、カナダ の医学者、フレデリック・バンティング。彼はその功績によってノーベル生理学・医学賞を受賞したものの、「糖尿病に苦しむ世界中の人びとのために使ってほしい」と、インスリンの特許をわずか1ドルでトロント大学に売却した。

しかし、そんなバンティングの願いとは裏腹に、現在世界に約4億6300万人いる糖尿病患者のうち、約半数はインスリンを入手できない状況にある。その背景にある事情とは、そしてバンティングの思いを実現させるために必要なこととは──。

インスリンの普及を妨げる3つの理由

1. 大手製薬会社による市場の独占

インスリンの普及が進まない最大の理由の一つは、製造に多額の費用がかかることだと考えられているが、それは事実ではない。

インスリン製造のコストは、最大で患者一人当たり年間102ポンド(約1万5500円)程度だ。しかし国境なき医師団( MSF)が活動で使うインスリンの価格は、種類に応じて患者一人当たり220ポンド~900ポンド(約3万3000円~13万7000円 )と非常に高額になっている。

これはインスリン市場の99%が、ノボ ノルディスク ファーマ社 、イーライリリー・アンド・カンパニー社 、サノフィ社の3つの大手製薬会社によって独占されているためだ。

市場競争が促進され、後発薬が作られ れば、患者や医療機関の費用負担が軽くなる。既に複数の企業が後発インスリンの製造に乗り出しているが、後発薬の開発には厳しい審査を通過しなければならない。

MSFは、後発薬メーカーのインスリン市場参入を後押しするとともに、糖尿病治療に使われる一連のツールの改善にも努めている。

2. インスリンは冷蔵保管しなければならないという誤解

インスリンの保管には推奨される温度がある。MSFの活動地の多くは気温がその温度を上回るため、インスリンは冷蔵庫での保管が必要だと考える人は多い。

これは自宅に冷蔵庫のない貧困層や、難民キャンプで暮らす患者にとって大きな負担になる。インスリン治療を受けるために1日に何度も医療機関に足を運ぶのは、交通費がかかるだけでなく、治安の悪い地域では外出すること自体が危険を伴うからだ。

しかし、MSFとジュネーブ大学が主導した研究の結果、インスリンの保管に適した温度は37℃以下であることが証明された。常温保存が可能であれば、治療のハードルは格段に低くなる。 

3. 自己管理の難しさ

糖尿病は大きく分けて「1型」と「2型」に分類され、1型の患者は指に針を刺して血糖値を測定し、1日に何度もインスリン注射を打たなければならない。血糖値には食事が大きく関係しているが、MSFの活動地の多くは食料事情が悪く、病気の自己管理をさらに難しくしている。

しかし簡単に注射ができるペン型の注射器や、採血せずに血糖値を測定できる機器を使えば、患者の生活の質を大幅に改善することができる。

これらの機器には費用がかかるため、誰もが使えるわけではない。しかし普及が進めば人びとが病気を自己管理できるようになり、長期的には糖尿病で合併症を発症する患者の減少を期待できる。 

人道危機下にある人びとへ、糖尿病治療を届ける

糖尿病患者の割合は、低・中所得国で急速に上昇している。特に紛争地や難民キャンプなど、弱い立場に置かれた人たちの多くは、糖尿病と診断されても必要な薬を手に入れることができず、合併症による失明、下肢切断、心臓発作、脳卒中などのリスク とともに暮らしている。

インスリンの発見から100年が経ったいまこそ、バンティングの思いを受け継ぎ、世界中の誰もが糖尿病の治療を受けられる環境を実現していかなければならない。 

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