薬があれば、助かる命があるから──アクセス・キャンペーン 21年の歩み
2020年11月25日「薬さえあれば助かるのに、開発されない」「高くて手に入らない」「活動地へ届かない」……
国境なき医師団(MSF)が活動地で抱えているこんな葛藤を乗り越えるために、20年以上続けている活動があります。それが「アクセス・キャンペーン」。
薬や医薬品の入手を阻む壁を取り除くために、社会へ訴えていく活動です。
病気を克服した人びとの笑顔──それはこの息の長い活動の成果の一つなのです。
より良い治療を行うために
HIV/エイズで何万人もの人びとが亡くなっていく……。20年以上前のアフリカで、MSFはこのような惨状を目の当たりにしていました。当時、治療薬はあまりに高価で、途上国の人びとは入手できなかったためです。こんな理不尽な理由で命を落とす人びとを減らしたい。その思いで1999年、ノーベル平和賞受賞の賞金を基に、MSFはアクセス・キャンペーンを立ち上げました。
主な活動は、多くの人が適切な治療を受けられるように社会に喚起していくことです。例えば署名活動やSNSを使って人びとの共感を得て、それを基に製薬会社に薬やワクチンの価格引き下げ交渉を行います。また国際会議などの場で、患者に必要な薬の研究開発を求めます。
診断の遅れが命取りに
アクセス・キャンペーンの重点的な取り組みの一つが、結核の診断・治療の改善です。結核はいまも年に約160万人の命を奪っています。しかし診断ツールや薬の開発が進まず、正しく診断されない人、薬の副作用で苦しむ人が絶えません。
フメザさんもその一人でした。公的機関で通常の結核治療を受けても回復せず、2010年にMSFの病院で薬剤耐性結核の治療を開始。程なく超多剤耐性結核と診断された上に薬の副作用で聴覚障害も表れ、大学生活を諦めました。MSFでは何とか国外から高価な抗生物質を入手したところ奏功。フメザさんも過酷な治療を諦めず、ついに3年後、完治の日を迎えました。
一命を取り留めた人がいる一方で、いまも途上国では命綱となる薬が入手できない状況が続いています。必要な治療を受けられることは、本来は誰もが持つ基本的な権利。それがかなうよう、MSFは活動を続けます。
「何が問題なの?」
▶高い
薬やワクチンなどの開発企業が価格を高く設定したり、特許を独占して価格競争を阻んだりすることで、薬やワクチンを入手しにくくなるだけでなく、金銭的負担が大きくなり長期的な使用も難しくなります。MSFはこうした企業に、価格引き下げの交渉を続けています。
▶開発されない
主に途上国の人びとがかかる結核やマラリア、顧みられない熱帯病などの新薬や診断ツールは、企業にとって利益が見込めないため開発が進んでいません。一方、既存のものは効果が低い、薬の場合は副作用が強いなどの弊害があり、患者が治療を続ける障害に。
▶届けにくい
ワクチンの多くはセ氏2~8度で温度管理を行わないと効果が薄れたり失われたりします。しかし活動地では低温輸送が難しく、コストもかかり、その分治療できる患者数は減ります。この点も考慮された開発をMSFは求めています。
MSFのチャレンジと実績
▶HIV薬が10年で100分の1の価格に
※1ドル=105円で計算
▶肺炎のワクチンが1人当たり9ドルに
薬やワクチン、診断技術をすべての人に
※この記事はニュースレター『REACT』2019年12月号を一部編集のうえ転載しました。