虐待・搾取・ハラスメントのない活動環境の実現を目指して

2021年07月12日掲載

国境なき医師団(MSF)は、いかなる虐待やハラスメントも許さない活動環境づくりを推進しています。MSFの指導部は率先してこの問題に向き合い、虐待・ハラスメントの防止や問題発覚後の対応策の強化に取り組んでいます。また、全てのMSFスタッフには、MSFの行動規範憲章で規定された基本理念の遵守を徹底させます。

2018年2019年、そして2020年にも、MSFは虐待・ハラスメント撲滅に向けて行ってきた取り組み、課題、前年度に寄せられた容認できない行動の通報件数と内部調査の結果を声明として発表してきました。そして今年も、2020年の通報件数、および現在の取り組みに関する最新状況をご報告いたします。MSFは引き続きこの重大な問題に一丸となって取り組んでまいります。 

不正行為の通報体制

MSFでは、あらゆる種類の不正行為を、予防、発見、通報、対応するため、組織内外から通報できる体制を以前から導入しています。全てのMSFのスタッフは、所属部門長や専用のメールアドレスをもつ窓口を通じて不正行為を通報するよう奨励されています。MSFの活動地においても同様に、不正行為の被害者や目撃者はMSFに通報するよう奨励されています。

MSFは団体内での意識向上を目指して全スタッフに通報体制の存在を周知しています。通報体制に関する情報はマニュアル化されているほか、ブリーフィング、活動地視察、研修等の際に伝えられています。さらに、虐待とその対応に関するオンライン教育ツールは定期的に更新・改善されています。

過去数年の間にMSF全体でこの問題に対して行われたさまざまな取り組みの例です。
・ 研修、活動地視察、調査を担う新たな役職の創設や人員増強
・ 問題解決に必要な対策を検討するためのスタッフ向けワークショップや個別相談の実施
・ ハラスメント、虐待、搾取の通報の仕方についてスタッフに提供される手引きの改善・周知・徹底
・ 活動地における患者や地域社会への啓発の強化
・ MSF全体でのデータ収集・共有

機密保持

MSFが目指すのは、最大限の機密保持性の徹底です。被害者および内部通報者の身の安全や雇用、守秘的情報を守り、安心して通報できる環境を作ります。

不正行為が通報された際、MSFは被害者と内部通報者の安全と健康を最優先します。被害者には細心の注意のもと、直ちに心理ケアと医療ケア、法的なサポートを提供します。

事態を司法の手に委ねるべきか否かについて、MSFは常に被害者の判断を尊重しています。未成年に対する性的虐待が起きた場合には、MSFは司法当局への通報を基本方針としています。しかしその場合も子どもの利益と、該当する司法プロセスの有無を最優先しています。

2020年実態

2020年の通報・苦情の件数は、前年と比較して22%増加しました。この増加は、過少報告という長期的な問題に対処していることの表れでもあります。通報した人や、事案の目撃者が勇気を出して声を上げられるようになっていること、また、通報体制やその手段に対する認識が高まっていることを示しています。

一方で、過小報告は依然として課題です。特に、患者やその介護者、地域住民からの通報・苦情の数は増えてはいるもののまだ少なく、懸念されます。これらの人びとに対して、事案の予防に注力し、地域に適した通報体制を整える必要があります。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響で、不正行為を防止するための対面式の活動が減少しています。予防のための活動地訪問の数、啓発活動の参加者数も減少しています。そこで、トレーニングのオンライン化に注力し、結果として、行動問題に対処するためのトレーニングを受けたスタッフの総数は2019年に比べて増加しました。

2020年は延べ6万3000人以上がMSFに勤務し、そのうちの90%以上が援助の現場で活動に携わりました。合計444件の苦情が申し立てられ、うち389件が活動地で働くスタッフから、55件が活動統括本部(オペレーション・センター、事務局など)から寄せられました。

活動地からの通報・苦情389件は、2019年の318件から増加しています。これらのうち、調査によって150件が虐待ないし不適切行為にあたる事態と確認しました(2019年は156件 )。その中で82件が、性的虐待、ハラスメント、搾取、権力の乱用、心理的嫌がらせ、差別、身体的暴力など、何らかの形態の虐待です(2019年は106件 )。合計37人のスタッフを、何らかの虐待を理由に解雇しました(2019年は55人)。また、事案の重大性に応じて、停職、降格、正式な文書による警告など、他の処分もとっています。

82件の虐待のうち、55件が性的虐待、ハラスメント、搾取で、2019年の63件より減少しています。当該の事由で解雇されたスタッフは28人で、この数値も2019年の40人から減少しています。その他、心理的嫌がらせが14件、権力の濫用が8件、身体的暴力が3件、差別が2件、確認されています。

不適切行為が確認された事例は68件で、2019年の50件から増加しました。不適切行為にあたるのは、不適切な人事管理・人間関係、社会通念上不適切とされる行動、チームの団結を揺るがす行動、薬物やアルコールの乱用などです。

これまで通報が少なかった人びとからの通報数は、わずかながら増加していますが、まだ多くの課題が残されています。現地採用スタッフによる通報の数は、2019年の144 件から、2020年は172件に増加しました。通報の意識と通報体制への信頼がわずかに向上していると言えるかもしれませんが、MSFの活動現場では現地採用スタッフが80%を占めていることを考えると、まだやるべきことがあります。

患者とその介護者、地域住民、その他の外部関係者からの通報は23件で、2019年の20件からごくわずかな増加でした。MSFがさまざまなプロジェクトで膨大な数の医療活動を行い、支援先のコミュニティとさまざまな形で接触していることを考えると、これは相当数の過少報告と考えられます。弱い立場にある患者や地域住民がより通報しやすいように、既存の体制をさらに適応・改善する必要があります。

2020年は、現地からの通報とともに、初めて世界各地の活動統括本部(オペレーション・センター、事務局など)からの通報・苦情をまとめました。MSFの全スタッフの約10%にあたる5596人が37の活動統括本部に勤務しており、55件の事案が、チームの管理者または事務局独自の通報体制を通じて報告されました。

上記の通報・苦情のうち、調査によって20件が虐待、18件が不適切行為に当たる事態と確認しました。合計20人のスタッフが、事実関係の重さに応じて、解雇または厳重注意などの処分を受けています。

活動統括本部における通報・苦情のデータは、異なる法律や人事プロセスに関連しているため、団体内で完全に調整していない可能性があり、引き続き標準化する努力を続けています。

MSFは引き続き、虐待やハラスメントのない職場環境を実現・維持するために、また私たちが支援する人びとに危害を加えないために、一丸となって取り組んでまいります。 

2019年実態調査結果の更新

情報の収集と集計方法を改善した結果、2019年の数値が更新され、活動地からの通報件数が以前の推計の322件より少ない318件であることが判明しました。虐待または不適切な行為と確認された事案の数は154件より微増の156件でした。

性的虐待、ハラスメント、搾取、権力の乱用、心理的嫌がらせ、差別、身体的暴力など、何らかの虐待の通報数は以前の推計の104件より増え106件となり、当該の事案を理由に解雇したスタッフの数は57人よりも微減の55人、そのうち性的虐待、ハラスメント、搾取の事由で解雇されたスタッフの数は37人よりも多い40人であることが判明しました。また、患者とその介護者、地域住民、その他の外部関係者からの通報は推定の19件より増え20件であることが判明しました。

本報告の前年件数は更新済みの数値を用いていますが、昨年の声明には更新前の件数を残しています。また、2020年に通報のあった事案の一部は依然調査中で、今後件数が更新される可能性があります。