プレスリリース
アフガニスタン:医療受診に大きな障壁 6年前から改善見られず——MSF報告書
2020年03月17日国際社会による長年の援助と投資にもかかわらず、アフガニスタンでは基礎医療や救急医療を受けることは容易ではない。情勢不安、貧困、病院への攻撃、人材や資機材の不足など、さまざまな要因が人びとから医療を受ける機会を遠ざけている——。国境なき医師団(MSF)はこのたび、現地での聞き取りや臨床データをまとめた調査報告書『リアリティ・チェック:顧みられないアフガニスタンの保健医療危機(原題:Reality Check: Afghanistan’s neglected healthcare crisis)』を発行。多くのアフガニスタン人にとって医療受診には依然として大きな障壁があることを明らかにした。
2014年の前回調査時から状況は改善せず
MSFは2018年11月から2019年5月の7カ月間、アフガニスタン西部ヘラートと南部のヘルマンドの2州で、患者、付添人、MSFスタッフを対象に、聞き取りおよびアンケート調査を実施。その調査結果に医療活動で得た臨床データを加え報告書にまとめた。多くのアフガニスタン人にとって医療受診には大きな障壁があることを示す結果となったが、MSFが同じテーマで報告書を発表した2014年から、状況に改善は見られなかった。治安の乱れと貧困の拡大によって、保健医療は今も多くの人の手に届かないままだ。
人びとの日常生活には、頻発する戦闘と無差別な暴力が浸透し、医療が必要とされる際もその影響を避けられない。調査を実施したヘルマンド州ラシュカルガ市にあるブースト病院の患者の多くは、病院の行き来において、道路に地雷は仕掛けられていないか、途中に検問所はないか、夜間の移動は安全か、戦闘は続いていないかなど、事前にさまざまな状況の検討を迫られる。
同病院の産科を受診している患者の付添人は、「夜は怖くて外に出られないので、いつも日が高くなるのを待ってから病院に向かわなければなりません。我が家では、誰が病気になっても朝を待ちます。たとえ、死にかけていても、です」と証言する。
44%の子どもが手遅れ状態で来院。89%が経済的理由で受診遅れる
こうした治安状況は受診に遅延をもたらす。MSFが運営・支援する医療施設のスタッフは、受診の遅れが、患者の健康に及ぼす致命的な影響をたびたび目にしている。2019年の1月から6月にかけてブースト病院の小児集中治療室に受け入れられ、24時間以内に亡くなった子どものうち、44%は来院が遅かったため病状が著しく進行していた。
一方、貧困も人びとの医療受診に著しく影響している。ヘラート州の地域病院で調査対象となった患者と付添人の実に89%が、経済的なひっ迫から医療の受診を遅らせたことがあると回答。栄養失調の赤ちゃんを治療に連れていくため、友人知人に借りてお金をかき集め、車を手配するまで最終的に8日を要したという保護者もいた。「今日食べるものさえ買えないのに、どうやって薬や医者にかかるお金を払えばいいんですか」と嘆く人もいる。
国内外からの援助による危機打開が急務
近年、アフガニスタンの保健医療体制には一部改善が見られものの、実際の医療ニーズを支えるには、依然大きな隔たりがある。対応能力に関する保健当局の公式見解と、患者が日々直面している状況の乖離は鮮明だ。
アフガニスタンのMSF代表ジュリエン・ライクマンは、「患者さんから耳にするのは、栄養失調の子どもや妊婦、それに、けがをした家族を病院に運び込むまでの長く危険な道のりについてです。十分な薬や適切な人材の足りない診療所の話も聞きますし、治療費のためにかさんでいく借金もやりくりしなければなりません」と話す。
アフガニスタンに安定した未来を築こうと努力している国際社会や国内の関係者は、この国の人道状況がここ何年の間、改善はおろか、一部地域ではむしろ悪化していることを認識すべきだ。無償で質の高い保健医療の普及拡大と、足元の緊急医療ニーズへの対応は、喫緊の優先課題となっている。
MSFは、1980年からアフガニスタンで活動。現在はカブール、ホースト、カンダハル、クンドゥーズ、ヘルマンド、ヘラートの6つの州でプロジェクトを展開している。2018年は41万1700件の外来診療と7万4600件の分娩介助を担い、6890件の主要手術を行った。MSFはアフガニスタンの活動において、各国政府からの資金は充当せず、全て民間からの資金を財源に無償の医療を提供している。