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イノベーションを成功させる! アイデア検証法を解説

2020年06月22日

By マッシモ・ラバシニー 

新型コロナウイルス感染症の世界的流行で、待望されるイノベーション──。新たな治療法やワクチンはもちろんのこと、人工呼吸器の代替品や、個人防護具となる製品、感染経路の追跡方法などの開発が続いています。このような時期にこそ、イノベーションの効果的かつ倫理的な検証プロセスというものを考えるのに適しています。
 
イノベーションのために何かを思いついても、そのアイデアを修正する作業は億劫ではありませんか。「明らかに私の考えは完璧で、改善の余地などないはず……でしょう?!」
 
そんなことは残念ながらなく、建設的な批判は欠かせません。批判は個人攻撃としてではなく、検証により得られた知見なのだと捉えるなら、自分のアイデアや解決策を改善したり、破棄したりすることができます。こうしたプロセスはイノベーションを成功させ、倫理にかなうものにする上で欠かせません。
 
自尊心は、アイデアやその実現方法から切り離しておかなければいけません。むしろ問題そのものに夢中になって、その解決策によって助かる人びとに感情移入するのなら、良い結果へと導かれるでしょう。

リスクは投資に反比例させるべし

良い習慣のひとつに、解決策を早めに検証するというものがあります。時間や労力をかけ過ぎる前にテストしてみることで、小さな失敗から学び、修正を図ることができます。リソースの浪費や他者への影響を最小限にとどめられるので、倫理的でもあります。国境なき医師団のイノベーション・ユニット(JIU)が提唱する「人間中心のデザイン」というイノベーション手法も、このやり方を採用しています。
 
ブランドとオスターヴァルダーによって書かれたアイデア検証のガイドブック『Testing Business Ideas』は秀逸で、以下の図は私のお気に入りです。

Spending Levels(投資の度合い)/Uncertainty & Risks(不確実性とリスク)/Progress(進捗)<br> (Bland and Osterwalder, 2019: 93より)
Spending Levels(投資の度合い)/Uncertainty & Risks(不確実性とリスク)/Progress(進捗)
(Bland and Osterwalder, 2019: 93より)

イノベーションは、海図にない航路を進むようなもので、大きなリスクを伴います。それゆえリソースの投入は慎重になすべきでしょう。より知見を蓄積していければ、その分リスクを減らすことができるので、さらなる投資をするにせよ、安全性が高まっていきます。それこそが検証の目的なのです。
 
例えばこんな状況を思い浮かべてみてください──あなたがレストランを経営していたなら、新作料理をお客さんにどう提供するでしょうか。きっと試食をしてから、手直ししたり、まるきり作り直したり、調味料を変えてみたりすることでしょう。まず何人かの友人に食べてもらうかもしれません。それで友人が哀れな思いをすることになったとしても、あなたにとっては幸いです。どの食材がベストなのかを事前に知れたので、顧客に供する食材を浪費せずに済んだのですから。それに旅行サイト「トリップアドバイザー」などで、批評家気取りの人びとから酷評される前に、レシピの手直しと改善ができたことも有意義です。

テスト選びとタイミング

ブランドとオスターヴァルダーは、実践可能な44のテスト方法を紹介しています。それぞれのテストは複雑さやリソース、目的において異なっています。絵コンテは、初期段階の構想を見直すのに最も安価でかつ手っ取り早いものではないでしょうか。
 
JIUによる一例はこちらでご覧になれます。架空キャラクターを使って物語仕立てでソリューションを説明するので、あなたにとっても顧客にとっても、骨子の部分が有効かどうかをごく早い段階で判断できます。そしてこんな疑問に答える助けにもなります。「物語の中で語られる解決策はうまくいっているだろうか? 効果はあるのか? それとも修正ないしは破棄すべきか?」
 
一方、「インタラクション・プロトタイプ」(ユーザーの反応を検証するためのプロトタイプ)をつくるのは、非常に複雑でリソースも要するテストとなるでしょう。この方法では実際にユーザーが試せるので、例えば操作ボタンの配置は適切かどうか、製品やソリューションがユーザーによって使いやすいものになっているか、あるいは使い勝手が悪く改善の余地があるかなどを知る助けになるでしょう。
 
JIUでも現在、活動地での新人研修に関するプロジェクトで、このテスト方法を導入しようとしています。私たちのソリューションが、それを用いる人にどのように作用するかを見るのですが、より手間がかかるため、前段階での試験を重ね、イノベーションを取り巻く不確実性を大幅減らした上で着手しました。
 
テストによって判明する内容や、必要となる時間と費用はまちまちですが、方法論としての構成は基本的に共通しています。つまり1) 検証可能な仮説を特定し、2) その仮説を実証または反証できるデータを決定し、3) そのデータをどのように収集し、厳密に評価するかを計画します。
 
重要な点は、このようなテストが仮説を完璧に証明したり、反証したりすることはほぼないということです。しかし、あなたの仮説がどの程度、信頼に足るものなのかは確実にわかります。
 
覚えておくべきことは、もし信頼性が失われたとしても、それは個人に帰する問題ではないということです。ひたすら自分のアイデアのために戦うのではなく、開発の初期段階でそれを修正したり、必要に応じて破棄したりできることを前向きに捉えることです。そうすることでイノベーションの不確実性を速やかに減じさせ、解決したい問題の新たな側面も見えてくるでしょう。それはより良い解決策を発案するのに役立ちます。
 
アイデアがあるのなら、試すべし!

This Photo by Unknown Author is licensed under CC BY-NC-ND
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参考文献:
Bland, D., Osterwalder, A., Smith, A. and Papadakos, T. (2019) Testing Business Ideas. 1st ed. New Jersey: Wiley, p.93.

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