ジャパン・イノベーション・ユニットのブログ

有望な遠隔通信ワークショップ

2020年03月25日

有望な遠隔通信ワークショップ。国境なき医師団は使いこなせるか?

By 国境なき医師団ジャパン・イノベーション・ユニット
 

そもそものいきさつ

国境なき医師団(MSF)にいると、あちらこちらへと飛び回ります。そんな風に移動すると、たくさんのお金がかかりますし、環境にも有害です。2018年のMSFが計上した旅費交通費は世界全体で5250万ユーロ(約68億5000万円)。前々年の2016年から16%の増加でした。私たちMSF日本 イノベーション・ユニット(JIU: MSF Japan Innovation Unit)は、合同ワークショップ・講習会のための移動を減らせると考えています。英国のロックバンド「コールドプレイ」も環境のためにそうしたのですから、私たちができないことはないでしょう?
 
JIUは専門とする組織/システム設計と新生児医療の革新について、たびたびワークショップを開いています。最近の例では、MSF日本の資金調達部門の同僚たち、それから、東南・東アジアプロジェクト・チームとMSFオーストラリアのデジタルイノベーション・チームの講習会を対面で行いました。それ以前にも移動を減らすためにウェブカメラとホワイトボードによる講習を試してはいたのですが、出来栄えはもう散々……。でも、JIUは言い出したら聞かない人間の集まりなので、その他の方法もあれこれと試してきました。そして先日、Stormboardというウェブサービスのおかげで大きな進展があったのです。

STORMBOARDとは?

私たちは援助活動の現場で赤ちゃんを蘇生させるための機器開発に関するワークショップを準備・開催しました。参加者のうち、私たちの外部デベロッパーである一般社団法人 日本バイオデザイン協会(現・日本バイオデザイン学会)の3名とJIUの2名は東京におり、医療アドバイザー2名と他1名はオーストラリアのシドニーでした。ワークショップの目的は、当該機器の利用者の詳細、最終的な使用環境、そして、私たちの提案した解決策の抱える課題を確認することです。

Stormboardでオンライン上のホワイトボードを作成し、皆で共有しました。このホワイトボード上では、さまざまな色や大きさの付箋を貼るなどの作業がとても簡単に行えます。簡単なので、サクサク使えるようになるまで大して苦労もしませんでした。ここに、スカイプのビデオ会議を組み合わせて、互いの声が聞こえるようにしました。

STORMBOARDを実際に使ってみると

- 事前の準備

参加者全員が1カ所に集まっているわけではないだけに、ワークショップの進行が右往左往しない明確なものであることが、普段以上に重要でした。そのため、進行の準備には細心の注意を要しました。参加者に伝える日程・進行表も通常より詳細にしました。

- ワークショップの進め方

ワークショップの取り仕切りはファシリテーターとアシスタントの2名で分担しました。ファシリテーターが問いかけと、参加者の見解の取りまとめに集中する一方、アシスタントがStormboardを担当し、発言を追えるようにしたのです。アクセス制限によって、ホワイトボードの整然さと見やすさも保たれました。ホワイトボードはコンピュータの画面上でしか見られないため、東京とシドニーの両方が全く同じ情報を見ていたことになります。
 
参加者は皆、新生児蘇生のための機器という話題に通じており、そのおかげで充実のワークショップになりました。それまでの経過や決定事項を振り返る必要もありませんでした。私たちの経験では、そうした振り返りは遠隔通信による講習会の手間暇を増やしてしまうものです。
 
技術的な困難はほとんどありませんでした。ただ、今回は参加者が2カ所に分かれていただけで済みましたが、3カ所以上から参加していたら、技術面でももっと苦労したかもしれません。

- さらなる改善点は?

参加者との反省会のようなものは設けませんでした。遠隔通信による講習会の場合、休憩中や会議終了後に補足するということはできないので、その会の終了前15分間に要点の再確認の時間を設けることが肝心です。
 
簡単な行き違いを避けるため、時差に合わせた詳細な日程・進行表も用意すべきですね。

教訓

総評としては、Stormboardが対面での会議に代わる有望な手段であることがわかりました。今回のワークショップでは3時間足らずで多くの項目に触れられました。対面のワークショップではたいていの場合、もっと時間がかかります。
 
Stormboardはこれ以上ないくらい簡単なツールです(進行に多少の工夫は必要でしたが)。ひときわ重要なのは、その講習会が行きつ戻りつせず、明確で論理的に進むよう、準備し、取り仕切ることです。遠隔通信によるワークショップでは誤解の生まれる恐れが高くなるため、担当者は普段以上の手間をかけて進行を追いやすいようにする必要があります。
 
ファシリテーターだけではおぼつきません。話題に上がった要点を漏らさず適切に捕捉して記録するには、アシスタントの役割が不可欠です。
 
ファシリテーターとアシスタントが、Stormboardに慣れておくことも必要です。遠隔通信によるワークショップで操作方法がわからず参加者を待たせると、対面の場合よりも大きな妨げになってしまいます。
 
今回はStormboardのホワイトボードの編集権をアシスタントに限定したため、参加者に操作方法を説明する手間が省けました。1回限りの講習会ではこれでもいいのですが、 ホワイトボード上で共有された情報を、アシスタント以外の人ももっと直接的に編集できることが求められる複雑なプロジェクトでは、編集権の限定が足かせになる可能性もあるでしょう。

今後の課題

• 他の遠隔通信ワークショップ・ツールを試す(次の候補はMURAL)
• Stormboardを今回とは異なるワークショップ・会議進行でも試す。

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