海外派遣スタッフ体験談
自分が夢中になって取り組める仕事
土井 直恵
- ポジション
- 手術室看護師
- 派遣国
- カメルーン
- 活動地域
- マロウア
- 派遣期間
- 2016年9月~2017年3月

- Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?
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2012年からMSFに参加していますが、引き続きMSFのフィールドで活動したいと思い、日本事務局にポジションを探していただいていました。
- Q派遣までの間、どのように過ごしましたか?どのような準備をしましたか?
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熱帯医学に関心を持ち、派遣の合間に長崎大学の3ヵ月研修に参加する機会を得ることができました。
また、今回は初めてのフランス語圏での活動だったため、派遣に先立ちフランスで8週間の語学研修を受けました(MSF負担)。フランス語はゼロからのスタートでしたので、フィールドでやって行けるのかどうかとても心配でしたが、研修は大変興味深かったです。そこで出会った仲間たちとの出会いは、私にとってとても大きな収穫でした。
- Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか?どのような経験が役に立ちましたか?
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外傷のケアというのは、日本でほとんど経験がなかったのですが、南スーダンでの活動やイエメンの活動で学んだことが役に立ちました。
今まで見たことのない症例、よく原因が分からない症例というのはどの国・地域に行っても遭遇するものです。毎回が新しい経験、学びの連続です。
- Q今回参加した海外派遣はどのようなプロジェクトですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
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病院敷地内には、患者の家族が滞在している
私たちが活動を行っていたのは、カメルーン極北地域の拠点病院であるマロウアの州立病院でした。広い極北地区全体をカバーする拠点病院だったため、遠方から来る方も多かったです。その場合、患者さんの家族が家財道具(調理器具や毛布など)を病院の敷地に持ち込んで、たいてい患者さんの退院までそこで生活をすることになります。彼らの大切な持ち物であるヤギやニワトリが病院の敷地を歩き回っていました。
カメルーン北部はナイジェリアとの国境付近で過激派勢力「ボコ・ハラム」の活動が活発です。私たちの病院では、ボコ・ハラムによる攻撃や自爆テロで負傷した人たちの受け入れも行っていました。被害者は皆一般市民でしたが、小さい子どもが重傷を負って運ばれてくることも少なくありませんでした。
お姉ちゃんがやけどで入院中、
弟は病棟のアイドル的存在に。このプロジェクトでは緊急性の高いケースのみに焦点を当てて治療を行っていました(慢性の疾患は保健当局の部署が担当します)。主な症例は交通事故やテロによる外傷、幼い子どものやけど、下あご周辺の膿瘍、帝王切開などでした。
下あごの腫瘍はこのプロジェクトで特に特徴的だった症例で、虫歯などが原因で細菌が歯茎に侵入し、炎症を起こして膿瘍を形成するものです。当然、いずれも適切な口腔ケアや早期に歯の治療を行うことができれば命に関わることにはなりませんが、炎症が気道に影響を与え、呼吸困難を伴うほど重症化するまで病院に来ることができないのが一番の問題でした。
地面で火をおこし、そこでお湯を沸かしたり調理をしたりする現地の生活様式に加え、子どもが何人もいるという状況でお母さんの目が行き届かず、幼い子どもがやけどをしてしまうというケースはどの途上国でもしばしば目にしてきましたが、ここでも本当に毎日のように受け入れがありました。
- Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか?また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
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朝は7時に家を出て、外科チームがそろって車で10分ほどの距離にある病院へ向かい、病棟のラウンドを行ってから手術室に入ります。手術室に入ってからも急患の搬送が頻繁にあるので、その日のスケジュールは一応立てますが、あってないようなものです。余裕がある日は手術の合間にお昼を食べに家に帰り、また病院に戻ってその日の対応が終わるまで、というのが1日の流れでした。
今回、プロジェクトが始まる前にMSFが病院の大改修を行い、手術室も感染管理に配慮した動線で仕事ができるよう改修されていたため、非常に仕事がしやすかったです。また、週に一度金曜日の早朝には勉強会も開催され、外国人スタッフ、現地スタッフ問わず、それぞれがその日のテーマに基づいて1時間ほどの講義を行いました。スタッフの参加率は非常に高く、皆本当に勉強熱心でした。
- Q現地での住居環境について教えてください。
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一人ひとりに個室があてがわれ、快適な住環境でした。任期の間、半年を通してとても暑かったのですが、井戸水をかぶるのは慣れていないので冷たくて、息を止めて頭を洗っていました。
外を出歩けないなどのセキュリティ・ルールはありましたが、決められた場所であれば外出も許され、別の国でのこれまでの活動と比較するとストレスは格段に小さかったです。
- Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
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このプロジェクトはフランス語が主要言語だったので苦労しました。特に初めは、うまく周りとコミュニケーションをとって流れについていくことができず、もどかしくて悔しくて、ちょっと恥ずかしい話ですが、仕事終わりに家でよく泣いていました。今思い返すと、「そうやって踏ん張る期間があったから今がある」と、「どうしてもっと余裕をもって構えていられなかったのか」と不思議に思う位ですが、当時は本当に必死でした。
自分が「チームの中で役に立つことができない」と感じてしまうことはとても不甲斐ないことでしたが、任地を去るときになって同僚が掛けてくれた言葉の数々に、自分がどれだけ周囲に受け入れられていたかを知り、胸が詰まりました。
語学力があるに越したことはないけれど、皆そんなことを気にしないで、私と仕事をすることを喜んでくれていたということが、また次からの活動への勇気となり自信となり、私の支えになります。
- Q今後の展望は?
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やはり、フランス語の力をもっと伸ばしたいです。帰国後、フランス語講座に参加したのですが、先生に、アフリカの人のような話し方をすると言われて密かに喜んでいた私です。頭の中で思いついた面白いことをその場で言えるようになりたいです。
- Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス
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どんな仕事でもそうだと思いますが、仕事のやりがいというのは評価でもなければ対価でもなく、自分が夢中になって取り組めることだと思います。この仕事を、私はとても気に入っています。一緒に頑張りましょう!
MSF派遣履歴
- 派遣期間:2016年2月~2016年3月
- 派遣国:イエメン
- 活動地域:アルカイダ
- ポジション:手術室看護師
- 派遣期間:2015年5月~2015年12月
- 派遣国:アフガニスタン
- 活動地域:ヘルマンド
- ポジション:手術室看護師
- 派遣期間:2015年4月~2015年4月
- 派遣国:ナイジェリア
- 活動地域:ポートハーコート
- ポジション:手術室看護師
- 派遣期間:2014年2月~2014年12月
- 派遣国:南スーダン
- 活動地域:ランキエン
- ポジション:手術室看護師
- 派遣期間:2013年4月~2013年11月
- 派遣国:イラク
- 活動地域:ナジャフ
- ポジション:手術室看護師
- 派遣期間:2012年12月~2013年2月
- 派遣国:パレスチナ
- 活動地域:ガザ
- ポジション:手術室看護師