海外派遣スタッフ体験談

現地スタッフの優しさに支えられた活動

土井 直恵

ポジション
手術室看護師
派遣国
南スーダン
活動地域
ランキエン
派遣期間
2014年2月~2014年12月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

MSFの活動は「ボランティア」です。ボランティアというと、何かを与える側、支えになる側というイメージを抱きがちですが、一番の動機は誰かの役に立ちたいというものであったとしても、活動を通して得られる何にも代えがたい学びや喜びは、私の方が与えられる側だと思っています。

毎回、MSFで経験する挑戦、チームで協力して何かをやり遂げたという達成感、たくさんの人との出会い、それらはすべて私にとって宝物のような体験です。MSFの活動に継続的に携わる多くの人が、そう感じているのではないかと思います。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

家族の世話をしながら、アルバイトに行ったり専門用語の英語表現を学習したりしていました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

今回は紛争地で外科チームの一員を担いましたが、戦争による負傷者の手当ては私にとって初めての経験でしたので、過去2回の派遣活動とはまた違った緊張感がありました。

実際、最初の1ヵ月は治療の手順や段取りを理解した上での効率的なアシストをすることが十分に出来ず、難しいスタートになりましたが、出だしのフラストレーションがバネとなって、終了時には派遣期間の延長オファーを受けることも決断し、当初の予定より長くなりましたが無事に完遂することが出来ました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
長時間の手術は体力勝負 長時間の手術は体力勝負

南スーダンのランキエンにあるプログラムはMSFが病院を運営しており、私が関わっていた外科に加え、産婦人科、風土病のマラリアやカラアザール、結核やHIV/エイズをケアするユニット、加えて栄養失調の子どもたちのための施設があり、海外派遣スタッフは総勢25~30人、現地スタッフは250人程度と、規模の大きなものでした。

手術室看護師としての派遣でしたが、プログラムに外科が新設されて間もない頃で人員が十分に確保できなかったため、初めの3ヵ月は外科病棟の監督も行っていました。

症例は主に銃弾による外傷でしたが、熱傷、蛇やクモによる咬刺傷、熱帯地方に特有の潰瘍などの件数も少なくありませんでした。忙しい時期は毎日、朝から日付が変わるまで手術があったので、本当に体力勝負でした。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
炎天下の手術室テント内は暑く、汗で手袋の装着が難しい 炎天下の手術室テント内は暑く、汗で手袋の装着が難しい

一時、内戦の激化に伴い、南スーダン国内で外科治療を行うMSFのプログラムがいくつも閉鎖に追い込まれ、私たちの病院がMSF唯一の外科チームを有するプログラムとなった時期があり、ほかのプログラムやNGOから多くの負傷者の受け入れを行っていました。

小型飛行機で運ばれてくる、治療を必要とする人びとは、その怪我の程度や、いつ到着するかなどの予測が困難であるため、通常の業務に加え、常に緊急の搬送があることを念頭に置いてチームで動いていました。スケジュールはあってないようなものでしたので、時間の空いた時にしっかり休息をとるように心がけていました。

Q現地での住居環境についておしえてください。

海外派遣スタッフには個別にわらぶき屋根の伝統家屋トゥクルが与えられ、プライベートな時間を持つことが出来ました。

プログラムで必要になるすべての物資・薬剤や食料はプロペラ機による輸送に頼っていましたので、飛行機の離発着がスケジュール通りに運ばない雨期の間は最低限の医薬品しか届けられず、数週間、保存食のお米と豆と缶詰という食事が続きました。

週末はチームの皆で料理をしましたが、多国籍の仲間と一緒に限られた食材で工夫を凝らしたアレンジをするのは。いろいろな発見があって楽しかったです。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。
忙しい日々もスタッフとの協力で乗り越えた 忙しい日々もスタッフとの協力で乗り越えた

手術室・外科ユニットを監督する立場にあって、現地のスタッフが無断欠勤をしたり、突然何の連絡もなく勤務に来なくなったりということが多くありました。内戦下の状況で、現地スタッフ自身も紛争の影響を受け、それぞれに事情があることは理解しつつも、「あんなに信頼関係を築いていたと思っていたのに……」と、つい期待を裏切られたように感じてしまうこともありました。

一方で、連日長時間の手術が続いていた中、自分に余裕がなくなってしまい、現地のスタッフに対して心無い言動をとってしまったことがありました。翌日、気遣いが足りなかったと反省しながら仕事場に顔を出すと、「昨日、ナオエは疲れていたのね」の一言で笑って許してくれるスタッフたちがいて、彼らも同じように疲弊していた中で掛けてくれた言葉だっただけに、何だかとても救われた思いのする出来事でした。

思いがけない優しさに触れ、彼らは自分とは違う価値観の物差しを持っているのかもしれないこと、こちらの期待するような反応が得られなかったからと言って、そこに相手を思いやる気持ちがないというわけではない、ということを感じました。

Q今後の展望は?

次回の派遣を希望していますが、せめて日本にいる間は高齢の祖父母の生活の手助けをしたいと思っています。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

国や民族同士の対立により、会ったこともない人同士がマイナスの感情を持つのは残念なことです。MSFの活動を通じて、世界中からやってきた人、一人ひとりが活動の場で出会い、触れ合うことが出来たら、それはとても素敵なことだと思います。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2013年4月~2013年11月
  • 派遣国:イラク
  • プログラム地域:ナジャフ
  • ポジション:手術室看護師
  • 派遣期間:2012年12月~2013年2月
  • 派遣国:パレスチナ
  • プログラム地域:ガザ
  • ポジション:手術室看護師

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