海外派遣スタッフ体験談

エボラ流行後のリベリアで疫学調査

高橋 健介

ポジション
疫学専門家
派遣国
リベリア
活動地域
モンロビア
派遣期間
2015年8月~2015年10月

Q国境なき医師団(MSF)の海外派遣に再び参加しようと思ったのはなぜですか?また、今回の派遣を考えたタイミングはいつですか?

今回、エボラ出血熱の流行が落ち着いた後、現地で多く見られていた疾患の調査活動でしたが、その目的が興味深かったことと、今回のポジションの要項に提示されていた、疫学知識のある臨床家で、アフリカで働いた経験がある医師という条件が自分に合致していたため。

Q派遣までの間、どのように過ごしましたか? どのような準備をしましたか?

休職期間に入っていた予定の引継ぎをしていました。

Q過去の派遣経験は、今回の活動にどのように活かせましたか? どのような経験が役に立ちましたか?

前回、エチオピアで医師として活動した経験は、アフリカの小児の診察や原因不明疾患の鑑別を考える上で役に立ちました。

Q今回参加した海外派遣はどのようなプログラムですか?また、具体的にどのような業務をしていたのですか?
地域の伝統医療伝承者に薬草による治療の
詳細を聞く筆者(右)
地域の伝統医療伝承者に薬草による治療の
詳細を聞く筆者(右)

エボラ出血熱が沈静化したリベリアの首都モンロビアで、MSFが運営する小児病院で多く見られていた多臓器不全を伴う致死率の高い症例の、原因究明のための疫学調査を行いました。

前任者の仕事を引き継ぎ、MSFの科学・疫学研究機関であるパリのエピセンター本部と密に連絡を取りながら、基本的には現地スタッフのアシスタントとあちこち動くことができました。病棟スタッフと一緒に症例を診たり、15名の地域保健担当者にコミュニティーの調査を手伝ってもらったり、またロジスティシャンやアドミニストレーターも調査に必要な移動手段や手続きをすばやく準備してくれ、大変働きやすかったです。

患者さんやご家族から情報を収集し、病院に来る前に摂取した薬や薬草などの検体を集めたり、血液・尿サンプルを集めたりしていました。また地域の実態調査として、近隣の病院や診療所への聞き込み調査、現地の伝統医療伝承者へのインタビューなどを行いました。

Q派遣先ではどんな勤務スケジュールでしたか? また、勤務外の時間はどのように過ごしましたか?
オフィスから、大西洋に沈む夕日を眺める オフィスから、大西洋に沈む夕日を眺める

1ヵ月という短い期間だったので、集中して仕事をしました。最初の1週間は現状把握のため、病院で実際の患者さんを診察し、カルテレビューなどに時間を費やしました。翌週からは地域の実態調査、3週目からは原因を究明するための症例対照研究という手法で、新規にくる患者さんの情報を集め始めました。4週目には何とか調査活動を軌道に乗せて、後任者への引継ぎをして帰国となりました。

基本的には朝9時から夕方5時まで、病院訪問や調査の許可をもらうための関係各機関の訪問、ミーティングなどがあり、集めた情報の集計や調査計画の作成などは夕方以降に行うのが常でした。

オフィスはビーチに面した海岸線にあり、裏の扉を出るとすぐビーチがある環境でしたので、休日にはビーチを散歩したり、現地のレストランに行ったりして楽しみました。

海外派遣スタッフの看護師さんでエアロビクスが得意な方がおり、毎日仕事の終わった後にみんなで運動して汗を流していました。

Q現地での住居環境についておしえてください。
宿舎はMSFでは7つ星の住環境 宿舎はMSFでは7つ星の住環境

オフィスと住居はもともとホテルだったところを借りて使用しているもので、いつも海からの潮風が心地よく吹いていて、疾病の状況がなければまるでリゾート地のようでした。広い会議室や仕事用のデスクも用意していただき、大変仕事がしやすかったです。

住居はバス・水洗トイレつきの個室が1人1部屋与えられ、部屋にはデスクもあり、ベッドシーツは毎日変えていただけ、至れり尽くせりでした。現地の専属コックが作る料理もバラエティに富んでおり、大変満足のいくものでした。

Q活動中、印象に残っていることを教えてください。

疫学という分野の原点は、「未知の病気の原因を探る」という点にあります。その意味で今回の仕事は大変やりがいのある仕事でした。その反面、検査機器も十分でない環境で鑑別疾患を除外したり、診断にたどり着いたりするのは大変困難を極めました。1ヵ月の短い滞在で、とりわけ伝統医療についての情報を集め、リスク因子を見つけるための症例対照研修を始めることができた経験は、大変勉強になりました。

調査活動といっても自分ひとりでできるものではないので、各分野のスタッフへの説明と協力依頼、また世界保健機関(WHO)、現地の研究所など他機関との協力では自らイニシアチブをとって話を進めなければならず、メールでのやり取りなどに忙殺されていました。地域調査を始める際には各管轄の保健所長や村のリーダーにあいさつにいくなど、移動も大変でしたが、その反面、いろいろなところを訪れることができ、よかったです。

Q今後の展望は?

また同じような疫学研究、調査の仕事があれば参加したいと思っています。

Q今後海外派遣を希望する方々に一言アドバイス

どんな分野であっても、自分が得意とするものがひとつでもあれば、それは必ず役に立ちます。知的好奇心をもって、いろいろなことに挑戦してみてください。

MSF派遣履歴

  • 派遣期間:2014年11月~2015年3月
  • 派遣国:エチオピア
  • 活動地域:パガク
  • ポジション:内科医

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