イベント報告

【イベント報告】人道援助コングレス東京2024「人道援助の危機に立ち向かう」

2024年05月31日
MSFとICRCが共催した人道援助コングレス東京2024。今年は「人道援助の危機に立ち向かう」をテーマに、<br> 登壇者が世界各地からオンラインで参加し、人道援助活動の現状や課題について活発な議論を行った。
MSFとICRCが共催した人道援助コングレス東京2024。今年は「人道援助の危機に立ち向かう」をテーマに、
登壇者が世界各地からオンラインで参加し、人道援助活動の現状や課題について活発な議論を行った。

国境なき医師団(MSF)と赤十字国際委員会(ICRC)が共催する「人道援助コングレス東京」が4月23日から、3日間にわたり開催された。5回目となる2024年は「人道援助の危機に立ち向かう」がテーマ。各セッションでは、「性暴力」「ビジネスと人権問題」「スーダン紛争」「気候変動」という4つのトピックを取り上げた。多様なバックグラウンドを持つパネリストたちが世界各地から登壇し、参加者とともに意見を交わした。

開会挨拶

中島優子(MSF日本会長) © ICRC/MSF
中島優子(MSF日本会長) © ICRC/MSF
オープニングではMSF日本会長の中島優子が、「今年以上に、人道援助と人道主義そのものが危機にさらされていることを実感する年はなかったように思う」という強い危機感を示し、開会のあいさつを切り出した。170万人近くが避難生活を送るパレスチナ・ガザ地区で「援助物資の搬入や医療の提供が極めて限定的にしか届かず、その状況が半年以上にわたっていることは許しがたいこと」と述べた。

また、こうした状況は「自国の政治的・戦略的な利益が追及され、国際協調や人道援助が国際社会において後回しにされている結果ではないか」と問いかけ、多くの人と今年のテーマについて考えるコングレスの意義を示した。

ハイブリッドセッション:人道援助の危機にどう立ち向かうか?

左から、榎原美樹氏(元NHK記者、ジャーナリスト)、阿部知子氏(小児科医、衆議院議員)、伊藤礼樹氏(UNHCR駐日代表)、<br> 山口真一准氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授)、谷川瑞華氏(十大学合同セミナー運営委員)、<br> 榛澤祥子氏(ICRC駐日代表)、村田慎二郎(MSF日本事務局長)  © MSF/ICRC
左から、榎原美樹氏(元NHK記者、ジャーナリスト)、阿部知子氏(小児科医、衆議院議員)、伊藤礼樹氏(UNHCR駐日代表)、
山口真一准氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授)、谷川瑞華氏(十大学合同セミナー運営委員)、
榛澤祥子氏(ICRC駐日代表)、村田慎二郎(MSF日本事務局長)  © MSF/ICRC

ハイブリッドセッションでは「人道援助の危機にどう立ち向かうのか?」をテーマに、4人のパネリストが意見を交わした。ICRCの榛澤祥子駐日代表とMSF日本事務局長の村田慎二郎も議論に加わった。モデレーターを務めたのは、元NHK記者でジャーナリストの榎原美樹氏。

最初に、榛澤代表と村田が基調講演を行った。

榛澤代表は、「世界中で約120の武力紛争が起きていて、60以上の国と100以上の非国家武装集団が紛争当事者になっている」というICRCのデータに言及。多くの紛争が忘れ去られ、人道援助が妨げられていても「人間性とそれを守る法律は変わってはならない」と強調した。

MSFの村田は、2022年から2024年4月19日までに3500件を超える医療への攻撃があり、その8割以上がウクライナとパレスチナで起きているという現状を紹介。スーダンやミャンマーでも攻撃を受け、医療が提供できない現状があることを示し「日本社会でも人道援助の必要性と意義がより多くの人に認識されなければならない」と訴えた。

続いて、榎原氏の「今、何が最も危機的か?」という問いかけでパネリストによる議論が始まった。活発に交わされた意見は、紛争の現状をいかに共有し考えていけるかという点に収束した。

小児科医でもある阿部知子衆議院議員は、「人道主義を政治的優先順位にしなければいけない」と強調。阿部議員は、かつて医療現場で命を目の前にしていた経験をもとに「国会には命のリアリティがない」と指摘した。「人道国家であるために、世界の現状について繰り返し伝えていかなければならない」と語った。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)シリア、レバノン代表を歴任した、UNHCR駐日代表の伊藤礼樹氏は、2011年から難民の数が倍増しているというデータを示した。ウクライナだけでなく、他の国からの難民への理解を促進するためには、「いろんな人を巻き込んで敷居を低くするのが大事」と述べた。

計量経済学や情報経済論を専門とし、SNS上の偽情報の研究で知られる国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授は、フェイクニュースが人道援助に与える悪影響を指摘しつつ、SNSの有用性も指摘した。人道の話題は重く語られがちだが、「カジュアルに伝わってもいい。多様なチャンネルで伝えていく努力が必要」と話した。

東京女子大学4年生で、国際政治について論文を執筆する学術団体「十大学合同セミナー」運営委員を務める谷川瑞華氏は、ユース代表として登壇。若者が関心を持つためには、SNSの活用や、同じ世代から働きかけることの大切とし、肩書がないからこそ「ユースが色んな世代の橋渡しになれれば」と希望を語った。

満員の聴衆を前に熱い議論が展開されたハイブリッドセッション  © ICRC/MSF
満員の聴衆を前に熱い議論が展開されたハイブリッドセッション  © ICRC/MSF
松原一樹氏(外務省国際協力局緊急・人道支援課長)  © ICRC/MSF
松原一樹氏(外務省国際協力局緊急・人道支援課長)  © ICRC/MSF
最後に、外務省国際協力局緊急・人道支援課長の松原一樹氏が、日本の政府予算が切迫している状況で、政府開発援助(ODA)予算を維持するには国民の理解を得ることが大事と指摘。「相手の立場で考え、話し、議論することでバランスを確保しなければいけない」と締めくくった。

セッション1:
脆弱な立場の人びとを襲う性暴力~未来のために必要な対応~

上段左から、草野洋美氏(益財団法人ジョイセフ シニア・アドボカシー・オフィサー)、國吉悠貴(MSF助産師)、<br> 牧野百恵氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所開発研究センター主任研究員)、<br> 下段左から、山田浩史氏(性暴力救援センター日赤なごや・なごみ副センター長)、福井裕輝氏(性障害専門医療センター(SOMEC)代表理事)、<br> 金澤伶氏(難民支援団体EmPATHy共同代表)  © MSF/ICRC
上段左から、草野洋美氏(益財団法人ジョイセフ シニア・アドボカシー・オフィサー)、國吉悠貴(MSF助産師)、
牧野百恵氏(日本貿易振興機構アジア経済研究所開発研究センター主任研究員)、
下段左から、山田浩史氏(性暴力救援センター日赤なごや・なごみ副センター長)、福井裕輝氏(性障害専門医療センター(SOMEC)代表理事)、
金澤伶氏(難民支援団体EmPATHy共同代表)  © MSF/ICRC

レイプや性的虐待、強制不妊手術——生涯消えない傷を残し、時には命まで奪う性暴力。紛争地などの不安定な環境下では、特に被害が発生しやすい現実がある。本セッションでは、弱い立場に置かれた人への性暴力の現状とその解決方法について話し合われた。モデレーターは、公益財団法人ジョイセフのシニア・アドボカシー・オフィサー草野洋美氏。

登壇者は、MSF助産師の國吉悠貴、日本貿易振興機構アジア経済研究所開発研究センター主任研究員の牧野百恵氏、性暴力救援センター日赤なごや・なごみ副センター長の山田浩史氏、性障害専門医療センター(SOMEC)代表理事の福井裕輝氏、東京大学4年生で難民支援団体EmPATHy 共同代表の金澤伶氏の5人。

議論の前に草野氏が、基本的人権の一つである「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)」という定義について説明した。子どもを産むか産まないかなど「自分の身体のことを誰にも侵害されずに決められること」であり、性暴力は最悪の形態のSRHRの侵害の一つであるとした。さらにSRHRに基づいた国内外での提言活動やザンビアでの取組みについて紹介した。

セッションではまず國吉が、本人が「イヤだ」と感じたら言葉による嫌がらせも性暴力になると明確化した。実際の事例を用いて被害を生む背景の複雑さを示しつつ、心理士やソーシャルワーカーら専門家たちと「その人に合う方法を話し合っている」とし、精神的、医療的、社会的なケアにあたる現場の取組みについて話した。

牧野氏は、紛争と児童婚という切り口から話した。まず、性暴力は「紛争の武器」として戦略的に使われていることが証明されたと説明。また、南アジアでは未だに4人に1人が児童婚をし、法律が機能していない現実を共有した。現状では、若年妊娠を防ぐための取組みを進めることが有効であるとし、支援の難しさを浮き彫りにした。

山田医師は男性への性暴力について取り上げた。大半が近親者や顔見知りから力関係を利用した加害という特徴があるという。「男性が被害にあうわけがない」というイメージなどにより医療機関に繋がりにくい現状について、「男性の性被害は日常生活の中で誰にでも起こりうるということを認識する必要がある」と訴えた。

性犯罪加害者への治療に取組む福井氏は、「加害者の8割以上が幼少期に虐待を受けた経験があり、治療が必要な対象である」と話した。それにも関わらず、性犯罪者への治療が医療として認められていない日本の現状は「世界に40年遅れている」と強く指摘。再犯防止の観点からも、包括的支援をしていく必要性があると述べた。

最後に金澤氏がパネリストの発表を受け、性暴力がどのような関係の中で起こりやすいのかや、「義務教育で男女問わず適切な性教育を行うことが大切」と語った。また、偏った性に関する情報を鵜呑みにしないためにネットリテラシーの重要性にも触れた。最後に、より不可視化されやすい性的少数者や災害時の性暴力被害者の存在についても言及した。

セッション2:
「ビジネスと人権問題」にどう立ち向かうか ~紛争鉱物と人道上の懸念~

上段左から、クロード・ヴォワイヤ氏(ICRC国際法・政策・人道外交局経済顧問)、<br> シニーサ・ミラトヴィッチ氏(UNDP危機局ビジネス・人権スペシャリスト)、菅原絵美氏(大阪経済法科大学教授)、<br> 下段左から、華井和代氏(東京⼤学未来ビジョン研究センター特任講師、NPO法⼈RITA-Congo共同代表)、<br> マレーネ・ヴェフラー氏(ジュネーブ・セキュリティ・セクター・ガバナンス・センター(DCAF)主任プログラムマネージャー)、<br> レミ・フェルナンデス氏(責任投資原則(PRI)人権・社会問題・ガバナンス問題担当マネジャー)  © MSF/ICRC
上段左から、クロード・ヴォワイヤ氏(ICRC国際法・政策・人道外交局経済顧問)、
シニーサ・ミラトヴィッチ氏(UNDP危機局ビジネス・人権スペシャリスト)、菅原絵美氏(大阪経済法科大学教授)、
下段左から、華井和代氏(東京⼤学未来ビジョン研究センター特任講師、NPO法⼈RITA-Congo共同代表)、
マレーネ・ヴェフラー氏(ジュネーブ・セキュリティ・セクター・ガバナンス・センター(DCAF)主任プログラムマネージャー)、
レミ・フェルナンデス氏(責任投資原則(PRI)人権・社会問題・ガバナンス問題担当マネジャー)  © MSF/ICRC

サプライチェーンが国境をまたいで複雑さを増す今日において、企業にとって人権問題は無関係とはいえない。このセッションでは国連開発計画(UNDP)の協力のもと、紛争下において武装勢力の資金源となり、暴力と人権侵害を助長する可能性がある鉱物資源に焦点を当て、その課題と企業がとるべき対応について議論をした。モデレーターは、UNDP危機局ビジネスと人権スペシャリストのシニーサ・ミラトヴィッチ氏。

登壇者は、大阪経済法科大学教授の菅原絵美氏、ジュネーブ・セキュリティ・セクター・ガバナンス・センター(DCAF)主任プログラムマネージャーのマレーネ・ヴェフラー氏、東京⼤学未来ビジョン研究センター特任講師でありNPO法⼈RITA-Congo 共同代表の華井和代氏、責任投資原則(PRI)人権・社会問題・ガバナンス問題担当マネジャーのレミ・フェルナンデス氏、クロード・ヴォワイヤ氏(ICRC国際法・政策・人道外交局経済顧問)の4人。

まずミラトヴィッチ氏が、本セッションを「環境配慮や持続可能性のある社会への移行に向けて重要鉱物への需要が高まる今、タイムリーなテーマ」と意義付けた。リチウムやコバルトという重要鉱物をめぐる問題は、人権侵害、環境問題、紛争という3つのリスクを抱えていると指摘。人権を尊重し、紛争を助長させないための企業責任が問われているという前提を共有した。

セッションでは最初に、国際人権法の視点からこの分野を研究する菅原氏が「企業の人権尊重責任」に焦点を当てて議論を展開した。人権侵害が起こりやすい紛争状況下においては、通常よりも厳格な人権デューデリジェンスが求められるということを指摘。「企業の責任範囲は、自社の事業範囲のみならず、紛争鉱物をはじめとする川上から、製品の使用といった川下までの取引関係全体が含まれるという規範が形成されつつある」と話した。

企業による人権デューデリジェンスの実践に必要な情報を提供するヴェフラー氏は、コンゴ民主共和国東部の状況について「武装集団が去った84%の地域では問題なく採掘ができている」と国際平和情報サービス (IPIS)のデータに言及。しかし一方で、「武装集団が別の地域に移動しただけと捉えられることもできる」と懸念を示した。こうした状況で民間企業ができることの第一歩は、「自社の事業が関わるサプライチェーンの実態を把握し、決して人権デューデリジェンスをビジネス上の単なる一要素と軽視してはならない」と述べた。

フェルナンデス氏は、「責任ある投資」という観点から発表。国連で2011年にビジネスと人権における指導原則が作られて以降、「投資家が果たすことのできる役割への期待値が高まっている」と述べた。具体的には、人権遵守公約の採択、人権デューデリジェンスの実施、救済措置へのアクセスという3つの責任が求められていると話した。

最後に登壇したのは、アフリカの紛争資源問題を研究するかたわら、コンゴ民主共和国の紛争解決に向けた活動をする華井氏。120以上の武装勢力が今も存在する同国東部では、紛争鉱物取引規制が導入された後に、紛争がむしろ悪化しているという。この背景には、武装勢力や違法な鉱物取引商など紛争解決を阻害するスポイラーの存在と、分野を超えた協力の欠如があると指摘し、「構造変化を生み出していくことが必要」と訴えた。

(1時間30分)
※本セッションは日英同時通訳付きで実施されました。音声は話者の言語となります。

セッション3:スーダンに関心を

上段左から、小林綾子氏(上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科准教授)、クレア・ニコレット(MSF緊急対応セル副マネージャー)、<br> 窪田朋子氏(国連アフガニスタン支援ミッション・ヘラート事務所長、前国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)カドグリ地域事務所長)、<br> 下段左から、今中航氏(日本国際ボランティアセンター(JVC)スーダン事務所現地代表)、<br> ファールーグ・ N.O.・ ムハンマド氏(スーダン国民健康保険基金(NHIF)総裁)  © MSF/ICRC
上段左から、小林綾子氏(上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科准教授)、クレア・ニコレット(MSF緊急対応セル副マネージャー)、
窪田朋子氏(国連アフガニスタン支援ミッション・ヘラート事務所長、前国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)カドグリ地域事務所長)、
下段左から、今中航氏(日本国際ボランティアセンター(JVC)スーダン事務所現地代表)、
ファールーグ・ N.O.・ ムハンマド氏(スーダン国民健康保険基金(NHIF)総裁)  © MSF/ICRC

スーダンの首都で始まったスーダン国軍(SAF)と即応支援部隊(RSF)の武力衝突から1年以上が経過した。860万人以上の避難民・難民を生む一方、国際社会からの関心は低く「忘れられた紛争」になりつつある。こうした人道危機の現状と平和への道筋について、現地での活動経験を有する4名をパネリストに迎えて議論した。モデレーターは上智大学総合グローバル学部総合グローバル学科准教授の小林綾子氏。

登壇者は、スーダン国民健康保険基金(NHIF)総裁のファールーグ・ N.O.・ ムハンマド氏、MSF緊急対応セル副マネージャーのクレア・ニコレット、日本国際ボランティアセンター(JVC)スーダン事務所現地代表の今中航氏、国連アフガニスタン支援ミッション・ヘラート事務所長で前国連スーダン統合移行支援ミッション(UNITAMS)カドグリ地域事務所長の窪田朋子氏。

冒頭で小林氏がスーダンの現状について、「860万人が難民・避難民となり、1770万人が急性の飢餓の危機にある世界で最も深刻な人道危機状況」と深刻さを共有した。一方で、国民が民政移管を求めて立ち上がり、日本も支援をし続けてきた歴史があることにも触れて「スーダンの人々の民主化への意思を支えることが平和への道だ」と述べた。

保健分野での政策立案、保健医療制度を専門とするファールーグ氏は、スーダンから参加。支援を必要とする人の内15%にしか支援が届かず、必要とする資金の内5%しか調達できていない状況を伝えた。NHIFが医療を提供する施設は3555から245に減り、保健省やNHIFが運営するクリニックや病院の25.6%にあたる894施設のみが稼働しており、支援を拡充するためには政府の保健機関とのさらなるコーディネーションが必要であると強調した。

MSFのクレアは人道危機が加速する要因に、移動制限を挙げた。2時間に1人の子どもが栄養失調で死亡し、市民への暴力も頻発する状況にありながら医療物資の供給や人道援助スタッフの派遣が非常に困難である現状を「人道的な砂漠」と表した。ハルツームで活動している人道援助団体は2団体に過ぎず、「活動を活発にしないといけない」と訴えた。

現在も南コルドファン州での支援活動を継続しているJVCの今中氏は、ポートスーダンから登壇し、南コルドファン州の現状について「死傷者も避難民も大量に発生している」と伝えた。物価の高騰、食糧の圧倒的な不足、脆弱なインフラなど様々な問題があるが、武装勢力が乱立していることもあり国際的な支援はほとんど届いていないという。また、学校も1年以上休校が続く中、子どもが基礎学力を身に付け、レクレーションを通して精神的ケアを受けられる補習校の取組みについても紹介した。

窪田氏はマクロな政治的視点から、紛争の長期化の要因について分析。「周辺諸国からSAF、RSFへの武力支援によって複雑化している」と指摘した。今年1月にも、バーレーンでSAF、RSF及び周辺国の代表者による会合が開かれたが、停戦合意には至らなかったという難しさにも触れつつ、効果的な仲裁に向けた国際社会の連携と、民政移管を求める人々の声を忘れないことが大切と話した。

清水信介・特命全権大使(アフリカの角地域関連担当)  © MSF/ICRC
清水信介・特命全権大使(アフリカの角地域関連担当)  © MSF/ICRC
最後に外務省から清水信介・特命全権大使(アフリカの角地域関連担当)が、停戦合意に向けて「人道アクセスの確保」「調停努力」「政治対話の活性化」という3点が重要であると話し、締めくくった。

(1時間37分)
※本セッションは日英同時通訳付きで実施されました。音声は話者の言語となります。

セッション4:気候変動と人道危機~共に未来を切り拓く~

上段左から、津高政志氏(地球環境戦略研究機関シニアプログラムコーディネーター)、<br> 野田莉々子氏(ジャパンユースプラットフォーム(JYPS)メンバー)、キャサリン‐ルーン・グレイソン氏(ICRC国際法・政策・人道外交局政策部長)、<br> 下段左から、ブラッドリー・メリッカー氏(国際移住機関(IOM)上級地域緊急・危機後対応専門官)、マリア・ゲバラ(MSF国際医療主事) © MSF/ICRC
上段左から、津高政志氏(地球環境戦略研究機関シニアプログラムコーディネーター)、
野田莉々子氏(ジャパンユースプラットフォーム(JYPS)メンバー)、キャサリン‐ルーン・グレイソン氏(ICRC国際法・政策・人道外交局政策部長)、
下段左から、ブラッドリー・メリッカー氏(国際移住機関(IOM)上級地域緊急・危機後対応専門官)、マリア・ゲバラ(MSF国際医療主事) © MSF/ICRC

記録上最も暑い年となった2023年。熱波や干ばつ、洪水、海面上昇——気候変動によって世界中で様々な自然災害がもたらされている。移動を余儀なくされたり、食料確保がさらに難しくなったりと、最も深刻な被害を受けるのは紛争地の人々だ。最終セッションでは、こうした人道危機にどう対処していくことができるのか議論をした。モデレーターは、地球環境戦略研究機関シニアプログラムコーディネーターの津高政志氏。

登壇者は、ICRC国際法・政策・人道外交局政策部長のキャサリン‐ルーン・グレイソン氏、国際移住機関(IOM)上級地域緊急・危機後対応専門官のブラッドリー・メリッカー氏、MSF国際医療主事のマリア・ゲバラ、持続可能な社会に向けたジャパンユースプラットフォーム(JYPS)メンバーの野田莉々子氏の4名。

まず津高氏が、人道援助に従事していた経験を踏まえて「よりよい解決策を探るためには、地球規模の枠組みで捉えることが大事だ」と訴えた。また気候変動は食料やエネルギーの安全保障、そして生活を脅かす課題であり、研究機関も人道援助団体も取り組んでいかなければならないと口火を切った。

ICRCのグレイソン氏は、武力紛争の影響を受けた国々は、紛争が社会に与える影響により、気候変動に対して最も脆弱であると述べた。例として挙げたニジェールでは、慢性的な気象災害の影響に言及し、被害を最小限に抑えるために回復力を高めることの重要性を強調した。また、現地の実情に合わせ、社会文化的・政治的側面を深く理解した上で対応することが必要だと訴えた。

続いて、メリッカー氏は、現状と同じ量のCO2が排出され続ければ、2050年までにアジア大洋州で約9000万人が移住せざるを得ないと警告する報告書に言及。気候変動の影響による将来の強制移住のリスクを減らす取り組みを促す一方で、移住には流動的な要因が多く、経済的・文化的背景によってもリスクが変動することも認識。引き続き、政府、民間セクター、市民社会、国際的な団体が協力し合い、気候変動による移住のリスクを把握し、事態に善処する上で重要であると強調しました。

MSFのゲバラは、気候変動対応における「ホットスポット(緊急の対応を必要とする地域)」は人道の「ホットスポット」と同じで、社会的に最も弱い立場にいる人びとが影響を受けていると指摘。どちらも世界的な関心が払われておらず、投資や人道援助も遠のき、「ブラックホール」になっていると述べた。気候危機における人類の責務に加えて、人間の健康と地球の健康が相互依存関係にあるという「プラネタリーヘルス」という枠組みを強調した。MSFとして、CO2排出削減のための活動や、アドボカシー活動での取り組みなど、その活動を気候変動を見据えた対応にも言及し、緊急的な行動の必要性を強調した。

最後に、野田氏がユースの立場から、強制移住の対象となる40%が18歳未満の子どもであるというデータを提示。子どもたちは健康被害を受けやすかったり、教育機会を失ったりと気候変動による影響を最も受けやすい弱い立場であると指摘した。こうした問題に対して、先進国である日本に住む若者が「関心を持って主体的な行動をとっていく必要がある」と提言した。

閉会挨拶

榛澤祥子氏(ICRC駐日代表)  © MSF/ICRC
榛澤祥子氏(ICRC駐日代表)  © MSF/ICRC
今年のコングレスには、3日間で700人以上が参加登録した。全てのセッションが終わった後、ICRCの榛澤祥子駐日代表が総括。「『私たちに何ができるのか』という問いに対する答えは、比較的シンプル。私たち一人ひとりが世界で起きていることに関心を持ち続け、正しい情報を入手し、 関心の輪を広げていくことに尽きる」と述べて、コングレスを締めくくった。

(1時間37分)
※本セッションは日英同時通訳付きで実施されました。音声は話者の言語となります。

この記事のタグ

関連記事

活動ニュースを選ぶ