診療所まで片道7時間歩かないといけなかった…HIV患者の少年 「医療を身近に」新たな取り組み

2018年12月13日掲載

国境なき医師団(MSF)のアウトリーチ拠点を示す看板。移動診療所までの距離が示されている。© Gloria Ganyani国境なき医師団(MSF)のアウトリーチ拠点を示す看板。移動診療所までの距離が示されている。© Gloria Ganyani

ジンバブエ南東部マスビンゴ州の農村、ムウェンジ。交通の便が悪く、医療サービスや医薬品に手が届きにくい地域だ。そのため、多くのHIV/エイズ患者が、治療を途中で諦めたり、薬の服用を止めてしまったりする。原因は、病院までのアクセス。こうしたことから、国境なき医師団(MSF)は、患者らがより負担なく治療薬を受け取ったり、治療を続けられたりする仕組みを導入した。交通の便の悪い地域での医療アクセス向上につながる解決策として期待されている。 

薬をもらうため、片道7時間も歩かなければいけなかった

仲良く座っている兄弟2人も、HIVを抱えて産まれた。両親は2人が幼い時に亡くなった。兄弟の1人は14歳で、ムウェンジからよく歩いて近くの地域まで薬をもらいに行っていたという。© Gloria Ganyani仲良く座っている兄弟2人も、HIVを抱えて産まれた。両親は2人が幼い時に亡くなった。兄弟の1人は14歳で、ムウェンジからよく歩いて近くの地域まで薬をもらいに行っていたという。© Gloria Ganyani

HIVを抱えて生まれたチャールズさん(17歳)は、ムウェンジ出身だ。幼いときに母親を亡くしたチャールズさんは、14歳になるまで、ムウェネジから隣のムベレングワ地区へ通わなければいけなかった。最寄りの診療所でHIV/エイズ治療薬・抗レトロウイルス薬(ARV)を受け取るためだ。その距離、徒歩で片道7時間。「午前6時ごろに家を出て、薬をもらいに行っていました。向こうに着くのは午後1時ごろでした」とチャールズさん。

チャールズさんだけではない。ムウェネジのHIV患者は、最寄りの診療所で(ARV)を手に入れるため、60キロという長い距離を移動しなければいけない。2日間、徒歩で移動しなければならなかった患者もいた。

自宅から最寄りの診療所までの距離が多く、さらに雨期の時は、増水で渡れなくなってしまう川がいくつもある。そのためムウェネジでは、治療を途中で止めてしまったり、薬の服用が続かなかったりしたHIV患者が多かった。

それ以外にも、職を求めて隣国の南アフリカに拠点を移した多くの若者が、新しい生活と同時にHIV治療を止めてしまうことも分かっている。だがそうした若者らは結局、容体が悪化して故郷に戻ってくるのだ。 

交通アクセスの悪い地域に医療を届ける

国境なき医師団(MSF)が実施するアウトリーチ・プログラムの様子。© Gloria Ganyani国境なき医師団(MSF)が実施するアウトリーチ・プログラムの様子。© Gloria Ganyani

国境なき医師団(MSF)は、国の保健・児童福祉省(MoHCC)との協力を得て、HIV患者のためにアウトリーチ・プログラム(医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動)を導入。交通アクセスの悪い地域で暮らす1200人以上の患者を訪ね、ARV治療と外来治療を届けた。

チャールズさんも、このアウトリーチ・プログラムの導入を喜ぶ。遠い場所にある診療所に行かなくても、MSFのアウトリーチ先で薬を受け取れるからだ。以前とはちがって、今は片道3時間歩けば治療薬を受け取れる。「アウトリーチ活動のお陰で病気も治りました。胸の具合と、腹痛がずいぶんよくなり、楽になりました。以前より元気になった気がします」

MSFの医師、エドソン・チドヴィは「アウトリーチ・プログラムを始めて間もないころ、HIV感染後に受診が遅れ、症状が悪化した患者をたくさん診療しました」と話す。

「検査は受けたのに、ARV治療の開始には至らなかった患者さんもいます。紹介された最寄りの診療所まで60キロと遠く、薬の受け取りを諦めなければいけませんでした。一部の患者は、何回かARVを受け取りに来てくれます。ですが、その途中で越えなければならない複数の大きな川があり、10月から3月の雨期には渡れなくなります。薬が手に入らない期間が半年にも及んでしまうのです。そうした患者たちが、MSFのアウトリーチ・プログラムの対象となります。対象者の約4割で、HIV疾患が進行していました」 

住民主体の画期的な取り組み

国境なき医師団(MSF)のアウトリーチ・プログラムで、薬を受け取る患者。© Gloria Ganyani国境なき医師団(MSF)のアウトリーチ・プログラムで、薬を受け取る患者。© Gloria Ganyani

だが、問題はこれで終わりではなかった。アウトリーチの拠点にいくまでにも、やはり40~60キロの長い距離を移動して薬を受け取りに来ている患者もいたためだ。MSFは、患者がさらに自宅に近い場所で治療薬を受け取れるよう、住民主体の新しい方式を導入した。

導入した方法は、医療施設外の生活圏でのART配布(OFCAD)、ART補充のための住民グループ(CARGs)の活用——などだ。これにより、患者はより治療を受けやすく、続けやすくなった。

OFCADの導入は、ジンバブエを含むアフリカ南部一体でも都市以外では初めての取り組みとなった。登録されているHIV感染者へのARV配布のため、研修を受けた保健担当者はそれぞれ最寄りの診療所からARVを受け取り、自宅に保管。HIV感染者は診療所やアウトリーチ先から、OFCADに携わる保健担当者を紹介され、3カ月に1回、その保健担当者からARVを受け取る。
 

HIV患者の治療のために使われている治療薬・抗レトロウイルス薬(ARV)。© Gloria GanyaniHIV患者の治療のために使われている治療薬・抗レトロウイルス薬(ARV)。© Gloria Ganyani

一方でCARGsは、ARV治療を受け容体の安定しているHIV/エイズ患者が設立した住民グループを利用する。グループのメンバーは交代で診療所に出向き、グループ全員分の薬を受け取る仕組みだ。こうすれば、各メンバーが診療所での薬の受け取りに費やす時間が減らせる。同様で、家族の1人が、他の家族の分のARVも受け取ることができる。

特にOFCADの導入は、交通の便の悪い地域のHIV患者に、継続して治療を受け続けてもらうための画期的な方法と期待されている。また、他の地域でも取り組みを応用できるのではないかと期待されている。

MSFは今後、全国に取り組みの実施を呼び掛けることにしている。

※記事内で登場する患者さんの名前はいずれも仮名です。 

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