命をつなぐ一本の道 人道危機下のイエメン・アブスからの報告
2021年01月07日
およそ6年にわたり紛争が続くイエメン。大きな被害を受けた地域の一つであるアッジャ県アブスに、町を貫く一本の道がある。何の変哲もない道に見えるかもしれない。しかしこの道は、命を救うための希望の道であり、時に命を奪う恐怖の道でもある。一本の道を通して、人道危機下のイエメンに迫る。
病院へとつながる道
アブスの町と周辺地域を結ぶ幹線道路沿いには、さまざまな商品を扱う露店が並ぶ。牛が売られているそばでは、多くのイエメン人の大人が好んで噛む、覚醒作用のある葉っぱも売られている。
その道を通る人びとの中に、20歳の娘を連れた母親がいた。妊娠中の娘が子癇(しかん)によるけいれんを起こし、危険な状態になったため車を手配して病院に向かっているのだ。子癇は高血圧が引き起こす危険な妊娠合併症で、早い時期に気づかなければ、母体と赤ちゃんの命が危険にさらされる。
母親は、「山の中に住んでいるので、ここまで来るためにタクシー代が6万リヤル(約2万4600円)もかかるのです。お金を人から借りなければなりませんでした」と話す。母子が目指す病院は、国境なき医師団(MSF)が、紛争が激化した頃から支援しているアブス病院だ。毎日何百人もの人たちが、この道を通り、希望を胸に病院へ向かっている。

戦火から逃れる道
同じ道を北へ25キロメートルほど行くと、紛争の最前線の一つにたどり着く。多くの人びとが自宅を追われ、ハッジャ県では約15万人が避難生活を送る。
正確な年齢は分からないが、「40歳から60歳の間」だと言うマリヤムさんは、9人目の子どもを出産するために、避難民キャンプから病院を訪れた。彼女は4年前、隣人が殺されるのを見て村から逃げ出したと話す。
「私たちは、村に留まって次に殺される人になるか、それとも着の身着のまま出て行くか、どちらかを選ばなければなりませんでした。今の私たちには何もありません。食べるパンがある日もあれば、それすらない日もあるのです」

命を奪う道
この幹線道路では絶えず多くの車が行き交っている。混沌とした状態で交通規制が足りないため、町の外から来た人にとっては非常に危険だ。車が予想通りの方向に進む保証はどこにもない。結果、この道での交通事故で多くの命が失われている。
この日もMSFスタッフによる朝のミーティングで、交通事故で前夜運ばれてきた2人のうち1人が亡くなったと報告された。残念ながら、ここでは珍しいことではない。
別の日には、この道で幼い子どもがバイクにひかれて下腹部に重傷を負って病院に運ばれてきた。医療チームは、息子のそばを離れない父親に、より大きな病院に移らなければならないと説明する。そこなら、さらに正確な診断を下すのに必要な機器が揃っているので、治癒も見込めると。
そこで、親子は救急車に乗り込み、この道を南下して大きな病院に向かう。また同じ道を通って家に帰れることを願いながら。
