イエメン内戦 「病院に来るときには既に手遅れ」重症の子どもが増加
2018年10月24日
内戦が続く中東イエメンの北部アブス地区で戦闘が拡大し、負傷者や避難者が急増している。現地で医療活動を行う国境なき医師団(MSF)の医療チームリーダー、ギゼラ・バリェスは「連日、病院に患者が運び込まれている」と状況を語った。
戦闘で負傷した民間人が病院に殺到
アブス市でMSFが運営する病院では、8~9月だけで362人を治療しました。これは、今年治療した全負傷者の4割以上にあたります。患者の多くが、集中爆撃やミサイル攻撃で負傷した一般人です。
アブス地区の北約50km、サウジアラビア国境近くのベニ・ハサンでも戦闘が激化。2万人もの住民が家を追われ、既に数万人の避難者が暮らしていた非公式キャンプに身を寄せました。公式の避難民キャンプはないため簡素なビニールシートで風雨をしのいでいる人も多く、生活環境は過酷です。
ガソリン代を払えず、病院に行けない
数年前から紛争が続くアブス地区では、開いている診療所がほとんどありません。病院職員に対する給与は2年以上前から支払われておらず、人手不足のために1日数時間しか診療できなかったり、全く稼動していなかったりするのです。看護師1人で対応している診療所もあります。
MSFの活動にも厳しい規制があるため、9月にアブス市郊外の国内避難民キャンプで実施できた移動診療は7回のみでした。本来は毎日診療する予定だったのですが……。
その上、ここ数週間で通貨のイエメン・リアルが大幅に下落。インフレでガソリンが高騰し、多くの患者が来院できなくなってしまいました。
内戦がなければ助かる命
衝撃的なのは、手遅れの状態で来院する患者……特に妊婦や幼い子どもが大勢いることです。アブス市では妊婦の産前ケアはほとんど受けられないため、本来防げるはずの合併症で母体と胎児の命が脅かされています。
こうした状況を改善するため、重症患者を各地域の医療従事者から引き継ぐ病院紹介システムを整備しています。情勢が比較的安定しており、活動認可が下りている場所でネットワークを築いておき、アブスの病院へ患者を搬送してもらうのです。
9月は提携先から前月比50%増の153人を受け入れました。戦闘の激化で、今後しばらくは紹介件数が大幅に増える見通しです。
2015年3月以来、イエメン内戦は悪化の一途をたどり、NGOの対応能力も衰えてきています。
今後、貨幣価値の下落や輸入制限などによって人びとの生活が行き詰まり、栄養状態が悪化するでしょう。医療システムの崩壊により、予防接種率はますます低下しています。そして、本来ならワクチンで予防できるジフテリアなどの病気を引き起こしているのです——。
MSFは「独立・中立・公平」の原則に基づいて活動する医療団体。イエメンでは各地の戦線をまたにかけ紛争の被害者を援助している。国内13ヵ所の病院・診療所で活動するほか、12県(アビヤン、アッダリ、アデン、アムラン、ハッジャ、ホデイダ、イッブ、ラヘジ、サアダ、サヌア、シャブワ、タイズ)の病院・診療所20ヵ所余りを支援している。