「女性だから」というだけで—国際女性デーにたどる、避難民女性たちの足跡
2018年03月08日安全に出産できる場所、性暴力からの助け、子どもを健康に育てられること。女性に必要なものは、世界中のどんな場所で暮らしていても同じはず。だが、故郷の紛争や困難な状況から逃れ「避難民」となった人びとにとって、健康や保健上のリスクは格段に大きく、さらに「女性だから」というだけで、いっそう大変な思いをしている現実がある。
3月8日、今年も国際女性デーを迎えた。国境なき医師団(MSF)は今も世界のさまざまな場所で、家を追われ避難する女性たちへの援助に力を注いでいる。彼女たちに特に必要なのは、産科ケア、性暴力被害のケアや心理ケアだ。病気や苦痛、時には死の危険と隣り合わせで生きる彼女たちが、安全に、健康に過ごせるように、MSFは彼女たちの足跡をたどっていく。
妊娠中に歩き続け、時には道で寝て、国境を越えた

妊娠中に定期的なケアを受けられないと、母体にも赤ちゃんにもリスクが高くなり、救急産科ケアが受けられなければ命に関わる。3人目の子どもを妊娠中のグロリアさんは、情勢不安の故郷、ブルンジから大変な思いでタンザニアのンドゥタ難民キャンプにたどり着いた。夫と2人の子どもとともに徒歩で旅を続け、時には道で眠り、国境で4ヵ月も足止めされていた。何度もおなかの痛みを感じたが、きちんとした救急産科ケアを受けたのはここに来て初めてだ。「平和になればまた村へ戻りたい。それが私の望みです」
妊娠中の避難は流産や早産の危険性を高め、貧血や破傷風などを予防することも難しい。ンドゥタ難民キャンプでは、移動診療や診療所などでしっかりとした診療をするとともに、MSFの産科病院と現地病院がそれぞれ協力しあい、妊娠中の女性や少女が産科ケアを受けられるよう幅広く活動している。
避難の上に女性を苦しめる性暴力

避難中の女性や少女の中には、レイプされ妊娠してしまった人も多い。性暴力は、突発的に起きることもあれば組織的に起こることもある。性暴力が避難の理由になることも、避難の最中に被害に遭うこともある。望まない妊娠やHIV感染などを防ぐためには、早急な対処が必要だ。だが、被害者が口を閉ざし、助けを求める頃には予防が手遅れになっていることも多い。
欧州を目指して地中海を渡る途中に救助された人びとの中にも、妊娠中の女性が多くいた。2017年、捜索・救助船「アクエリアス」が救出した2000人以上の女性と少女のうち、少なくとも250人が妊娠しており、多くがレイプなどの性暴力を経験していた。また、ケアを受けるのは船の上が初めて、という女性も多かった。

バングラデシュの南東部コックスバザール県では、ミャンマーでの殺りくを逃れてきた女性たちがMSFの診療所で性暴力ケアを受けている。MSFの助産師として働くルクサナは、患者から壮絶な体験を聞いた。「話の途中で泣き出してしまう女性もいます。そんな時は、泣いて心が軽くなるよう時間を取ります。ある女性は自宅を襲われ、赤ちゃんを取り上げられて、3人か4人にレイプされたのです。その後、激しく殴られて気を失ったそうです。そんな酷いことが起きても、忍耐強くバングラデシュへ逃げてきた彼女の強さは、尊敬に値します」
子どもを守る母親にも必要な、心のケア


サルマさんのように安全な避難先を見つけられても、それは逃げてきた場所よりまし、というだけで、新しい環境の生活では紛争下の故郷とは別の苦労が待っている。シリア人女性の多くが、夫に先立たれていたり母子家庭であったり、経済的に家族を養わなくてはならない重圧を背負っている。自分自身より家族のことを優先させることも多い。診療所へ来るのはあくまでも子どもの苦しみを和らげるため、というのが典型だ。
ヨルダンのイルビドとマフラクで、MSFは子どもだけでなく母親も対象に、女性だけのカウンセリング・チームが心理ケアを行っている。避難民の女性が、「命が助かる」だけでなく「力強く生きる」ため、家族とともに歩み出す強さを身につけられるようサポートしている。