エボラ出血熱:流行の封じ込めに不可欠なものとは
2017年06月30日
2014年から2016年にかけて西アフリカで発生したエボラ出血熱のアウトブレイク(※)は、ギニアから始まった感染が国境を越えて広範囲に拡散、最終的に2万8000人以上が感染し1万1000人が死亡するという、史上前例のない出来事となった。
ワクチンも治療薬もなく、病気のメカニズムも十分に解明されていない中、国境なき医師団(MSF)は、過去の経験を活かして、時に試行錯誤しながら、最前線で流行の封じ込めにあたってきた。アウトブレイクは終息をみたものの、MSFは次への備えのために、今回の活動を検証する作業に取り組んでいる。
疫学専門家としてリベリアでエボラ対策にあたったMSFの鈴木基医師が、この感染症の重要な対処法について解説する。
- 感染症が限られた範囲または集団で、予想よりも多く発生する状態
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封じ込めに取ったアプローチ

私はMSFの疫学専門家として、エボラ対策のためにリベリア・ロファ州に派遣されました。ロファ州はギニアとの国境近くにあり、2014年3月にリベリアで最初のエボラ患者が確認された場所です。アウトブレイクの発生後、MSFはただちに現地保健省、医療機関と協力してエボラ治療センターを立ち上げ、流行を封じ込めるための活動を開始しました。
MSFは、治療センターの建設と拡張、住民参加型の啓発活動、接触者の追跡、安全な埋葬など、さまざまなアプローチで住民を巻き込みながら封じ込め活動を行いました。その結果、患者数は2014年8月にピークを迎えた後に減少し、11月には州内での新規患者はゼロになりました。では、こうしたアプローチは、アウトブレイクを早期終息させることに、どの程度役立っていたのでしょうか。
私も参加したMSFの疫学専門家チームは、ロンドン大学衛生熱帯医学校の数学研究者グループと共同で、ロファ州のデータを分析し、「リベリア・ロファ州において制御戦略と行動変容がエボラの排除に及ぼした影響(英文)」と題した論文を発表しました。その研究からは次のようなことが見えてきました。
早期終息へのカギ

ロファ州のアウトブレイクの詳細なデータをコンピュータ解析すると、人びとが暮らすコミュニティ内では1人の患者が平均1.5人の新規感染を引き起こしていたとの推定が成り立ちました。その上で患者数の減少に影響した要因を探ったところ、住民参加型の啓発活動への参加者が増えるにしたがって、具合が悪くなった住民がエボラ治療センターを受診する割合は2倍にまで上昇していきました。
そして、この受診者数の増加に合わせてエボラ治療センターの患者受け入れ能力を拡張したことで、感染者数が6割減少したことが明らかになりました。つまり、活動に住民を巻き込むことによって、人びとのエボラに対する認識は変わり、積極的に治療を受けるようになり、アウトブレイクの早期終息につながっていったのです。
2017年2月、MSFが協力してギニアで行われたエボラ・ワクチンの臨床試験の結果、高い予防効果が確認されました。これはエボラ対策に強力な手段が加わることを意味しています。しかし、コミュニティ内で感染が拡大するエボラの封じ込めには、人びとの理解と協力が不可欠であることに変わりはありません。MSFは今後のアウトブレイク対策に際しても、住民を積極的に巻き込むアプローチを重視していきます。