望まない妊娠、性感染症も ベネズエラ 女性を守り自律を支える「性の健康」の取り組み

2022年06月14日
MSFの支援するホセ・グレゴリオ・エルナンデス病院で診察を待つ女性たち Ⓒ Jesus Vargas
MSFの支援するホセ・グレゴリオ・エルナンデス病院で診察を待つ女性たち Ⓒ Jesus Vargas

ベネズエラ南東部、ボリバル州の鉱山地帯にある町トゥメレモ。金の採掘が主な経済活動の一つであるこの町で、女性たちは医療を受ける機会が十分になく困窮している。特に望まない妊娠や性感染症のリスクは高く、多くの女性がリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)に関し、無防備な状態に置かれている。
 
国境なき医師団(MSF)は、トゥメレモの病院で現地当局と協力し、医療援助活動を開始。女性たちの「性の健康」を守る取り組みを伝える。

10代で妊娠・出産 多くの女性が同じ境遇に

トゥメレモで暮らすヘシカさんが、最初の子を妊娠したのは14歳のころだ。15歳で第2子、18歳で第3子を身ごもり、25歳までにさらに4人の子どもを授かって7人の母となった。

「夫はここから遠く離れた鉱山で働いていて、長い時はそこで1カ月も過ごすんです」

彼女がそう話す間、大きくぱっちりとした目の子どもたちは「行儀よくしなさい」というヘシカさんの言葉を聞きながら軒先を走り回っている。

「夫はお金や必要な物を、友人を通じてできる限り送ってくれます。私はこちらでネイルケアや清掃の仕事をしています。家で子どもの世話もしなければならないので、勉強を続けることはできませんでした」

7人の子どものうち3人と一緒に、家の玄関に座るヘシカさん Ⓒ Jesus Vargas
7人の子どものうち3人と一緒に、家の玄関に座るヘシカさん Ⓒ Jesus Vargas

同じくトゥメレモに住むブリヒッテさん(27歳)は、5人の子どもとともに町外れで暮らす。ブリキ缶でできた自宅で身の上話をしつつ、恥ずかしそうに笑う顔から金歯をのぞかせる。

「いまはずっと家にいて、子どもたちの面倒を見ています。夫は鉱山で働いていますし、子どもたちは外に遊びに行かないので、私が1日中相手をすることになって、とても大変です。夫は2カ月も鉱山で過ごします。私も以前は働きに出て、清掃や調理だけでなく、砂金採りもやっていました」。ブリヒッテさんはこう続ける。

「うちの子たちは勉強もしていません。私が身分証を持っていないので、学校に通わせてあげられないんです。私自身は高校1年まで学校にいましたが、その後、最初の子どもを妊娠して、仕方なく退学しました」

家で1日中5人の子どもの世話をするブリヒッテさん。夫や7人の兄弟は鉱山で働く Ⓒ Jesus Vargas
家で1日中5人の子どもの世話をするブリヒッテさん。夫や7人の兄弟は鉱山で働く Ⓒ Jesus Vargas

ヘシカさんとブリヒッテさんの話は、トゥメレモに住む何百人もの女性の話の一つにすぎない。ここではどの区画や世帯でも、大勢の女性から同じような物語が聞かれる。多くの女性が前向きに生きていきたいと思っているものの、非常に困窮しているため、将来を考える余裕もない。厳しい状況に置かれ、子どもたちのために必要最低限の状態を整えることにも苦労している。

高価な避妊を無償で提供

トゥメレモの主な経済活動の一つは、金の採掘と売買に関する鉱業だ。ここに住む女性たちは夫やパートナーが鉱山に出勤すると、頼る人もいないまま孤立し、さまざまな問題に直面する。医療がなかなか受けられないうえ、望まない妊娠や性感染症を防ぐ避妊具や避妊法は高価で、普及していない場合もあり、状況をさらに深刻にしている。

2021年11月、MSFのチームはトゥメレモのホセ・グレゴリオ・エルナンデス病院で、地元当局および公衆衛生研究所の職員とともに、リプロダクティブ・ヘルス分野の医療援助を開始した。

今年5月までの6カ月間に、プライバシーに配慮しながら、周辺地域の女性1000人以上に包括的で無償の家族計画相談を実施。約90%の女性が何らかの形で避妊を行い、70%以上の女性が皮下インプラントや子宮内避妊具など長期的に有効な避妊法を受けた。

病院で皮下インプラントを埋め込んだ腕を見せる女性たち Ⓒ Jesus Vargas
病院で皮下インプラントを埋め込んだ腕を見せる女性たち Ⓒ Jesus Vargas

健康教育活動で、人びとの意識を高める

MSFは寄贈した医薬品を用いて、病院所管当局と連携し、約20人の患者に週2回、リプロダクティブ・ヘルスに関連した診療を提供。また、1日平均10人の女性に、梅毒、HIV/エイズ、B型肝炎などの性感染症のスクリーニング検査を行い、コンドームを配布している。

さらに、健康教育チームが病院や地域で活動を行い、医療援助の情報を伝えるとともに、妊娠や性感染症の予防と管理について、人びとの意識を高めている。

女性たちの家を訪問し、必要な情報を届け自律的な力をつけていく Ⓒ Jesus Vargas
女性たちの家を訪問し、必要な情報を届け自律的な力をつけていく Ⓒ Jesus Vargas

アルマンドさんは、MSFで健康教育に携わるスタッフからリプロダクティブ・ヘルスに関する医療援助のことを知った。妻に付き添い、早朝のホセ・グレゴリオ・エルナンデス病院を訪れた。

「妻は子宮内避妊具を着けたがっていたんです。病院に着くと、500人くらいが待っていました。皆、受診に来た人でした。1カ月後に、銅イオンを放出する避妊具を20分ほどで取り付けてもらいました。病院ではその日、この辺りの若い人や友人・近所に住む人にも会いました。たくさんの人が必要としているのでしょう」

女性たちが口々に話す内容からも、彼女たちの連帯感が感じられる。

「叔母から教えてもらって……」
「この機会を逃さず、急いで受診するように母に言われました」
「助けてもらえることは、この辺の人なら皆、知っています」
「この区画の女性はもう皮下インプラントをつけている人が多く、まだつけていない人たちも受診予定です」

MSFの産婦人科医フスルイス・ロドリゲスは、病院の家族計画相談は住民にとって非常に有効だと話す。

「病院でこれだけたくさんの女性を助けられるのだと思うと、毎日最善を尽くそうとやる気が湧いてきます」

リプロダクティブ・ヘルスに関する医療提供は、地域の人びとに好意的に受けいれられている Ⓒ Jesus Vargas
リプロダクティブ・ヘルスに関する医療提供は、地域の人びとに好意的に受けいれられている Ⓒ Jesus Vargas

MSFのベネズエラでの活動

MSFは医療・人道援助団体として2015年からベネズエラで活動し、アマソナス、アンソアテギ、ボリバル、タチラの4州で独立・中立・公平に基づく医療活動を展開。ボリバル州では、シフォンテス市のトゥメレモとラス・クラリタスを中心に、現地当局の支援を行っている。

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