激戦地から避難させるには……ウクライナで精神疾患を抱える人たち

2022年10月07日
ウクライナ東部ハルキウから首都キーウまで精神・神経疾患を抱えた患者を搬送するMSFの医療列車=9月23日 © MSF/Hussein Amri
ウクライナ東部ハルキウから首都キーウまで精神・神経疾患を抱えた患者を搬送するMSFの医療列車=9月23日 © MSF/Hussein Amri

「患者たちが『2皿ほしい』と言うのです。骨や肋骨が浮いて見えるほど飢えていました」

そう話すのは国境なき医師団(MSF)の医療列車で働く看護師のデニス・バビイ。寝たきりの患者9人に食事を提供した時のことだ。長い間栄養失調も患っていたことが伺われ、「見るのも辛かった」という。

MSFは神経・精神疾患をもつ200人以上の患者を、ウクライナ東部ハルキウ市から首都キーウへ医療列車で搬送した。避難する前、患者は過密な病院で十分なケアを受けられず、床で寝なければならない人もいた。

東部と南東部の激戦地では、医療機関や介護施設がケアを継続する上で困難を抱える。水道や電気が遮断されることがあり、食料などの必要最低限のものや医薬品の確保もままならないからだ。近くで戦闘が激化し、極めて危険な状態に陥ることもある。心の病気をもつ患者など、弱い立場の人たちが危機的状況に置かれている。

避難の途中で砲撃 患者があふれる病院

ハルキウ州の戦闘地で9月上旬、600人以上を収容していた施設が患者を退避させる過程で砲撃を受けた。報道によると医療スタッフ4人と患者2人が命を奪われたという。患者はその後ハルキウ市内の病院に移され、それまで400人だった入院患者数が1000人を超えた。

大勢の患者を受け入れ、病院の状況は大変厳しくなりました。病床も薬も人手も足りなかったのです。

MSF医師ボリス・ポタポウ/ハルキウからキーウまで患者に同行

 MSFプロジェクト・コーディネーター<br> エミリー・フーレ © MSF/Hussein Amri 
MSFプロジェクト・コーディネーター
エミリー・フーレ © MSF/Hussein Amri 
この病院の負担を軽減するため、保健省は200人以上の患者をキーウの施設に移すようMSFに依頼。第1便の医療列車は9月23日に出発した。 MSFプロジェクト・コーディネーターのエミリー・フーレはこう語る。

「36時間のうち、2回に分けて患者を運びました。パーキンソン病やアルツハイマー病を抱える高齢の患者や、急性の精神障害がある患者も多かったです。 当然ながら、かなり動揺されている患者もいましたが、キーウまでの道のりは順調でした」

MSFはウクライナの東部と南東部で、前線に近い11カ所の病院から患者を救急搬送する業務を担っている。9月の3週間で、277人を戦闘地から少し離れた施設へ移した。患者の大半は暴力によってけがを負った人たちで、適切な治療を受けられた。だが先ほどのケースのように、戦闘地域では受け入れ先の病院が過密状態となり、十分に医療を提供できないことがある。特に複数の慢性疾患を抱える人には深刻な問題だ。患者をより遠い西部に避難させれば、戦闘地域にある医療機関の負担は和らぐ。

保健省の職員によると、MSFの医療搬送によってキーウの精神科病院に避難した患者らは、前線近くの病院よりもはるかに良い環境にいられることに感謝しているという。だが、患者の状態は依然として思わしくなく、長年の経験を持つ精神科の看護師は「これほど心身の症状が深刻な患者たちを目にするのは初めてだ」と語っている。

ハルキウの過密な病院に入院していた患者を医療列車に誘導するMSF医師 ©  MSF/Hussein Amri
ハルキウの過密な病院に入院していた患者を医療列車に誘導するMSF医師 © MSF/Hussein Amri

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