「お母さん、僕死にたくない」 心のケアも急務──ウクライナ、地下鉄駅での移動診療
2022年04月22日ウクライナ第二の都市、ハルキウ。昼夜にわたる砲撃が続き、多くの人びとが地下鉄の駅に避難している。恐怖と不安の中で生きる人たちの心身への影響は大きく、国境なき医師団(MSF)は駅構内で移動診療を行っている。
駅での避難生活が続く
MSFは、ハルキウの地下鉄の5つの駅で移動診療を展開。高血圧や糖尿病などの慢性疾患のほか、呼吸器感染などの感染症にも対応している。そして重要なのが、心のケアだ。
駅に避難している一人、ルードミラさん(40歳)はこう話す。「家のそばで爆発が起きた時、息子が飼い猫をぎゅっと抱きしめて、『お母さん、僕死にたくない』とこぼしました。そんな息子を見て、とても心配です…」
駅の中はテントや簡易ベッドがあちこちに並ぶ。各駅には日中は100人ほど、夜間は爆撃から身を守って寝るために、昼の2倍、3倍と人が集まる。避難生活が長引き、衛生状態には問題がある。「駅は寒いし、寝不足になります。それでも、少なくともここは安全なんです」とルードミラさんは話す。
MSFの心のケアの活動マネジャーであるデバッシュ・ナイドゥは、「戦争が続き、人びとの不安が高まっています。それでもいま、ここの子どもたちはなんとか極限状態に対処しようとしています」と話す。
見過ごしてはならない、慢性疾患のケア
住民の多くが市外へ逃れているハルキウ。残されたのは、高齢や病気で移動が難しい人や、お金や頼る人がなく避難することができないという人が多い。
移動診療に当たっているモルテン・ロストルップ医師はこう話す。
「がんや肺疾患、糖尿病などの慢性疾患、そして心の不調は、戦争といった危機の中で見落とされがちです。しかし、必要な治療を受けられなくなると病気の深刻な悪化につながります。医療が途絶えたことによる死者が、戦闘による直接的な死者を上回ることもあるのです。
移動診療でたくさんの患者さんの肺の音を聞き、喉を見てきました。避難生活を送る人たちのストレスレベルは極めて高く、ささいな症状でもひどく不安になることもあります。このような中で、丁寧に検査をして会話をすることが患者さんの安心につながるということを改めて感じました。
医療・人道援助活動では、薬や治療という形のある援助だけでなく、外から誰かが来て、危機に直面する人たちのそばにいる、という面も大切です。同じ人間として寄り添う私たちの存在が、希望や平和、安心につながり得るのです」