ウクライナ:消えてしまった希望の光 2度も日常を奪われ再び避難の旅へ

2022年03月25日
夜間に国境を通過する、ウクライナからの難民の人びと Ⓒ Adrienne Surprenant/MYOP
夜間に国境を通過する、ウクライナからの難民の人びと Ⓒ Adrienne Surprenant/MYOP

ウクライナで活動していた、国境なき医師団(MSF)スタッフのアレクサンドル・ブルミン(仮名)が、故郷を追われるのは初めてではない。2014年、ロシアによるクリミア併合の際、ウクライナ東部からキエフ(キーウ)に避難した。そして今回の戦争により、キエフからも立ち去ることを余儀なくされた。10年足らずの間に2度目の避難の旅路についた彼が、苦しい胸の内を語る。

希望の光が消えた朝

2月24日の夜明け、キエフの自宅で、私は爆発音とサイレンの音で目を覚ましました。都会の小さなアパートで縮こまったまま、不安のあまり気分が悪くなりました。その瞬間から、私の人生も、他の多くの人びとの人生も、決して今までと同じではいられない、と確信しました。元には戻せないことが起きたのです。迫りくる戦争への恐怖が高まっていた中で、人びとが抱き続けてきたかすかな希望の光は、激しく打ち消されました。

私はウクライナ東部の、山に囲まれた場所で育ちました。大家族で3部屋のアパートに住み、夜はオリビエサラダやボルシチを食べながら、笑いの絶えない歳月を過ごしました。ゴルロフカの国際語学学校で学んだ後、ウクライナからアメリカに渡りましたが、家族に引き戻される形で、祖国に帰ってきました。

8年前の2014年に戦争が起きた時、キエフに移り住むことになり、そこで「国内避難民」として登録されました。以来、私はこの町で少しずつ自分の足元を固め、市民社会団体や貧困問題に取り組む国際機関で活動してきました。そうしてMSFで働き始めたのです。MSFはウクライナ東部の医療の改善に取り組んでいたので、たとえキエフに住んでいたとしても、思い入れのある地域とつながりを持つことができてうれしかったです。

繰り返される悲劇

8年前に起きたウクライナ東部の悲劇は、いま、この国全体で起きています。わずか数週間で、数百万人もの人びとが故郷を追われました。多くの人びとがウクライナ国内で避難生活を送り、367万人(※)以上が近隣諸国で難民となっています。いま、私の周りにはそのような人びとが大勢います。

※2022年3月23日現在、国連難民高等弁務官事務所のデータ

再び始まった戦争は、前回より激しく、より残忍で、猛烈な破壊力を伴っています。それは私たち全員に傷跡を残していくでしょう。

戦争が始まったその日から、数十万人の人びとが避難していく間、私は市内に残っていました。数日間、聞こえてくるのは砲撃やロケット弾、大砲のつんざくような音だけでした。

ある日、同僚から「最後の人道援助団体がもうすぐキエフを出発する」と電話がかかってきたのです。街から人の気配が消えたような気がし、私はパニックに陥りました。慌てて服をバッグに詰め、大事な書類を手に、車に乗り込みました。戦争が町に空爆や地上戦といった強打を浴びせる中、苦渋の決断を下し、キエフを去ったのです。

いま、私は再び避難の旅路にいます。ウクライナ西部に押し寄せる、尽きることのないキャラバンの中の小さな一つの点として。これからどうすればよいかも分からず、何も手につきません。この恐ろしい戦争と、何の罪もない人びとが味わっている苦しみに怒りを覚えます。同時に、次は一体何が起こるのだろうと思うと、怖くてたまりません。

日常も、援助活動も失われ……

それでも、いまこの瞬間も、地獄のような生活を強いられているウクライナ東部の多くの同僚に比べれば、自分はまだ幸運だと感じます。マリウポリの包囲には、心底怒りがこみ上げます。猛烈な砲撃を浴び続けたボルノバハは、ゴーストタウンになりました。学校、病院、住宅は破壊され、2014年の戦争以来、ウクライナ東部が築いてきた発展は全て、廃墟と化してしまったのです。

近年、ウクライナ東部は、行政サービスの強化に取り組んでいました。MSFの援助も、直接的な診療から、医療体制強化の支援に移行していたのです。たとえば、遠隔地に住む人びとがすぐに診断と治療を受け、薬を手に入れることができるよう、地域の医療ボランティアのネットワークをサポートしていました。

状況が劇的に変わってしまったいま、私が以前MSFで行っていた仕事は、もはや実行することは不可能でしょう。同僚も多くは同じような状況です。しかし、そんな厳しい状況下であっても、私の同僚は懸命に救急医療援助活動に取り組んでいるのです。

私も、もっと支援したい。けれども、私自身も巨大な渦に巻き込まれている状況です。かつて存在していた日常の暮らしや、当たり前だと思っていたものは崩れ去りました。私たちを襲った強大な武力から立ち直るためには、とてつもなく大きな回復力が必要とされるでしょう。

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