零下10度、ウクライナからスロバキアへの避難 いま国境の町は

2022年03月17日
歩いてスロバキアに入国するために長い列に並ぶウクライナの人びと。毎日約1万人が越境している=2022年3月6日 © Santi Palacios
歩いてスロバキアに入国するために長い列に並ぶウクライナの人びと。毎日約1万人が越境している=2022年3月6日 © Santi Palacios
© MSF
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戦下のウクライナから隣国スロバキアに逃れた人は、2月24日から3月14日までに19万5000人に上った。国境なき医師団(MSF)は3月初旬にスロバキアにチームを派遣し、現在、保健省への協力を進めている。

いま、国境地帯では人びとはどのような状況に置かれているのか。食料は、住居は、医療は——。プロジェクト・コーディネーターとして活動を率いるマルタ・ワノロワスカに、両国の国境地帯の現状を聞いた。
Qウクライナとスロバキア国境の状況は?

両国の境界線には3つの通過地点があります。最も大きいビシュネー・ネメツケーとウージュホロドの間を通ってスロバキアに入る人が全体の7割を占め、物資や貨物も大半がここを経由します。次に大きいウブラでは車でも入国が可能です。そして、最も小規模なベルケー・スレメンツェは、徒歩でしか越えられません。

毎日、平均1万人がスロバキアに入国しています。ウクライナ側の行列は、時には3キロほどの長さになります。そのうちの9割は、女性、子ども、そして高齢者で、リュックサックやスーツケース、ビニール袋に荷物を入れて移動しています。大ぶりの上着をまとい、子どもやペットを引き連れている女性の姿も見えます。皆、空腹で、傷つき、疲労困憊ですが、零下5~10℃の寒さの中を、静かながらしっかりとした歩調で足早に進んでいきます。

最初に避難してきた大勢の難民はウクライナ北部の首都キエフや第二の都市ハリコフか、東部のマリウポリの出身者で、主な移動手段は車か鉄道でした。初めのうちは比較的大型の高級車が見られましたが、いまは困窮の度合いが増して様相も変わり、過酷な環境の中を何キロも歩いてきます。

Qウクライナ西端の町、ウージュホロドの現状は?

ウージュホロド市は、スロバキア国境から約2キロに位置し、ウクライナ国内の人道援助展開の拠点になっています。いまのところは外出禁止令もなく、店舗も営業していて、電気や水道などの公共サービスも止まっていません。

その一方で、不安な空気は広がっています。現金を下ろそうとする人たちでATMには行列ができ、薬局では一部の商品が品薄になっています。時折、警報のサイレンも聞かれます。戦争が始まる前は市の人口は10万人でしたが、多くの避難者で少なくとも3倍に増えました。混雑がひどく、交通も渋滞し、行政は手が回らなくなるのではないかと心配です。

地域社会も、押し寄せる避難民に対応しています。避難民の一部はこの町からさらに移動を続けるのですが、ここで登録すれば、食料や衣類、医療援助を受けられます。仮設住居はまだ準備されていないので、親類の家や、ホテルや、公共施設に滞在しているようです。駅で次の列車や迎えを待ったり、さらには睡眠をとったりしている人もいます。

ウージュホロドの住民も、戦線付近から来た国民との連帯の思いを示そうと、懸命に救援物資を提供しています。

市の中核病院であるトランスカルパティア州病院(200床)は設備が整っていて、専門的な治療や外科治療も行えます。患者さんが押し寄せた場合により大規模な対応ができるよう、さらに200床を増設中です。

氷点下の中、スロバキアを目指す人びと=2022年3月6日 © Santi Palacios
氷点下の中、スロバキアを目指す人びと=2022年3月6日 © Santi Palacios
Qスロバキアに入国した後は?

スロバキア側では、多数の国内の団体といくつかの国際NGOがいるほか、たくさんのボランティアが難民を出迎えています。食料や衣類を提供し、大勢の治安部隊員も援助に加わっています。また、消防隊員の関与も大きく、救急車の手配などを行ったり、他の国々を目指す人の手助けをしたりしています。

町の一時受入施設には200人が滞在できますが、皆、長くはとどまりません。大半の人が欧州の他の国へ移動を続け、欧州市民でない人の一部は自国の手配した航空便で送還されています。スロバキアには、ウクライナ人コミュニティーがあるので、そこに身を寄せる人や、スロバキア人世帯から宿泊場所を提供される人もいます。入国者が増えており、次に避難してくる難民が、現状と同じ宿泊場所や人間関係を頼れるとは限らないため、スロバキア政府が場所の確保を計画中です。

QMSFの支援は?

MSFの緊急対応チームが最初にスロバキア入りしたのは、3月の始めです。初動調査を経て、いまは保健省の対応に協力しています。さらに、医療物資の輸入と援助活動が許可されるように、覚書の締結も進めています。

目下のところ、重大な人道・医療ニーズは、スロバキアの担当局と市民によってカバーされているため、MSFは状況がさらに深刻になった際に対応することになると考えられます。国境付近を定期的に見回り、心のケア、急患の搬送支援、最困窮者への対応を行う移動チームを組織する予定です。

国境のウクライナ側でも、ウージュホロドに拠点を設け、移り変わる状況を見守ります。また、南西部全体を調査し、対応に踏み出せそうなイワーノ・フランキーウシク市などの地域にも注目しています。現在の保健医療上の最大の問題は、必須医薬品の枯渇の恐れです。インスリン、麻酔薬、鎮静薬などの物資が、戦闘で直接的な被害を受けた場所に回されたため、ウージュホロドでも既にこれらが不足しつつあるのです。

避難施設として使われている、ウクライナ西部ウージュホロドの避難施設。もとは体育館だった=2022年3月6日 © Santi Palacios
避難施設として使われている、ウクライナ西部ウージュホロドの避難施設。もとは体育館だった=2022年3月6日 © Santi Palacios

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