ウクライナ、包囲下のマリウポリで心身への影響が深刻に──子どもの脱水、コレラの懸念も

2022年03月16日
激しい攻撃が続くマリウポリ。多くの住民が取り残されている=2022年3月3日 © MSF
激しい攻撃が続くマリウポリ。多くの住民が取り残されている=2022年3月3日 © MSF

ロシア軍の包囲攻撃が続く、ウクライナ南東部のマリウポリ。水や電気などのライフラインが絶たれた現場にいる国境なき医師団(MSF)のスタッフから、悲痛な声が届いた(3月12日)。

水も薬もない状態が続いています。多くの人が殺され、負傷し、地面に横たわっています。薬が尽きて亡くなった方もいました。

水や食料がないばかりか、情報も届かず、ラジオを持っていない人たちはウクライナ全土で何が起こっているのかさえ分かりません──。

攻撃を受けた民家=2022年2月24日 © Lorenzo Meloni/Magnum Photos
攻撃を受けた民家=2022年2月24日 © Lorenzo Meloni/Magnum Photos

マリウポリの深刻な人道危機は、人びとの体と心にどう影響を及ぼしているのだろうか。高まる医療ニーズについて、MSFの緊急対応マネジャーであるケイト・ホワイトに聞いた。

Qマリウポリでは、水や食料の不足が深刻です。人びとの健康にどのような影響があるのでしょうか。

多くの家庭で水や食料、医薬品が不足していますが、これは特に幼い子どもたちにとって危険です。大人と異なり、食事や水の摂取量が大きく変動することに体が耐えられないため、脱水症状を起こすリスクが高いのです。

また、菌で汚染された水が下痢を引き起こすこともあり、下痢からさらに脱水に至るという悪循環に陥ることもあります。最悪のケースでは死に至ることもあります。

また、水質が悪いと、皮膚感染症や疥癬(かいせん)など、さまざまな病気につながります。人びとは砲撃や爆発から身を守るために狭い場所に集まって生活しなければならず、基本的な衛生対策もできません。そのため、呼吸器感染や新型コロナウイルス感染症が広がる可能性があります。

水の量と質の問題から、コレラも心配です。マリウポリでは2011年にコレラが発生したので、コレラの原因菌がこの地域に存在しています。さらに、ウクライナは予防接種率が低いので、はしかやポリオなど本来はワクチンで予防できる病気も、広がる恐れがあるのです。

Q日常生活が壊されました。どのような懸念がありますか?

マリウポリは都市部ですが、燃料が不足している状況では、薪を使って調理をせざるを得ません。普通の家屋で薪を使うと火災が起きやすく、大やけどや呼吸器系の病気にかかる危険性もあります。医療制度が崩壊している現状では、命取りになりかねません。

さらに、戦闘が続いているため、人びとは自由な移動もままならず、医療が非常に受けづらい状況になっています。自由と安全が奪われ、必要な時にすぐ医療機関を受診できないという事態は、戦争のルールを定めた国際法に反しています。民間人は安全と医療を求める権利が法によって保障されているのです。

攻撃を受け破壊されたマリウポリの建物=2022年3月3日 © MSF
攻撃を受け破壊されたマリウポリの建物=2022年3月3日 © MSF
Qウクライナ東部は、住民に占める高齢者の割合が高いことで知られています。マリウポリ包囲は高齢者にどのような影響を与えるのでしょうか。

ウクライナ東部に高齢者の割合が多いのは、8年にわたる紛争によるものです。2014年に紛争が起きたとき、多くの若者が避難のため地域を出ました。しかし移動が困難な高齢者はとどまるケースが多かったのです。

高齢者の中には、高血圧や糖尿病など、基礎疾患を抱えている人も少なくありません。すぐに影響が現れない場合でも、これから戦争の影響が現れることは明らかです。

いま、高齢者の健康を支える地域のシステムは崩れました。私たちは、医療ボランティアのネットワークを立ち上げ、患者さんが必要な時に治療を受け、薬が手に入るよう、手助けしてきました。戦闘のため、多くの保健担当者が地域を離れるか、身を隠しています。そのため、高齢者の孤立感は増すばかりです。

Qマリウポリにいる人びとの心の健康はどうでしょうか?

戦争は人びとの心の健康に大きな影響を与えます。今回多くの人にとって、安全と安心が足元から崩れました。大勢が避難し、これまでのように家族や友人に頼ることも難しい状況です。生活環境も一変し、人びとは安全を求めて転々としています。現在のマリウポリに安全な場所はほとんどありません。銃声と砲撃、空爆の音が絶えず響いています。

心理面での影響は何年も経ってから現れることもありますが、支援は早急に必要です。この戦争がもたらす心の健康への影響に、私たちは数年にわたって大規模に対応する必要があると考えます。

MSFのウクライナでの活動

MSFは8年以上前からドネツク州で活動を行っている。今年2月下旬の開戦直前、マリウポリを拠点とするMSFのチームは、地域のボランティアと協力し、遠隔地の孤立住民が医療を受けやすくなるよう活動。また、ウクライナ東部で心のケアを地方で行えるよう、新たなアプローチも支援。開戦後の数日間には、ウクライナ東部で複数の病院に外傷キットを提供した。また、高齢者を中心に、治療を中断すると生命に関わる患者の治療継続を推し進めている。

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