ウクライナ:「どれだけ時間が残されているか分からない」──攻撃に備える町、オデッサの現状

2022年03月09日
車から見たオデッサの町並み。MSFは現地での活動計画のため調査を行った Ⓒ MSF
車から見たオデッサの町並み。MSFは現地での活動計画のため調査を行った Ⓒ MSF

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緊急対応コーディネーター<br> カーラ・メルキ<br> Ⓒ Pierre Fromentin/MSF
緊急対応コーディネーター
カーラ・メルキ
Ⓒ Pierre Fromentin/MSF
ウクライナ南部の港湾都市オデッサ。現地で医療・人道援助活動の計画のため現地調査に当たっていた国境なき医師団(MSF)の緊急対応コーディネーター、カーラ・メルキが、ロシアの攻撃に備える町の状況と、MSFの援助活動の優先順位について報告する。
 
Qオデッサの現在の状況はどうですか?

オデッサでは、一部の住民はモルドバに向かい避難しています。町に残った人びとはあまり動かないでいる状況です。移動はとても大変で、市内に数多く設けられたウクライナ治安部隊の検問所周辺では、交通渋滞が起きています。

夜間には外出禁止令があり、1日に数回はサイレンが鳴り響きます。オデッサにいる間に、何度か遠くで爆発音を耳にしましたが、どこで何が起きているのかは分かりませんでした。ほとんどの店は閉まり、アルコールの販売は禁止。燃料は配給制で、現金の引き出しも制限されています。

この町が攻撃と包囲作戦への備えを進めているのは明らかです。オデッサは人口約100万人を擁する、ウクライナで3番目に大きい都市です。また、国内有数の戦略的な要所である港湾があります。そのため、今後の展開を楽観視している人などいません。誰もが最悪の事態に備えています。

Qロシアの攻勢に備え、町の医療体制はどうなっていますか?

現状を把握するため、負傷した民間人の受け入れ先となっているいくつかの病院を訪問しました。これらは大きな病院で高水準の医療設備を備えているものの、戦闘や爆弾による大勢の負傷者が一斉に搬送されるような事態には慣れていません。戦争が日常でない国の一般的な病院で、戦時医療の実践準備を進めているようなものです。理論でどうにかなるものではなく、現実の体験によって培われるものなので、とても難しいです。

それでも、多くの医療関係者はまだ現地に残っており、逃げるつもりもありません。誰もが懸命に働き、何が起きても対応しようと決めています。

Q医薬品が不足する恐れがありますか?

今回の戦争によって医療体制は既に崩壊し、その影響は物資のサプライチェーンにも及んでいます。入院している患者さんに温かい食事を出せなくなったのは、その一例ですね。通常はミコライフ市で調理を行っている食事が、戦闘のため配達できなくなったのです。この事態を受けて、MSFはミールキットを提供することで病院をサポートできないか検討しています。

また、医薬品の一部は不足し始めています。全国的な供給ができなくなり、通常のルートでは注文できません。各地域や大都市は、代替策を模索中です。MSFは対応を始めており、3月6日にはルーマニアから医薬品と医療機器の第一便が届いたので、その一部をミコライフの病院に送りたいと考えています。ただ、全国で医薬品や機材不足が既に大きな問題になっているのは明らかで、状況は悪くなる一方です。

戦争による直接的な影響に加え、がんや糖尿病といった慢性疾患患者さんへの影響もひどくなることが予想されています。

Qモルドバ国境の状況はどうですか?

モルドバ当局によると、ウクライナから既に約12万人が到着しています。オデッサ州の住民にとって最も近い国境通過点は、車で2時間ほどのパランカという町です。でも、現在は国境を通過するために24時間以上かかることもあります。国境の検問所では、モルドバ当局の職員が自国民と他国民を分けていますが、全ての人びとが通過することができます。

富裕層の人びとは車で移動し、その他の大勢の人びとはバスや電車で避難しました。その大半は女性や子どもたちです。国境付近では、数キロメートルに及ぶ渋滞が起きています。最後の数キロは歩いて向かう人も多く、厳しい寒さの中を進むことになります。疲労や不安だけでなく、慢性疾患の症状が出ている人もいます。

国境に到着したら、すぐに治療が必要な人びとがたくさんいます。MSFはモルドバ保健省と共同で簡易的な診療所を設置し、安全で暖かい場所で応急処置を行えるようにする予定です。また、モルドバ側では、モルドバ当局が受付エリアを設けています。難民にとって首都キシナウやその先への移動手段を探しだすのは、時間がかかるためです。ここにも避難所を開設して、健康面でのリスクを抱えた人びとに心のケアや社会面での支援を行う予定です。

QMSFはオデッサの人びとをどのように支援する予定ですか?

オデッサでは、二つの優先課題があります。一つ目は、負傷者を受け入れる病院の準備に協力すること。研修やトリアージ(※)支援、患者の容体安定化などのサポートを提供できると考えています。また、いくつかの救護所の設置支援も検討しています。小規模な救急処置室で、病院搬送前に負傷者の応急処置を行える場所です。

二つ目は、医薬品不足を防ぐため、供給を支援する計画です。3月7日に最初の医薬品を寄付しましたが、数日で他の医薬品も届ける予定です。ルーマニアのNGOである「ジデビネ(Zidebine)」とパートナーシップを結び、ウクライナ用の医薬品購入と配送を支援してもらっています。

町が攻撃されるまで、あとどれだけ時間が残されているかは分かりません。まだ活動できるうちにできるだけ態勢を整えるべく、全力を挙げています。まさに時間との戦いです。

※重症度、緊急度などによって治療の優先順位を決めること。

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