薬剤耐性結核になった男性患者…長期治療や差別を乗り越え、病気を克服【3月24日は世界結核デー】

2019年03月24日掲載

MSFのプロジェクトで結核を治癒した最初の患者、イホルさん(左から2番目)と、MSFのスタッフ。© MSF
MSFのプロジェクトで結核を治癒した最初の患者、イホルさん(左から2番目)と、MSFのスタッフ。© MSF

昨年5月、ウクライナ北西部のジトームィル州立結核病院でイホルさん(33歳)は薬剤耐性結核(DR-TB)と診断された。薬剤耐性結核とは、結核の治療薬に耐性ができてしまった結核菌のこと。イホルさんは、国境なき医師団(MSF)が始めたばかりの試験的なプロジェクトで治療することになった。

このプロジェクトは、保健省と共同運営する。ウクライナで効果的なDR-TB治療モデルを実践するのが目標だ。ウクライナは、1995年から結核がまん延している。世界的に見てもDR-TB感染率の特に高い国のひとつだが、患者の治療が成功した割合は50%にとどまる。治療開始から10カ月、イホルさんはMSF・保健省スタッフと集まり、プロジェクトを始めてから結核の治癒した最初の患者になったことをお祝いした。

2カ月で退院 MSFの治療が成果をみせた

治療を振り返る患者のイホルさん。© MSF治療を振り返る患者のイホルさん。© MSF

イホルさんほど、短期で治療がうまくいったケースは、ウクライナでは前例がない。国内で広く採用されてきた従来のDR-TB治療では、2年近くの期間を要した。結核病院への、数カ月、時には年単位の入院も求められた。

イホルさんの場合、MSFのプロジェクトが功を奏し、2カ月での退院に至った。自宅で生活しながら、地元の診療所で投薬を受けながら、治療を続けることができた。その間ずっと、看護師、ソーシャルワーカー、精神保健専門家によるMSFの患者支援チームが、イホルさんを支えた。イホルさんが、薬の副作用や、家族や友人からの拒絶などの困難を乗り越えられるようにするためだ。

イホルさんは、治療を始めた当時の心境を「気持ちが沈んでいました。結核を治せることはわかっていたが、治療期間が長く、みんなとも離れ離れになってしまって…。個人的には、隔離されるのが一番嫌だった」と振り返る。

イホルさんは結核病院で、60日間入院して治療を受けた。他の患者と比べれば治療期間は短い方だったが、それでも「とても長く感じられました。院内でも、病棟を歩き回る時には、マスクの着用が必須です。投薬もスケジュール通りでなければなりません。当然、初めは簡単そうだと思うのですが、だんだんうんざりしてきた」という。 

1回で16錠の薬を服用…口に運ぶのがつらかった

回復した患者のイホルさん(左)と患者支援を担当するMSFスタッフ。© MSF
回復した患者のイホルさん(左)と患者支援を担当するMSFスタッフ。© MSF

薬の投与は精神的に辛かったという。

「気分がひどく悪くなるので…。肌が赤くなったり、吐いたりもしました。嗅覚も敏感になり、漂白剤の匂いが何倍も強く感じられたこともありました。集中的に治療する時期には、1回16錠の服薬を4カ月、毎日続けました。その後の補足的な段階で1日10 錠です。薬を飲むと、喉と胃がおかしくなり、吐き気もありました。1回に16錠も薬を飲む気持ちがおわかりになるでしょうか。最初は、時間をかけて1錠ずつ飲んでいたのですが、やがて、ふたつのまとまりに分けて、ヨーグルトや牛乳で流し込むようになりました。薬を口に運ぶだけで気分が悪くなることもありました。でも、服薬の目的は理解していたので、毎日続けることができました」

仲間から思いがけない反応「感染がこわい」

ようやく自宅に戻り、母と暮らしながら通院で治療できるようになった。退院できたということは、「回復している」ということ。とても嬉しかったという。体力の回復は十分ではなかったが、お金が必要だったイホルさんは復職。だが、仕事仲間たちの反応はさまざまだった。

「仕事仲間たちは同情してくれましたが、口をきかない友人や、一定の距離がないと会話しない友人もいました。私から病気がうつることはないのに、感染を心配していたのです。親しい友人でさえこう聞いてきました。『本当に周りの人にはうつらないのか。なんでこんなに早く退院したの』そのたびに、必ずしも入院を続けなくてもいいのだ、ということを懸命に説明しました。検査で陰性だとわかれば、結核はもう伝染しない段階なので、家に帰れるのです」

イホルさんは、いずれは職を変えようと思っている。現在は、自営で配線業をやっているが、朝8時から夜10時まで作業もあり、とても大変だ。

「健康のためにはワークライフバランスと、ストレスの回避が大切だと思います」

治療中の患者さんへ「諦めないで」

治療完了の祝賀会で、MSFのスタッフからお祝いされるイホルさん。© MSF治療完了の祝賀会で、MSFのスタッフからお祝いされるイホルさん。© MSF

3月24日は、世界結核デー。世界各地で、結核予防や撲滅に関する啓発活動が行われる。結核を克服したイホルさんは、治療中の結核患者に「あきらめないで治療を続けて」と呼びかける。

「私自身が経験して、治療の期間が一番大変であることはわかります。でも、後で振り返って、自分はあんなにつらい時期を乗り越えたのだ、と実感すると前向きになれますよ。いつまで治療が続くのか、というのが最もつらい部分ではありますが、何より大事なのは始めることです。後は過ぎていき、治療に費やした時間さえ気にならなくなるでしょう」
 

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