「大地震、どう緊急援助を行う?」アクセスが困難なシリアで活動する国境なき医師団

2023年02月09日
シリア北西部イドリブ県、地震で倒壊した建物のがれきの中で救助活動をする人びと=2023年2月6日 © Omar Haj Kadour
シリア北西部イドリブ県、地震で倒壊した建物のがれきの中で救助活動をする人びと=2023年2月6日 © Omar Haj Kadour

2月6日にトルコシリアで起きた大地震。国境なき医師団(MSF)は、増え続けるニーズに対応するため、複数のチームを現場に派遣しています。シリア北西部では、地震発生から数時間以内にけが人の治療を開始し、最も被害が深刻なトルコ南部ではニーズ調査を行っています。

発生から3日が経ち、推計によると亡くなった人の数は両国で合わせて1万5000人を超えました。がれきの下敷きになっている人が大勢いるため、死者数はさらに増えると予想されます。

トルコ・シリア地震、MSFの対応は…

  • シリア北西部のMSF支援先病院で、3465人以上の負傷者を診察
  • イドリブ県内にある23カ所の病院と診療所に外傷と手術のための緊急医療キットを寄贈
  • シリア北西部で被災した医療施設に救急車を送り、臨時のスタッフを派遣
  • アレッポ県ジンデリスで毛布、衛生用品、食料品を2500世帯に配布
  • トルコ南部でのニーズを調査し、援助を開始するための準備を終えて待機中

Q地震発生からこれまでに行った援助は?

最初の地震発生後、自らも被災したシリアの現地チームは、すぐに援助やケアの提供に取り組みました。アレッポ県とイドリブ県でMSFが支援する医療施設では、3465人のけが人を治療し、551人の死亡を確認しました。地震発生から数時間で治療した患者数は、200人以上にのぼります。 

また、緊急医療用の物資をイドリブ北部にある23カ所以上の病院や診療所に寄贈。支援している各施設や移動診療所で、心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド: PFA)も始めています。

MSFには独自の緊急時対応計画があり、活動をすぐさま開始しました。イドリブとアレッポの各病院へ救急・外傷・手術で用いるキットや、専門スタッフを送る支援を行っています。また、必要な場所にテントを張って医療施設の病床数を増やし、包帯交換所も設置しました。イドリブ県では移動診療を開始して、患者を救急車で搬送するサポートもしています。

また初期対応として、最も被害が大きいアレッポ県アフリンのジンデリス地域で、2500世帯に毛布、衛生用品、食料品を配布しています。

シリアでMSFは衛生用品、台所用品、防寒具、毛布などを含む270セットの救援物資をアフリン地区とアレッポ北部の避難所に届けた=2月8日 © MSF
シリアでMSFは衛生用品、台所用品、防寒具、毛布などを含む270セットの救援物資をアフリン地区とアレッポ北部の避難所に届けた=2月8日 © MSF
Qシリアではどのようなニーズがありますか?

人びとは避難所、食料、毛布、衣類、暖房器具、衛生用品、医療援助を必要としています。MSFは地震の被災者、特に避難所のない人びとへの緊急支援を最優先にしています。

現地では燃料、電気、給排水設備なども不足しています。被災者が必要とする心のケアは、スタッフも含め受けることが困難な状況です。

Q反体制派の統制下にあるシリア北西部はどのような状況ですか?

シリア北西部は、震災によってそれまでの危機に追い打ちをかけられた状態です。長年の内戦、経済低迷、コロナ禍に加えて、最近のコレラ流行によって、この地方はすでに人道危機に陥り、医療体制は限界にありました。

今回の地震で住居や建物が各地で倒壊し、数千人がホームレス状態です。家を失った人びとは、余震を恐れて、寒空の下、屋外に取り残されたままです。車の中で寝る人も多くいます。

人口400万人のうち280万人がすでに避難生活を送っていた地域で、避難民がさらに増えたのです。震災の被害は甚大で、大規模な支援活動が必要です。国際援助が一刻も早くシリア北西部に届くようにしなければなりません。

イドリブ県サルマダ市、町での被害 © Hadia  Mansour
イドリブ県サルマダ市、町での被害 © Hadia  Mansour
Qシリア北西部にはどう人道援助を届けているのですか?

他国からシリア北西部へ人道援助を届ける唯一の越境地点となっているのが、トルコとの国境にあるバブ・アル・ハワ検問所です。しかし、その機能は不十分で、国境に通じる道路も地震被害を受けています。MSFは、バブ・アル・ハワ検問所の継続と、シリア北西部への越境支援ルートを増やす要請を支持しています。

ほぼすべての援助組織が、この唯一の越境地点を利用して活動しています。そのため、最大の課題はシリアへの人道・医療援助の搬入で遅れが生じかねないことです。

Qシリアでの活動は今後どうなりますか?

MSFは地震による緊急対応に加え、妊婦や慢性疾患の患者など弱い立場にある人がケアを受けられるよう、被災していない病院でも定期的な医療援助と活動を続けています。 

MSFは現在、シリア北西部で、7カ所の病院(やけど治療ユニット1カ所を含む)、12カ所の基礎診療所、3台の救急車による搬送を支援しています。また国内避難民キャンプでは11の移動診療所を支援。さらに北西部で90カ所近くある避難民キャンプで給排水・衛生活動も行っています。

シリア北西部では、MSFは2つの現地NGOとも連携していて、現地の保健当局と密に連絡を取り合いながら、必要なところへ支援を拡大しているところです。

イドリブ県アルダナ市で倒壊した建物 © Hadia  Mansour 
イドリブ県アルダナ市で倒壊した建物 © Hadia  Mansour 
Qトルコ南部はどのような状況ですか?

国際赤十字赤新月社連盟によると、地震と余震により約6000棟が倒壊し、少なくとも15万人が家を失いました。

当局は今後、学校を避難所にし、人びとが献血できるように移動献血チームを各地に配備しています。最も被害の大きい10県では、国際支援を求める「レベル4」の警報と3カ月の非常事態を宣言しています。

Qトルコでは主にどのようなニーズがありますか?

当局は差し迫ったニーズとして、「避難所、救援物資、食料配布」を発表しています。

MSFの緊急対応チームは、トルコ南部で最も深刻な被害を受けた地域とされるハタイ、ガジアンテプ、ディヤルバクルでニーズ調査を行っています。ハタイ市は現在も建物の崩落が止まらないため、閉鎖されています。MSFは市街地近郊での援助を予定しています。

地震以前、トルコ国内で活動していなかったMSFは、同国への支援を開始する準備と緊急対応力を整えました。援助の詳細については、当局や現地パートナーと協議を続けています。

命を救う活動を、どうぞご支援ください。

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