「爆撃におびえながら手術をしている」 シリア、止まない空爆の中で病院は

2020年02月10日
MSFから配布された毛布を持ち帰る少年(シリア北西部の避難民キャンプにて) © MSF
MSFから配布された毛布を持ち帰る少年(シリア北西部の避難民キャンプにて) © MSF

キャンプに逃げ込んでも、テントが足りない。爆撃で大けがを負っても、病院は攻撃で破壊されている——。ここは、シリア北西部イドリブ県。シリアにおける反政府勢力の最後の拠点だ。シリア政府とその同盟軍が軍事作戦を強化し、住民は砲撃や空爆の恐怖にさらされている。病院も多くが被害に遭い、負傷者を手当てすることすら困難な状況だ。危機にある医療の現場に立つ人びとの声を伝える。 

「次に爆撃を受けるのはこの病院かもしれない……」

このわずか数カ月で、シリア北西部にある病院の大半が直撃を受け、全半壊した。イドリブ県北部で国境なき医師団(MSF)のプロジェクト・コーディネーターを務めるクリスチャン・レンデルは、「戦闘が長引けば長引くほど、負傷者が医療を受けることが難しくなります。遠くの病院に行くためにけがが悪化して、命を落とす人が増えるかもしれません」と懸念する。

また、イドリブ県のある医師はこう現状を語った。「患者があまりにも多く、手が回りきりません。普段は別の病院で治療を受けていた患者が、すべてこの病院に来ているのです。朝も夜中もノンストップで働き、必要な人すべてに治療や手術を行っています。手術をしていても、次に爆撃を受けるのはこの病院かもしれないと、みな怖くて仕方ありません。医師も職員も心身ともに重圧にさらされています」

消耗品が猛スピードで減っているが、補充が手に入るかどうかも分からないと言う。

また、別の病院の院長は、「医療機関への爆撃は日常茶飯事です。私たちの病院はなんとか無事ですが、複数の医療機関が、破壊されて診療できない状況になっています」と話す。

県内の病院の一つであるアリハ病院は、別の場所で起こった爆撃の負傷者数十人がこの病院へ救急搬送されている最中に、爆撃を受けた。何度も空爆を受け、建物が破壊されただけでなく、薬局の薬も使えなくなった。また、県南部で最大の病院の一つであるマアラト・ヌマン病院は、爆撃を受けて診療不能に追い込まれた。さらに、MSFが外科と応急処置キットを寄贈したイドリブ中央病院には、武装した反政府勢力がなだれこんだ。医療スタッフは抗議したが、反政府勢力は数時間にわたって病院を軍事目的で占拠した。

命をつなぐ医療が今まさに必要というときに、医療への攻撃が起きている。医療機関への攻撃や、医療機関の軍事目的利用は、国際人道法に違反していることは明らかだ。MSFはこうした行為を強く非難している。 

緊急援助の規模を拡大

他の医療機関のニーズにも対応できるよう、MSFは50件の手術、300件の急患の容体管理を行える救急医療キットを作成。向こう数週間で診療を行えるようにしていく。また、数万人が移住して劣悪な環境で暮らす、イドリブ県北部での調査も続ける。

シリア北西部とトルコ国境の間で攻撃から逃れる人びとは、約300万人に上る。命がけで逃げても、たどり着いたキャンプが超満員でテントすら見つけられないことも少なくない。MSFは、新たに避難して来た世帯も対象に援助を拡大し、キャンプ内への飲料水の供給や、毛布や暖房器具など救援物資の配布を続けている。ニーズはまだまだ増える一方だ。 

残るべきか、逃げるべきか

シリア人のある病院長はこう語る。「今私たちが目にしているのは、“人間の津波”のようなものです。皆が北のトルコ国境へ向かって全速力で逃げようとしています。皆が同じ道路を通って逃げようとしているので、30キロメートル先まで行くだけでも3時間かかります。

この状況で、医療スタッフは難しい決断を迫られています。ここに残って病気やけがをした人を治療すべきか、それとも自分も逃げるべきなのか、と。私の家族は数日前に避難のため出発しましたが、私はもう少しここにとどまることに決めました。でも家族からはそれきり音沙汰がなく、心配でたまりません」 

シリア北西部の避難民キャンプ  © MSF
シリア北西部の避難民キャンプ  © MSF

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