空腹で薬が飲めない──食料不足の南スーダン、結核患者らが直面する過酷な現実

2024年06月25日
MSFの病院に入院している赤ちゃんと母親。2人とも結核にかかっており、赤ちゃんは栄養失調にも陥っている © Kristen Poels/MSF
MSFの病院に入院している赤ちゃんと母親。2人とも結核にかかっており、赤ちゃんは栄養失調にも陥っている © Kristen Poels/MSF

アフリカ東部に位置する南スーダン。この国では、今年6月から7月にかけて、700万人以上が深刻な食料難──あるいはそれ以上の事態──に直面すると予想されている。その中には、結核やHIVに感染している人びとも大勢いる。
 
胃が空の状態で強い薬を飲むのは、耐えがたい苦痛をもたらす。激痛になんとか耐えようとする人もいれば、つらさに耐えきれず、薬の服用を減らしたり、服用そのものをやめたりするケースも出てくる。しかし、それは、生命を危機にさらすことになるのだ。

迫られる過酷な選択

空腹のまま激痛に耐えながら薬を飲み続けるのか、それとも、薬をやめて命を危険に晒すのか。本来であれば、そのような過酷な選択を病に苦しむ患者にさせるべきではない。しかし、それが、結核やHIVに感染した南スーダンの人びとが直面している現実なのだ。

彼らは、1日に最大8錠の薬を服用しなければならない。それが生涯続く。そこに食料不足の問題が重なり、激しい痛みやめまいに悩まされることになる。

この点について、60歳の患者ジェームスさんに話を聞いた。彼は、気温40度もの陽射しの中、自宅前で、痩せ細った体をつえで支えている。4年前に起きた洪水で家も家畜も失い、この土地に移ってきた。

生活は本当に苦しいです。3カ月前から結核とHIV感染で具合が悪くなり、仕事ができなくなって貯金も底をつきました。このあたりで手に入るのはスイレンの根ぐらいです。それでは、とても十分な食料になりません。

ジェームスさん(60歳)

ジェームスさんは、苦しそうにお腹を見せながら、さらに続ける。
 
「だから、食事の量に合わせて、薬の量を減らしているんです。1食しか食べられない日には、薬も半分しか飲みません。体に良くないことは分かっていますが、他にどうしようもないんです。食事をとらずに薬を飲むと、めまいや震え、胃痛がひどくなるんです」

食事がとれない時は薬を減らしていると話すジェームスさん © Kristen Poels/MSF
食事がとれない時は薬を減らしていると話すジェームスさん © Kristen Poels/MSF
食料が不足し、スイレンの根しか食べられないことも少なくない © Kristen Poels/MSF
食料が不足し、スイレンの根しか食べられないことも少なくない © Kristen Poels/MSF

食料不足が引き起こす悪循環

2日前にMSFの医療施設に入院したばかりのガトクオスさんも、同じく苦悩を語る。
 
「私が結核になったのは4年前です。当時の治療は、それほどつらいものではありませんでした。しかし、今は違う。食べ物がないので治療が大変なのです。時には、苦痛があまりに激しくて、このまま病気で死んだ方がましだと思ってしまうほどです」

彼らが暮らしているユニティ州レール郡は、大洪水が頻繁に起こり、治安が不安定になりやすいところだ。周囲と孤立していて住みにくい地域ともされている。ここ数年、地元住民たちは、土地を耕す気力を奪われてきた。懸命に耕作しても、再び全てを失うかもしれないという恐れを抱いているためだ。
 
必然的に、彼らは市場に出回っている食料に頼っている。しかし、インフレが続いており、それも難しくなる一方だ。予算削減のため、食料援助の規模も縮小している。さらに、紛争の続く隣国スーダンからの難民が増加。2023年4月以来、帰還民と難民を合わせて6万人以上が、ユニティ州内に住むようになった。そのため食料供給はさらに圧迫され、住民全体に低栄養が広がっている。

空腹のままでは、結核やHIV感染の治療の強度に耐えるのが困難で、患者たちにとって、治療上の指示を守り続けるのが難しくなる。さらに、栄養不足によって免疫力が著しく低下するため、病気にかかるリスクも高くなるという悪循環に陥っている。
 
結核患者やHIV感染者にとって、食料と栄養の支援は、治療に欠かせないものだ。食料支援によって、患者たちは健康を維持した上で薬物治療を続けられるようになる。結果として、治療プロセス全体に大きな効果をもたらすのだ。

4年前から結核を患っているガトクオスさん。食料不足の中での治療の苦しさを語る © Kristen Poels/MSF
4年前から結核を患っているガトクオスさん。食料不足の中での治療の苦しさを語る © Kristen Poels/MSF

脆弱な立場の人びとへの援助を最優先に

レール郡にてMSFの医療チームリーダーを務めるダニエル・メコネンが、次のように報告する。
 
「食料不足は深刻です。現在、私たちは、結核とHIVに二重感染した600人以上の患者たちに対応しています。彼らの多くは、食べる物がないために指示された治療法を続けられないと訴えています。食料事情が悪いままでは、薬を飲むのを減らすか止めるしかない。彼らは、そのような状況に追い込まれているのです」
 
メコネンによれば、こうした事態が、さらなる負の連鎖を引き起こしているという。
 
「MSFが対応している患者たちのあいだで、重症化して治療困難となるケースが増えてきました。抗菌薬耐性を持つようになった患者も多い。以前は、月8人のペースで新規患者を診てきました。それが、最近は倍増して、月16人のペースに達しています。治療の中断を余儀なくされたり、患者が治療法の指示を守れなくなったりするケースも増えている。食料の支援がなければ、私たちの活動は成果を上げられません。南スーダン全域において、HIVや結核が高レベルで流行し続けている現状に対して、MSFは深く憂慮しています」

MSFは、1989年より、南スーダンのユニティ州レール郡において活動を続けている。現在も、この地域において診療にあたっている数少ない団体の一つだ。

この地域では、栄養失調が増えているにも関わらず、食料配給の量は足りず、優先順位も設けられていない。食料支援にあたる諸機関には、支援規模を拡大するとともに、HIV感染者や結核の患者のような社会的に脆弱な人びとを最優先にした支援が求められている。

MSFがユニティ州で運営する病院の小児病棟。栄養失調などで入院する子どもたちで常に定員を超えている © Kristen Poels/MSF
MSFがユニティ州で運営する病院の小児病棟。栄養失調などで入院する子どもたちで常に定員を超えている © Kristen Poels/MSF

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