南スーダン:スーダンの紛争避難民が直面する「新たな危機」

2023年06月27日
南スーダン・レンクの移動診療所で、重度の脱水症状を伴う下痢に苦しむ生後3カ月の子どもを診察=2023年6月7日 © Nasir Ghafoor/MSF
南スーダン・レンクの移動診療所で、重度の脱水症状を伴う下痢に苦しむ生後3カ月の子どもを診察=2023年6月7日 © Nasir Ghafoor/MSF

スーダンの紛争を逃れて南スーダンに渡った数千人が、同国北部にある一時滞在センターで苦境に立たされている。人びとのほとんどがスーダンに住んでいた南スーダン人で、女性や子どもが多い。スーダンから帰還した南スーダン人(以下、帰還民)のニーズは今後高まる一方であり、国境なき医師団(MSF)は、医療・人道援助関係者に対応を加速させるよう呼びかける。

不十分な人道対応

南スーダンでMSFの活動責任者を務めるジョスリン・ヤピは「特に、上ナイル州と北バハル・エル・ガザル州は、多くの帰還民が来ており、現在の人道対応は不十分です。人びとは心に傷を負い、食料、避難所、衛生設備、その他の必需品は非常に限られています。当局や援助関係者は、尊厳ある方法で人びとを国内の他の地域に移送する手続きを加速させ、彼らの生存と南スーダンでの定住のための生活インフラの提供を急ぐことが求められます」と指摘する。

人びとが暮らす一時滞在キャンプの生活環境は劣悪で、既に健康に悪影響を及ぼしている。雨期の到来によって、状況は壊滅的なものになりかねない。

「MSFは既に、生活環境に起因する病気の患者を治療しています。本格的な雨期は間近に迫り、すぐ対処しなければ、病気の流行や、健康被害で数千人の命を危険にさらす恐れがあります」とヤピは警告する。

毎日スーダンからの避難民が到着

スーダンでは4月中旬以降、戦闘によって数百万人が避難を余儀なくされた。南スーダンには12万7000人以上が避難し、そのほとんどが上ナイル州のレンクにたどり着いた。現在、毎日800人から1000人がロバにひかれた車に乗ってレンクに入国しているが、その多くは国境に到達するために長く危険な旅を経験している。

病気の弟を連れたアウェル・シュールさんは、安全を求めて故郷に戻る多くの南スーダン人の一人だ。弟はスーダンで治療を受け手術をする予定だったが、ハルツームが戦闘地域になったため、治療を中断せざるを得なかった。アウェルさんは15日間の旅をこう振り返る。「私たちみな、ハルツームから命からがら逃げ出しました。途中で武装した男たちに出くわし、金品も携帯電話も奪われました」

避難先で直面する「新たな危機」

南スーダンへ避難した人びと。食料、避難所、衛生設備などはごく限られている=2023年6月7日 © Nasir Ghafoor/MSF
南スーダンへ避難した人びと。食料、避難所、衛生設備などはごく限られている=2023年6月7日 © Nasir Ghafoor/MSF

帰還民のほとんどは、新たな危機が待ち受けているとは知らずに到着する。レンクでは現在、主要な一時滞在センターで本来受け入れ可能な人数をはるかに上回る1万2000人を超える人びとが暮らしている。数百家族が一時滞在センターの外で野宿し、持てるすべての資材で日差しを遮っている。

約1カ月前、この一時滞在センターで、住民同士の衝突が起きた。それ以来、争いに巻き込まれるのを避けるために、何人かの住民はセンターを出て行かざるを得なかった。センターにいる人びとは多少の援助が受けられるが、その外にいる人びとへは援助が及ばない。

40年間スーダンで暮らしたあと南スーダンへと戻り、レンクの川に近い倉庫で寝泊まりしているアニル・マトク・デンさんは「食べ物を含め、生きるのに必要な援助物資はほとんどありません。川からはヘビやサソリがやってくるし、きれいな水も足りません。誰もここに居たくありません。ここを出ていくための交通費のためなら、服を売り、裸で歩くこともいとわないのです」と話す。

レンクから150キロメートル離れた町パルーチまで行くトラックに乗るには、1人当たり約2万5000南スーダンポンド(約2万7579円)かかる。多くの人は、そこから大バハル・エル・ガザル行政区に行く飛行機に乗りたいと考えるが、金に余裕のない人びとは、援助を待つしかない。南スーダンにルーツを持っていても、里帰りではない——こうした帰還民は、人生のほとんどをスーダンで生活してきたか、何年も暮してきた。そのため、医療、食料、避難所などの必需品を手に入れ、移動し、生き延びるために支援を必要としている。レンクの地元当局は、既に避難民キャンプがあるマラカルにできた2つ目の一時滞在センターに帰還民を移送する計画を発表していた。しかし、6月初めにマラカルのキャンプで住民間の衝突が起き、少なくとも17人が死亡したため、レンクとマラカル間の移動は一時的に停止された。

援助資金の削減が医療に打撃

北バハル・エル・ガザル州のアウェイルでも似たような状況だ。スーダン人は難民用一時滞在センターに滞在しているが、南スーダン人帰還民の多くは、食料も清潔な水も適切な衛生設備もなく、いまだに木の下で暮らしている。同州では、今回の危機以前から人道ニーズが高く、資金削減によって公共医療は損なわれていた。

アウェイルでMSFのプロジェクト・コーディネーターを務めるマルゴ・グレレは「帰還民と難民の到着は、北バハル・エル・ガザル州の人道状況に大きな影響を与えるでしょう。既に栄養失調の患者は増えています。ここ数年、人道分野への資金援助の中でも医療施設は資金削減の対象にされてきたため、現行の医療体制でも地域住民には不十分です。さらなるニーズを満たすことはできません」と懸念を示す。

MSFは上ナイル州と北バハル・エル・ガザル州で緊急対応を開始し、レンクで3チーム、アウェイルで1チームによる移動診療を行っている。レンクでは、水・衛生チームが、避難民に安全な飲み水を供給するため、河川の水を浄水処理しているほか、医療チームが子どもたちの栄養状態を調査し、はしかの隔離病棟を設置している。また、MSFは専門治療が必要な患者の搬送や、心のケア、健康教育も行っている。

レンクのMSF緊急対応看護師、ダワイ・アパイはこう話す。「MSFは急性水様性下痢、マラリア、呼吸器感染症などを治療しています。この地域では野外排せつが当たり前になっているうえ、倉庫や仮設避難所には洪水の危険にさらされており、本格的な雨期に入れば、コレラなどの病気が発生しやすくなります。これを防ぐには、避難所、清潔な水、衛生施設を提供することで、人びとの基本的な生活のニーズを満たすことが極めて重要です」

スーダンの紛争に終わりが見えない中、さらに多くの人びとが国境を越えて南スーダンにやってくることが予想される。MSFは、入国者が登録を済ませるまでの一時滞在手続きを急がなければ、アウェイルとレンクの人びとのニーズは増え続け、致命的な健康被害が予想されると警告している。

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