干ばつにより健康危機が悪化 「死に至る病」はしかのまん延も ソマリアとソマリランド

2022年06月17日
MSFが支援するベイ地域病院のはしか隔離病棟で治療を受ける患者たち Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF
MSFが支援するベイ地域病院のはしか隔離病棟で治療を受ける患者たち Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF

4度に及ぶ雨期の雨不足に、「アフリカの角」(※)と呼ばれる地域で起きたイナゴの大発生……。度重なる自然災害に続き、いま、ソマリアとソマリランドはここ数十年で最悪の干ばつに直面している。深刻な水不足と牧草地の乾燥で家畜が減少し、ソマリアの牧畜民の生活に打撃を与えている。

干ばつと治安の悪さから逃れるため、何十万人もの人びとが食料、清潔な水、避難所、医療を求めて、農村部から都市の中心部に移住。国内避難民キャンプにたどり着いた人も多いが、トイレや手洗い場、清潔な飲み水などは不足している状況だ。

国境なき医師団(MSF)が活動を行う、バイドア、ムドゥグ、ジュバランド、ハルゲイサ、ラス・アノドの医療施設を訪れた患者たちは、人道援助なしには生きていけないと話す。

また、はしかの流行も深刻で、2022年4月以降、いくつかの地区ではコレラも流行。さまざまな感染症と、子どもの栄養失調への対応が大きな課題となっている。避難を強いられたはしか患者の家族の物語から、ソマリアとソマリランドの現状を伝える。

※アフリカ大陸北東部にある、角のように突出する地域。エリトリア、ジプチ、エチオピア、ソマリア、ケニアの各国が含まれる。

干ばつに追われ避難 娘がはしかに

ソマリア、バイドア

6人の母親である35歳のアベイ・スボーさんは、2020年はじめ、ソマリア南西部に位置するバイドアの町郊外の広大な国内避難民キャンプ、ニモレにたどり着いた。アベイさんは、夫と6人の子どもと一緒に、農業を営んでいたディンソールから避難。度重なる干ばつや紛争に加え、人道援助も不足していたためだ。
 
アベイさんの故郷は、ベイ地域のバイドアから南東に120キロのところにある。雨不足による不作と干ばつで家畜や他の家族、隣人まで失った後、一家は食料や避難所、水を求めてバイドアに避難することを決めた。厳しく危険な道のりを移動しながら、6日後にバイドアに到着。だがそこは、既に50万人もの国内避難民を受け入れている場所だった。キャンプに着いても、生活環境は厳しく、アベイさんはほとんど物質的な支援を受けることはできなかった。

ベイ地域病院のはしか隔離病棟で、病気の娘を抱く母親のアベイさん Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF
ベイ地域病院のはしか隔離病棟で、病気の娘を抱く母親のアベイさん Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF

MSFが支援するバイドアのベイ地域病院。ここに、はしかのため一晩だけ入院した3歳の娘を抱くアベイさんがいた。1週間前、アベイさんの娘は熱を出して食欲がなくなり、鼻水が出るように。バス代が払えないこともあり、アベイさんは、病院に連れて行くほどではないと判断。しかしその翌日、娘は発疹が出て下痢をした。容態が悪化したため、アベイさんは娘を包んで背中におぶり、自宅から遠い病院まで歩き始めた。病院で娘ははしかと診断された。

「私は他にも5人の子どもの世話をしなければなりません」とアベイさん。「夫は下働きなので、日中はいません。子どもが軽い病気になっても、悪化しない限り病院には行きません。病院は遠く、それに何か起きるたびに病院へ行くお金などありません」

人口密集により、はしかは瞬く間に広がる

はしかは、ソマリアのほとんどの地域で大流行しており、一年を通して、あらゆる年齢の子どもたちが感染している。世界保健機関(WHO)によると、今年1~2月の間に、全国18の地域から3500人以上のはしかの疑い例が報告された。

予防接種率の低さや栄養失調とビタミンA欠乏症のまん延を考えると、はしかのリスクは非常に高い。また、紛争や度重なる干ばつによる人道危機と、それによる避難により状況はさらに悪化している。人びとは支援を求めて移動せざるを得ないため、人口が密集する都市部では、はしかが広まる危険性は高くなる。

「1年ほど前は、この病院には毎日のように数人のはしか患者が運ばれてきていました」と話すのはMSFが支援するバイドアのベイ地域病院で働く、医療活動マネジャーのアスマ。長年、はしかの流行対応の最前線で活動してきた。

「はしか患者の多くは、干ばつで避難してきた人たちを受け入れているキャンプの人たちでした。密集した場所で暮らしているため、はしかはあっという間に広まります。ほとんどの子どもたちは呼吸器や目の感染症、肺炎といった重い病気を併発しているので、病気に応じた治療を行うために入院しています」

MSFの医師がはしか患者の診察を行う。はしかは栄養失調を引き起こす可能性があり、栄養失調の子どもははしかに感染しやすくなる Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF
MSFの医師がはしか患者の診察を行う。はしかは栄養失調を引き起こす可能性があり、栄養失調の子どもははしかに感染しやすくなる Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF

重度の栄養失調や合併症のある子どもも

ソマリランド、ラス・アノド

ソマリランドの気候は暑く、体に発疹が出る子どもは多い。干ばつによって長い間避難生活を送るマリヤンさんも、娘のブシュラちゃんの体に発疹と口内炎が出ても心配していなかった。

「時々、夕方に娘を温かいお風呂に入れてあげています。この日は、少し冷たい水に入れたら、その数時間後に高熱を出して、呼吸困難になってしまったのです」

マリヤンさんはMSFが支援するラス・アノド総合病院を知っていたため、大急ぎで娘を病院へ連れて行った。ブシュラちゃんは、はしかと診断され、はしか隔離病棟に入院。治療が効いて、現在は快方に向かっている。

「ようやく、この子も自力で起きられるようになりました」と、マリヤンさんは話す。「今朝はおかゆを食べ、熱も下がってきました。いつ帰るの?と私に聞いてきます。本当によかったです」

ラス・アノド病院のはしか隔離病棟に入院し、治療を受けるブシュラちゃん Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF
ラス・アノド病院のはしか隔離病棟に入院し、治療を受けるブシュラちゃん Ⓒ Dahir Abdullahi/MSF

2022年2月から、ラス・アノド総合病院では周辺地域からのはしか患者を受け入れ、流行が始まって以来、645人の患者を治療した。重度の栄養失調や合併症のある5歳未満の子ども、数人の妊娠中の女性も含まれている。

MSFの活動 成功のカギは信頼関係

MSFは、ソマリアとソマリランドの病院で、はしか患者の管理・隔離病棟の設置や医療物資の提供、医療スタッフの派遣や研修などの支援を行っている。

適切な時期に治療を受けるよう情報を発信してはいるものの、地域の人びとは、病状が悪化するまで受診が遅れるという状況が続いている。病院に行くことで、深刻な病気の疑いがあると見なされ、周囲から孤立する恐れがあるためだ。また、経済的に困窮し、医療機関に通う余裕のない家庭もある。そのため、命に関わるはしかの大流行と、同時に発生している栄養失調やコレラの流行を管理することは非常に困難だ。

医療活動を成功させるためには、地域社会との信頼関係を築くことが欠かせない。MSFは、地域の病院や診療所で医療を提供するとともに、地域からの要望に応じて、移動診療所の設置やはしかの予防接種などに対応。衣食住さえも足りず困窮している人びとに対し、状況に応じた適切な情報提供を行っている。

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