「人道援助活動を続ける必要がある」紛争が激化し、厳しい生活を強いられている人びと

2020年02月19日掲載

物資の配給を待つ避難者 © Igor Barbero/MSF物資の配給を待つ避難者 © Igor Barbero/MSF

ルイス・エギルス © Ivan Muñoz / MSF
ルイス・エギルス © Ivan Muñoz / MSF

紛争が激化しているナイジェリア北東部ボルノ州。2017年9月からナイジェリアで国境なき医師団(MSF)で活動責任者を務めるルイス・エギルスは、「紛争は激化している。現地の状況に改善の兆しは見られない。とりわけ急務で、重大で、明らかなニーズがボルノ州ではただただ放置されている」と指摘。「MSFが、緊急医療・人道援助を届ける活動を継続しなければならないことは確かだ」と語る。北東部で続く、人道危機の現状とは———。

ボルノ州の住民にとって、状況は改善したのでしょうか?

北東部ボルノ州にあるMSFの病院で治療を受ける子どもとその母親=2017年 © Anna Surinyach/MSF北東部ボルノ州にあるMSFの病院で治療を受ける子どもとその母親=2017年 © Anna Surinyach/MSF

「非国家武装勢力とナイジェリア軍との間の紛争は10年を超え、状況は悪化の一途をたどっています。衝突が激化し、ニーズは膨大です。国連の推計によると、これまでに200万人余りが暴力で住まいを追われ、700万人余りが生存を完全に人道援助に頼っている状態だといいます。最も重大な問題は、非国家武装勢力の支配地域で暮らす人びとが、100万人余りおり、人道援助団体もこの地域に立ち入ることが許されず、住民は一切の援助を受けていないことです。紛争に目新しさはないかもしれませんが、状況は非常に深刻であり、それが現在も続いています。MSFのプロジェクトでも、この紛争が人びとにもたらす影響を目のあたりにしています」

ナイジェリアで人道援助を行う際の主な問題は?

「過去何カ月かで、明らかに治安が悪化しました。人道援助団体が人びとに適切な援助を提供することが難しい状況となっています。残念なことに人道援助団体のスタッフの殺害や拉致が増えており、州都マイドゥグリの外ではごく限られた援助しか行われていません。また一方で、ナイジェリアの対テロ法が、人道原則の順守と人道的な活動の実施に深刻な制限を課しているのです」

人びとの主なニーズは?

屋外で夕食の準備をするプルカで避難生活を送る女性たち © Igor Barbero/MSF屋外で夕食の準備をするプルカで避難生活を送る女性たち © Igor Barbero/MSF

「ナイジェリア軍が支配する駐屯地域でも、重要なニーズが満たされていません。重要なニーズに特に当てはまるのが、保健医療、清潔な水、住居、保護です。人びとは多くの場合、生き残るために日々の生活を道援助に頼っています。プルカの町を例に挙げると、紛争ぼっ発後、人口は3倍に増加し、農地が足りません。また、軍が定めた区域の外に出ることも禁止されています。もし出れば、非国家武装勢力に襲われたり、ナイジェリア軍から武装勢力の一員と見なされたりする危険があるのです。そして、軍の駐屯する地域の外には、さらに大きなニーズがあるでしょう。そこでは、紛争が始まって以来、100万人余りが人道援助を受けられずにいます」

プルカやグオゥザのような場所では、弱い立場にある人びとの保護に携わっていますね。

「プロジェクトの一環で、医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療をするアウトリーチ活動を展開しています。アウトリーチ活動では、特に立場が弱く、暴力や搾取に遭いやすかったり、基本的な権利や支援を受けられていなかったりする人びとを見つけ出します。最優先するのは、医療の提供です。またニーズに基づき、児童保護などの適切な支援を提供している組織を探します。これは軍の駐屯地域に、たった1人でたどり着く未成年の場合、特に重要になります。そうした子どもたちはたいていを複数回暴力被害を経験しており、今後も虐待の被害者になる可能性が大きいためです」

性暴力も増えていますか?

「確認できる性暴力被害の事例は増えています。なぜなら、ようやく、被害に遭った人びとに接触できるようになったからです。

性暴力被害者はたいてい、偏見や不安があるため、被害を口にしません。私たちのアウトリーチ・保護活動では、地元民との信頼に基づく関係構築に努めてきました。紛争下の女性と子どもは特に暴力にさらされやすいものですが、現在、MSFが対応する性暴力被害は増えてきており、加害者は紛争の全当事者にわたっています。現状では、これらの虐待を防ぐことや、せめて被害を受けてしまった人が受ける影響を最小限に留めることができるような、保護のメカニズムが全くありません」

経済的資源のないことも、人びとをさらに困窮させているのでしょうか?

ボルノ州バマの町にあるMSFの診療所で、マラリアの治療を受ける女性 © Scott Hamilton/MSFボルノ州バマの町にあるMSFの診療所で、マラリアの治療を受ける女性 © Scott Hamilton/MSF

「もちろんです。食糧、燃料、水などを十分に持たない避難民は、より搾取や虐待に遭いやすい立場に置かれます。先ほどお話ししたように、食糧や薪などの必需品を求めて軍が定めた区域の外に出ることは相当な危険を伴い、実行した人の多くが武装勢力の襲撃に遭っています。

このような危険があり、現状は依然として緊急事態であるにもかかわらず、一部の援助機関が人道援助ではなく、開発援助プログラムを開始しています。安全が確保されていない中ですから、人びとを余計な危険にさらしています。開発ニーズという尺度が加わったことで、食糧配給が部分的に削減された例もあります。そのために、軍が定めた区域外に出て、自力で食糧を調達しようとする人がさらに大幅に増えてしまいます」

軍の駐屯する町に避難して来る人はまだいるのでしょうか?

「プルカやグオゥザのような軍の駐屯地域に来る人びとは今もいますが、非国家武装勢力の支配地域から移動してくる人の数は減っています。現在、比較的多いのは、今回が2回目ないし3回目の移動で、他の軍駐屯地域から移動してきた人びとです。心配なのは、政府の推す施策によって人びとが最低限の行政サービスも得られず、治安の悪い場所に追い返されたり、押しとどめられたりすることです」

ナイジェリアで活動責任者を2年半務めて、現在のボルノ州の人道状況についてどう思いますか。

避難民キャンプで生活する赤ちゃんの健康状態を確かめるMSFスタッフ © Yuna Cho/MSF避難民キャンプで生活する赤ちゃんの健康状態を確かめるMSFスタッフ © Yuna Cho/MSF

「現在の状況に、改善の兆しは見られません。ボルノ州では、最も緊急で、膨大にある明らかなニーズが、ただただ放置されています。紛争が激化しており、緊急医療・人道援助を届けるMSFの活動を、維持しなければならないことは確かです。しかしながら、この危機の深刻さに、ナイジェリア政府と国際機関は適切に対応していません。MSFは人道援助活動を続け、またその必要性を訴えつづけます。現段階では、最も基本的なニーズを満たすこと、人の命を救うことが最優先です。この危機の緊急性を軽視すべきではありません。近年でも類を見ないほど、切迫した事態であることに変わりはないのです」

※本文中に一部修正を加え再掲載いたしました(2020年3月5日)

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