女性たちに迫るがんの脅威──低・中所得国に広がる医療格差、国境なき医師団が世界に訴え

2026年10月05日
国境なき医師団(MSF)が子宮頸がんプロジェクトを運営するマラウイ・ブランタイヤの病院で、診療を待つ女性たち=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR
国境なき医師団(MSF)が子宮頸がんプロジェクトを運営するマラウイ・ブランタイヤの病院で、診療を待つ女性たち=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR

9月24日~26日に香港で開催された「世界がん会議(World Cancer Congress)」に、国境なき医師団(MSF)が初めて登壇し、マリおよびマラウイで実施している「がんケア・プログラム」について発表した。

MSFは、医療資源が限られた環境でも、がんケアの提供は可能であることを示すとともに、予防や早期診断、適切な治療へのアクセスを阻む障壁を取り除くためには、早急な対応が必要だと訴えた。

低・中所得国で深刻化する女性のがん死亡率

MSFが活動する多くの国で、がんは深刻な脅威となっており、特に女性に大きな影響が及んでいる。世界の乳がん、および子宮頸がんによる死亡の約80%は低・中所得国で発生しており、専門家によると、こうした国々のがん患者数は2050年までに150%増加すると推定されている。

「10年前のシリア危機のとき、がんを含む非感染性疾患の治療が突然中断されてしまった避難民の人びとの医療ニーズに、私たちは十分に応えることができませんでした」と、MSFの医療ディレクターを務めるクレア・リュー医師は振り返る。

「しかし今では、複数の国で検診から治療、緩和ケアに至るまで、一貫したがんケアを提供しています。保健省をはじめ、熱意ある医療従事者や地域ネットワーク、がんの専門家と協力しながら活動しています」  

すべての人が公平にがんケアを受けられるよう、これからも取り組んでいきます。

クレア・リュー医師 MSF医療ディレクター

マラウイ・ブランタイヤの病院で、化学療法を受けている女性たち=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR
マラウイ・ブランタイヤの病院で、化学療法を受けている女性たち=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR

マリで示された、がんケアの可能性

マリの首都バマコでは、MSFとパートナー団体によるプログラムを通じて、2021年から2025年の間に2300人を超える女性が、乳がんまたは子宮頸がんの治療を受けた。

2019年から2022年にかけて、MSFとマリ保健省が提供したがん治療の成果を評価した研究では、放射線治療へのアクセス不足や治安上の制約など、治療を続ける上でのさまざまな障壁がある中でも、一定の成果が示された。

例えば現時点では、早期段階で診断された患者の割合は全体の4分の1にとどまったが、その割合は年々改善している。特に子宮頸がんでは、早期診断の割合が2019年の14%から2022年には28%へと倍増した。

また本研究では、対象となった乳がん患者の女性の生存率は、診断後1年で91%、3年で72%であることも明らかになった。一方で、生存の追跡が不明な患者が30%に上ったため、これらの結果は慎重に受け止める必要がある。

放射線治療を受ける患者に治療の説明をするMSFの理学療法士=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR
放射線治療を受ける患者に治療の説明をするMSFの理学療法士=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR

マラウイで広がる包括的ながんケア

マラウイ南部ブランタイヤでは、MSFは世界で2番目に高い子宮頸がんの死亡率への対応に取り組んでいる。化学療法を含めた治療や手術、放射線治療、緩和ケアへのアクセス向上に加え、ヒトパピローマウイルス(HPV)の予防接種や早期検診、前がん病変の治療など予防活動も実施している。

こうした取り組みにより、この地域の子宮頸がん検診の受診率は、2019年の40%から2025年には約60%まで上昇した。

「私たちは、患者が治療を継続できるよう支援することにも力を入れてきました」とマラウイでMSFの健康推進・地域連携マネジャーを務めるナンシー・カムワザは話す。

「健康教育や心のケア、社会的支援を提供するとともに、地域団体やがんのサバイバーとも密接に協力しています」

医薬品や治療方針を整えるだけでは十分ではありません。がん患者には、病気についての分かりやすい情報、心理的および実践的なサポート、そして継続的なケアが必要です。それによって治療を続けやすくなり、病気から生じる困難にも向き合いやすくなります。

ナンシー・カムワザ マラウイのMSF健康推進・地域連携マネジャー

手術を翌日に控えた女性のもとを訪れ、話に耳を傾けるMSFの心理士とソーシャルワーカー=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR
手術を翌日に控えた女性のもとを訪れ、話に耳を傾けるMSFの心理士とソーシャルワーカー=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR

がんケアを、必要とするすべての人に

MSFはまた、医療資源が限られた地域に適した低コストの子宮頸がんの検診、および前がん病変の治療を検証する国際研究「PAVE研究」にも参加している。この研究では、HPV遺伝子型判定と人工知能(AI)による画像評価を組み合わせることで、前がん病変の発見率が向上し、早急な治療が必要なリスクの高い女性をより正確に特定できることが示された。

しかし、検診体制が改善されたとしても、十分とは言えない。その後の確定診断や治療へのアクセスが限られていたり、治療費が高額であったり、医療機関の受け入れ能力が不足していたりすれば、その効果は限定的なものにとどまるからだ。

MSFのがんケアの取り組みは、ぜい弱な環境や人道危機下であっても、適切な設備と医療へのアクセスが確保されれば、予防から診断、治療までの包括的な医療を提供できることを示している。

しかし、医療資源が限られた地域では、高額な治療費に加え、医薬品や専門人材の不足、不安定な調達・供給体制などにより、がんと診断されても必要な治療を受けられない患者が後を絶たない。

「がん患者が必要な治療やケアを受けられないのは、有効な医薬品や診断機器などが存在しないからではありません」と、MSFアクセスのアドボカシー顧問であるザラク・ジャン医師は訴える。

「多くの場合、治療費が高すぎる、必要な時に利用できない、あるいは医療資源が限られた地域の実情に適していないからです。今こそ各国政府と資金提供者は、がん医療への投資を強化し、この格差をなくすための強い政治的な意志を示すべきです」

診断や治療を、医療資源が乏しい地域や人道危機下にある人びとにも、手の届く価格で、現地の状況に合った形で、必要な時に利用できるようにしなければなりません。

ザラク・ジャン医師 MSFアクセス・アドボカシー顧問

マラウイ・ブランタイヤの病院で、MSFが実施するグループセッションに参加する、がんの緩和ケアを受ける女性たち。診断後の偏見や孤立に直面する女性たちにとって、こうした活動は病気による困難に立ち向かうための支えとなっている=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR
マラウイ・ブランタイヤの病院で、MSFが実施するグループセッションに参加する、がんの緩和ケアを受ける女性たち。診断後の偏見や孤立に直面する女性たちにとって、こうした活動は病気による困難に立ち向かうための支えとなっている=2023年10月18日 © DIEGO MENJIBAR

MSFのがんケアの取り組み

過去5年間でMSFは、マラウイ、マリ、パプアニューギニア、ウクライナ、キルギス、エスワティニなどで、がんに関連する活動を展開・支援してきた。

なお、MSFは9月25日、世界がん会議で以下の2つのセッションに登壇した。
・Cancer care in humanitarian crises: from neglect to action(人道危機におけるがんケア──見過ごされてきた課題から行動へ)
・Making cancer care possible: sharing experiences from MSF in humanitarian and low-resource settings(がん医療を実現するために──人道危機下および医療資源が限られた環境におけるMSFの活動)  

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