忘れられた危機を生きる人びとに、希望を── モザンビーク、活動の一部を現地当局に移譲

2022年05月16日
カーボ・デルガード州にある2つの避難民キャンプでは、心のケアのプログラムも提供 Ⓒ MSF/Amanda Bergman
カーボ・デルガード州にある2つの避難民キャンプでは、心のケアのプログラムも提供 Ⓒ MSF/Amanda Bergman

モザンビーク北部に位置するカーボ・デルガード州。2017年に始まった紛争は、人びとの大規模な移動を伴う人道危機を引き起こし、同州のメトゥゲは多くの国内避難民を受け入れている。
 
国境なき医師団(MSF)は、2020年半ばから2022年3月まで、メトゥゲで医療・人道援助活動を展開。現在、MSFはその活動をモザンビーク保健省に移譲し、緊急援助のニーズが高い同州のマコミアで活動を継続している。
 
メトゥゲのプロジェクトの成果と今後の戦略について、MSFの緊急対応プロジェクトコーディネーター、イレーネ・ウエルタスに聞いた。

QなぜMSFはメトゥゲでプロジェクトを始めたのですか?

ここカーボ・デルガード州の紛争は、大きな人道危機を引き起こしています。国際移住機関(IOM)によると、この危機で80万人近くが避難しましたが、メトゥゲはその多くを受け入れている地区の一つなのです。

メトゥゲの避難民キャンプ Ⓒ MSF
メトゥゲの避難民キャンプ Ⓒ MSF

2020年3月、MSFは治安の悪化によりマコミアから避難し、拠点を州都のペンバ市へ移して水・衛生活動を開始しました。やがて、紛争から逃れてきた人たちが、着の身着のままに近い状態でペンバやメトゥゲに押し寄せてきたのです。

紛争の被害を受けた人びと、暴力を目にし家を破壊された人びとに出会いました。大勢の人が家族と離れ離れになり、基礎医療や安全な飲み水もない状態でした

2021年9月からは、メトゥゲで水・衛生活動を開始するとともに、新たに到着した人びとを支援するために移動診療を開始しました。

現在でもメトゥゲは、ペンバ以外ではカーボ・デルガード州で最大の避難先です。IOMによると、危機以前の人口はわずか7万人だったこの地区に、12万人以上の避難民が到着したのです。

Qメトゥゲではどのような援助活動を行いましたか?

最大の成功は、人道危機に際してすぐに対応して、避難している人びとが基礎医療を受けられるようにしたことです。主な避難民キャンプで移動診療と常設の診療所を運営し、安全な水と排水設備を利用できるようにしました。

MSFの移動診療所で診察を待つ患者たち Ⓒ MSF/Amanda Furtado Bergman
MSFの移動診療所で診察を待つ患者たち Ⓒ MSF/Amanda Furtado Bergman

子どもから大人まで幅広く対応する援助活動を行えたことも成果の一つです。女性には産前健診や家族計画のほか、心のケアも受けられるようにしました。それは、ショッキングな出来事に遭遇して心的外傷を負った人びとにとって非常に大切なことです。

心のケアの一環として、子どもたちと交流するMSFスタッフ Ⓒ Edmar Resta/MSF
心のケアの一環として、子どもたちと交流するMSFスタッフ Ⓒ Edmar Resta/MSF

また、患者の搬送体制をできる限り改善し、井戸の修復や既存の水道網の拡張など、安全な水の供給にも力を注ぎました。医療施設の改善や、この地区で活動を始めた他の団体とも協力しました。地域の医療を持続可能にするためには不可欠なことでした。

2021年1月以降、10万人以上の患者を診療し、そのうち2万人以上がマラリア、3万人近くが呼吸器疾患、約1万人が下痢であることが確認されました。また、5000人以上の女性に対し、リプロダクティブ・ヘルスケア(性と生殖に関する医療)や家族計画、産前ケアなどの支援も行いました。

心のケアのチームから報告された症状で、一番多かったのは「不安」です。住む場所を追われ、家や持ち物を壊され、家族と離れ離れになった人たちに対し、MSFの心理療法士が行ったカウンセリングは1000回に達しています。

会話サークルや演劇、サッカーの試合、ダンス、歌などを通じて心のケアを行う Ⓒ MSF/Amanda Bergman
会話サークルや演劇、サッカーの試合、ダンス、歌などを通じて心のケアを行う Ⓒ MSF/Amanda Bergman
Qなぜいま、MSFはメトゥゲの活動をモザンビーク保健省に移譲するのですか?

2021年の終わりには、メトゥゲは他団体から多くの支援を受けるようになりました。少なくとも6つの健康関連団体が現地に入っており、中には開発プロジェクトに重点を置いている団体もありました。

そのため、MSFは2022年3月末まで滞在し、この地域の風土病である下痢の流行に備えて複数の診療所で用意を整え、現在はモザンビーク保健省にこの活動を引き渡しています。これにより、メトゥゲの避難民キャンプで暮らす人びとは、これからも無理なく診療を受けることができます。

今後MSFは、最も医療・人道援助のニーズの高いところにリソースを投入していきます。特に、医療や安全な飲料水が手に入らないマコミアで、緊急に活動の規模を拡大しているところです。

Qマコミアで活動を拡大するのはなぜですか?

マコミアはカーボ・デルガード州で最も紛争被害の大きかった地区の一つです。この町にはまだ多くの人びとが避難することなく残っていて、他に深刻な被害を受けた村からも多くの避難民がやって来ます。

治安の悪化により人道支援が著しく欠如しているため、何千人もの人びとが茂みに隠れたり、スラム地区に集まっており、医療サービスや清潔な水、その他の基本的な生活必需品が利用できないまましのいでいます。

マコミアの住民に届く人道支援のレベルは、住民の基本的なニーズに全く追いついていないのです

MSFは2020年3月にこの町から避難し、その後は短期間の訪問で支援を続けてきました。現在、町の治安は改善しており、活動の規模を拡大しています。目標は、提供するサービスを増やすこと。2カ所の医療施設、水・衛生活動、移動診療の実施に重点を置き、最も弱い立場にある人びとに援助を届けようとしています。
 
これは、人道危機の拡大を防ぐためだけでなく、忘れられた危機の中で必死に生きようとしている数十万もの人びとに、人間性と希望をもたらすために必要なことなのです。

メトゥゲで設置された井戸から水をくむ子どもたち Ⓒ MSF/Amanda Furtado Bergman
メトゥゲで設置された井戸から水をくむ子どもたち Ⓒ MSF/Amanda Furtado Bergman

MSFは1984年にモザンビークで活動を開始。30年以上にわたって結核を含むHIVの日和見感染症、栄養失調、マラリア、自然災害、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、紛争で故郷を追われた人びとへのケアなど、医療・人道上の緊急事態に対応してきた。
 
カーボ・デルガード州では、メトゥゲ、マコミア、パルマでもプロジェクトを運営し、緊急事態に対応。現地保健当局や他団体と協力しながら、増え続ける避難民と地域住民の両方を対象に、医療不足を解消するための支援を行っている。

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